『こぼれ話』と書いて、本編次回予告!(『恋する男と書いて』・・・編)
細いが粘りのある鋼で作られたスポークはほどよいクッションで、軽快な轍を刻んでいた。
心地よく揺れる馬車の中で、ユリはウィプスに照らされて分厚い本のページを繰っている。傍らからひょいと覗き込んだスライムが、驚きの声をあげた。
「絵草子じゃない! 珍しいな、辞書なんか読んでるのは。」
「キザ臭い。」
「どんな匂いだよ。作者の匂いかっつーの。」
「ピザ臭い?」
「あー、あー、もう! 『キナ臭い』な。もともとは紙や布がこげる匂いのことを言ったんだ。つまりは火事場や戦場の匂いだな。そこから徐々に、『何か事件が起こりそうな、怪しげな』みたいな使われ方をするようになった言葉だ。」
「……長い。」
「要するに、何か事件が起こりますよ~って言う伏線だ。」
「ヤヲ、新装備。」
「おお、『巨人斬』な。」
「フルチ……」
「フルンティングっ! 女の子がソレを言うなあああああ!」
「ヤヲ、強い。」
「うううん、どうかなあ? もともとのフルンティングってのは、古代イングランドの叙事詩『ベオウルフ』に登場する剣でな、巨人グレンデルを仕留め、次いでその仇をとりにきたグレンデルの母親との戦いに挑む主人公のベオウルフに、フロースガール王の廷臣ウンフェルスが貸与したものだ。古より伝来する名剣で、刀身は血をすするごとに堅固となるという代物だが、肝心のグレンデルの母親には一切通用しなかった。
ベオウルフは、洞窟内で見つけたヨートゥンの剣を使ってグレンデルの母親を倒し、フルンティングは結局、見せ場無しという……」
「ZZZZZZZZ……」
「こいつ、俺が話し出すと良く寝るよなぁ。」
果たして、ヤヲの見せ場はあるのか? それとも、彼はやはりフルンティング?
お楽しみにっ!
そりゃぁ寝るよね。