13
きょとんとして、司の顔を見ていると、彼の拳が軽くわたしの額を叩く。
「なによ?!」
「だから、守に……」
「は? まもるくんって、だれよ」
疑問の瞳で、司に訊く。
「あぁそっか。ほら、朝、お前が用事を頼んだだろ。ちはるだかって子に、なんとかって言ってほしいとか」
言われて、わたしはハッと気づく。スポーツマン顔の土岐島くんのことを。
ふーん、あの人、まもるくんって言うんだ。
あまり、土岐島くんのイメージに合わないよね。
健康の健の字で『たける』って名前のほうがいいのに。……あ、関係ないか。
「なに、ぼーっとしてんだよ。早く、帰ろうぜ」
「はぁ、わかったけど。元はと言えば、司が悪いでしょ。待ち合わせの時間に来ないんだもん」
「そうだな。悪かったよ。だけど、わがままを言うなら、おれに言えよな」
司は、わたしの手を痛くない程度に握った。
暖かーい。司の手のひらって、すこしゴツイけど、それがまたいいんだよね。
司の手の熱が、わたしの手に移動してくると、なぜかキスしたくなってしまった。
だけど、土岐島くんて……。
「わかってるって。ねぇ、土岐島くんてかっこい……あ、ううん。なんでもない」
これ以上言うと、やばいと思って慌てて止めた。
途端に、ムッとした表情になり、司は握っていた手に、思いっきり力を入れる。
「い、痛いよ。ばか」
一向に離さない手を、わたしはムリヤリ引き裂こうとする。
「いいかげんに、離してよっ」
司の手はびくともしなかった。
「やだね」
プイッと、司は横を向いた。
「司ってばぁ」
甘い声を出して、彼を見つめる。
「あいつのほうが、いいのかよ!」
げっ。やっぱ止めるのが遅かった。しっかり聞こえちゃってる。
司は軟派っぽいけど、かなりの独占欲がある。
恥ずいからあまり言いたくないけど、わたしが悪いし。しかたないか。
大声で怒鳴った彼の顔を、わたしは再度見た。
「誤解しないでよ、わたしは司一筋」
「……ほんとだな?」
疑いのまなざしで、司はわたしを見つめる。
「うん。司のほうが、いい男だよ」
「そ、そうか。そうだよな」
ひとりで納得すると、司はわたしの手を擦り、それからやさしく握り直した。
……男の子とつきあう期間は、だいたい、三ヶ月が限度だった。
相手がわたしのわがままに嫌気がさす時期だ、といってもいいのかもしれない。
だけど、司は違った。つきあって半年以上になっても、相変わらずわたしのわがままを聞いてくれた。
……わたしは、司ならライバルが現れたとしても、ずっと自分のことを愛してくれると思っていた。
もしかしたら、いまでも司はわたしのことを愛しているんじゃないかと、ばかげたことを考えてしまう。
そのくらい、わたしにとって、彼の存在は大きい……。




