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心の鍵~since2003~  作者: 那結多こゆり
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「ま、待って! あ、あの……今日、友達に早く来てねって言われているの」

「え?! い、いきなり言われても……」


 どもった声が、土岐島くんから返ってきた。


「ねぇ、お願いしてもいいかな。わたしの友達が、たぶん校門の近くにいると思うんだ。その子に伝えてほしいの」


 驚いた顔をし、土岐島くんは困るよ、と困惑した表情に変えた。


 どうして、だめなんだろ。学校が近いんだもの。そのくらい、してくれてもいいじゃない。


「お願ーい。わたし、司を待ってなくちゃならないし。頼めるの、土岐島くんしかいないから、ね?」


 両手を合わせ、拝むようなポーズで、わたしは土岐島くんを見る。

 彼は頭の後ろに手を回し、困ったな、という顔をしたままだった。


 わたしの言うこと、聞いてくれなくちゃ、男じゃないわ。

 こういうときって、ふつうに、いいよって言ってくれるでしょ?!


 土岐島くんは、しばらく黙ったままだった。

 それから、頭の後ろに回していた右手を、ゆっくりと下ろした。


「……わかったよ」


 ため息まじりに、土岐島くんは答えた。しかし、その顔はいやそうではなく、むしろうれしそうだった。


「ありがとう。あのね、一恵がまだ司のことを待ってるから、先に教室に行っててって、そう伝えてくれる?」


 智春は約束を破ると猛獣みたいに怒りを露にする子。

 つりあがった目をさらにつりあげて睨みつけ、息しなよって、心配してしまうくらいの口調で、文句を言うので、こちらとしてもあまり怒らせたくない。


「わかった。ちはるって子に、そう言えばいいんだね」

「うん。髪は肩にかかる程度で、すこしぽっちゃりとしている体型かな。目がかなりつり上がっているから、すぐにわかるわ」


「あぁ」


 そう言うと、土岐島くんはわたしから離れ、階段を上って行く。

 よろしくねー、と大声で彼に声を送ると、土岐島くんは後ろを振り返り、コクンと頷く。

 それから、踵を返し、また足を動かした。

 わたしは、土岐島くんを見送りながら、安堵のため息をついた。


 ――放課後。正門の前に、見なれた顔があった。


「一恵。お前、守に迷惑かけるなよ」


 しようがないなあ、という顔つきで司はわたしに声をかけてきた。


 ひ、ひどっ。朝、だれのせいで遅刻したと思ってるのよ。

 先生に何度も注意されて、めっちゃいやな思いをしたのにぃ。

 ……って、まもる……くんて、だれ? わたし、そんな人に迷惑なんて、かけた覚えはない。

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