唸れ! アッパーカット参
日も高いのに、狂父降臨♪
だって、今日はお休みなんだモン!
……魔窟、青春高校……
放課後の校門前に清純そうな女子が一人。あの純情そうな制服は、お嬢様学校で有名な悪襄学のもの……
いかん! 闘う力も持たぬものが、この結界に足を踏み入れてはならん!
チャラ男が一人、彼女を見つけて歩み寄った。
「ンだよ、こんなところまで来るんじゃねえよ。」
「だって……」
「どれだけ待ってたんだよ。疲れただろう? どこか休めるところに……」
……休めるところ? いかん! やつめ、あの女を『ホテル』に連れてゆくつもりだな!
『ホテル』、それは悪魔召還のための異空間。連れ込まれた女は男の性欲によって喰らいつくされると、師匠から聞いている。
彼女のような闘う力を持たぬ、哀れなイケニエを救うことこそわが使命!
飛び出そうとした俺の横で、ぽそっと呪文を唱える声が聞こえた。
「……リア充、爆発しろ。」
ぱしゃっと記録機のシャッター音。
「あの男は二股をかけている。この写真をネットにばら撒けば、修羅場は間違いナシだ。」
白っぽく太った男が、俺ににやりと笑いかける。
「リア充どもを滅ぼしたければ、頭も必要ってコトだよ、番長さん。」
これが俺の一生の相棒となる詠唱者、『タナカ』との出会いだった……
「タナカ、かっこいい。」
「そうか? あいつは所詮、ゴウのサポートじゃねえか。男ならやっぱり、拳で闘わねぇとな。」
スライムとユリは馬車の中で絵草子を読んでいる。傍らにマーオヌ(薄く切ったジャガイモを油で揚げた菓子)を置いて、ぼりぼりと食べながらだらしなく、ごろごろとくつろいでいた。
「タナカ、スラスラ、似ている。」
「どこが!」
「かっこいい、好き。」
スライムの外皮がぱっと赤くなる。ゆりもぽ、と頬を染めた。
「違う、好き。『好感』、好き……」
「そそそ、そっか……」
ぱっと視線を外して、もじもじとする二人……
パソコンのこちら側で、ぽそりと呪文が呟かれた。
「バカップル、滅すべし。」
キーを打ち込もうと大きく振り上げられた両手を、ヤヲが慌てて押さえ込む。
「あっ、作者? 何をする気ですか!」
「放せ、ヤヲ! 俺はこのバカップルに天誅を与えねばならん!」
「勘弁してください、本編が続かなくなるでしょ!」
「だって、このままではお前が……お前があまりに不憫で……」
「私は本当に、ユリ様を妹のように思っているだけです。スラスラがお相手なら、寧ろ好ましいと思いますよ。」
「違う、そんなことじゃない! お前だけ縁遠いのが不憫で……」
「……ほう、私は縁遠いのですか……」
巨人斬が、すらりと鞘から放たれる。
「それって、あなた次第ですよねぇ。」
「ははははいいいいい?」
「きりきりと本編を書きなさい! そして、私が縁遠いのも何とかしなさいっ!」
「ヤヲがグレたあああああああ!」
ま、作者的にはヤヲのお相手って、もう決めてあるんですけど。間違いなく、読者様の予想を裏切らないあの彼女が、です。