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「ま、待って! あ、あの……今日、友達に早く来てねって言われているの」
「え?! い、いきなり言われても……」
どもった声が、土岐島くんから返ってきた。
「ねぇ、お願いしてもいいかな。わたしの友達が、たぶん校門の近くにいると思うんだ。その子に伝えてほしいの」
驚いた顔をし、土岐島くんは困るよ、と困惑した表情に変えた。
どうして、だめなんだろ。学校が近いんだもの。そのくらい、してくれてもいいじゃない。
「お願ーい。わたし、司を待ってなくちゃならないし。頼めるの、土岐島くんしかいないから、ね?」
両手を合わせ、拝むようなポーズで、わたしは土岐島くんを見る。
彼は頭の後ろに手を回し、困ったな、という顔をしたままだった。
わたしの言うこと、聞いてくれなくちゃ、男じゃないわ。
こういうときって、ふつうに、いいよって言ってくれるでしょ?!
土岐島くんは、しばらく黙ったままだった。
それから、頭の後ろに回していた右手を、ゆっくりと下ろした。
「……わかったよ」
ため息まじりに、土岐島くんは答えた。しかし、その顔はいやそうではなく、むしろうれしそうだった。
「ありがとう。あのね、一恵がまだ司のことを待ってるから、先に教室に行っててって、そう伝えてくれる?」
智春は約束を破ると猛獣みたいに怒りを露にする子。
つりあがった目をさらにつりあげて睨みつけ、息しなよって、心配してしまうくらいの口調で、文句を言うので、こちらとしてもあまり怒らせたくない。
「わかった。ちはるって子に、そう言えばいいんだね」
「うん。髪は肩にかかる程度で、すこしぽっちゃりとしている体型かな。目がかなりつり上がっているから、すぐにわかるわ」
「あぁ」
そう言うと、土岐島くんはわたしから離れ、階段を上って行く。
よろしくねー、と大声で彼に声を送ると、土岐島くんは後ろを振り返り、コクンと頷く。
それから、踵を返し、また足を動かした。
わたしは、土岐島くんを見送りながら、安堵のため息をついた。
――放課後。正門の前に、見なれた顔があった。
「一恵。お前、守に迷惑かけるなよ」
しようがないなあ、という顔つきで司はわたしに声をかけてきた。
ひ、ひどっ。朝、だれのせいで遅刻したと思ってるのよ。
先生に何度も注意されて、めっちゃいやな思いをしたのにぃ。
……って、まもる……くんて、だれ? わたし、そんな人に迷惑なんて、かけた覚えはない。




