こんなアイテム、創ってみたよ。
人間の隊員たちは、ときどきどこからか面白いものを見つけてくる。
さて、今日は……
「迎夢?」
スライムは目の前に置かれた小さな壷を検めた。
「夢魔が念を込めた壷だ。枕元において寝ると、夢を書き換え、擬似的な人生経験ができる代物だぜ。しかもこれ、恋愛シュミレーション迎夢だぜ。」
「恋愛趣味……?」
「まあいいから、暇つぶしにでもやってみろよ。」
こうしてスライムは、その小さな壷を枕元に置いて眠ることになった。
「ううう、ここはもう夢の中……なのか?」
教壇に立つスライム。そして席についているのは、教室いっぱいの美少女キャラたち。
「なるほど、異世界モノにありがちな、ガクエン設定ってヤツだな。」
教室を見回した彼は、一番前の席に座る見慣れた銀髪に目を留めた。
「初等部の教室はここじゃねぇぞ。え~と、ユリに似た人?」
「ユリ、設定、飛び級。」
「そういえば一緒に寝ていたんだったあああああ! しかも三○院ナ○パターン! あの鬼畜、フラグすら立てさせない気かっ!」
訳のわからない八つ当たりをひとしきり吐き出して、彼は落ち着きを取り戻す。
「え~、では出席をとるぞ……」
黒いボール紙の表紙をめくろうとしたそのとき、がらりと扉が開いた。
「まだですか、もう授業は始まっていますよ。」
「ヤヲ!」
「発音が違います。私の名前は『やお』。英語科の矢尾です。」
「夢の特性上、現実の知り合いとキャラがリンクするとは聞いていたが、それにしてもそっくりだな。」
「何を訳のわからない……」
ふふんと、少し小ばかにしたようなイケメンフェイスに、教室中の女子がばたばたと倒れる。
「そうか、恋のライバルキャラってことだな……」
ゲームは非常に簡単な、幾つかの選択肢から成る物だった。
「放課後の見回り~? ンなモン、常識で言ったら一緒に行くのは……」
ぴっ!
矢尾>見回りぐらい、一人で行けないんですか。仕方の無い人ですね(きゅん。)
「んんん? きゅん、て何の音だ?」
矢尾>見回り、終わりましたよ。
「ああ、おつかれ。」
矢尾>そっけないですね(きゅん。)
「だから、きゅん、て何の音だよっ!」
矢尾>今日は体育祭。二人三脚の相手を選んでください。
「えええ? ユリでは体格的に不利だな。他の女子も、体力差を考えると勝ちを取りにはいけない。戦略的に考えるなら、お前だ、矢尾。」
矢尾>……(きゅん。)
「絶対、勝つぞ。」
矢尾>アツイ人ですね(きゅん、きゅん。)
夕暮れの教室で、ユリが帰り支度をしていた。
「もう遅いぞ。早く帰れ。」
「外、暗い。」
「あ? ああ、そうだな。」
>そのまま帰す >送っていく >夕飯をおごる
「こんなところにも選択肢かよ! だめだ、夕飯なんかおごったら、ますます遅くなる。帰らせることが最優先だが……」
俯き加減の銀髪に、スライムは一瞬、思い惑う。
「……あと三十分、待てるか? 急いで仕事をおわらせるから。」
「待つ!」
そのやり取りを、ドアの影で矢尾が聞いていた……
差出人の無い手紙で、放課後の教室に呼び出されたスライムはだらりと机に腰をかけて待っている。
「ガクエン生活ってのも悪くねえな。体育祭に文化祭、夏合宿なんていうのもあったな。生徒達も楽しんでくれたし、ガクセイとしての規律もちゃんと守ってくれる。俺って案外、教師向きなのかもな。」
からからと小気味のよい音がして、ドアが開いた。
「スラスラ先生……待っていてくれたんですね。」
「矢尾、手紙はお前からだったのか。」
「呼び出しに応じてくれたということは、そういうことだと思っても……いいですよね?」
「そういうこと? 待て、なんでそんなに近づく!」
「鈍い人ですね。でも、そこが……」
「待て、待て待て! 待てええええええ!」
スライムが飛び起きると、既に彼の上で目を覚ましていたユリが小さな溜息をついた。「びーえる。」
「かんべんしてくれえええええ!」
それからしばらくの間、彼がヤヲの半径1メートル以内に近づくことは、無かった……