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遅れ咲き

ヒセお母さん編です♪

 リア充王の昼食に乱入した子泣き女(バンシ)ーが明るく笑う。

「お父ちゃんが出来るかも知れんのや」

 この娘が昼食中に乱入してくるのはいつものことだ。親子の今後を心配したスライムはこの娘が懐いているのをいいことに、衛兵たちに目こぼしを命じている。

「再婚か……お前は反対したりしねぇのか?」

「反対する理由がどこにあるん? ここまで一人でウチを育ててくれたお母ちゃんには幸せになる権利があるはずや」

「さばけてんなぁ」

「それに、ウチもその男のこと、気に入ってん。あんな優しいお父ちゃんなら御の字や」

「随分といい男を捕まえたんだな」

「知らんのか? あんたンとこのケンタウロスや」

 スライムが飲みかけのお茶をぶばっと噴いた。


 街角で彼を待つヒセは、自分の服装を気にしていた。

(少し派手だったやろか)

 若い子のように太もも丸出しのスカートをはく勇気はない。それでも、少しでも年下の彼に釣り合う様にと、明るい花柄など選んだのだが……道行く人の視線がこちらに向けられているような気がして、身が縮む。

 かぽっ、かぽっと足早なひづめの音に振り向けば、三バカトリオの一角、人のいい半馬人ケンタウロスは駆け足の呼吸を整えているところであった。

「すみません。遅くなりました……」

「ほんまにや! 何しとってん!」

「仕事が……ちょっとごたついて」

「あんまし遅いから、帰ったろうかと思っとってん」

 拗ねたふくれっつらをちらりと見下ろして、ケンタウロスはふっと笑う。

 彼女が本当に帰ってしまったことなど一度も無い。人が良くて要領も悪い彼が、すんなりと仕事を切り上げられないのを良く知っているからだ。

「次は、もう待たへんからねっ!」

「ヒセさんって本当に……」

「なんや」

「可愛い」

「はあああああああ?」

 ばっ、ばっと両手を振り回して、ヒセが取り乱す。

「あああああああんた、何言っとんの、こんな、オバサンにむかって!」

「いや、でも……」

 魔族と人間は年の取りようが違うとは言え、子持ちであるヒセは確かにオバサンだろう。だが彼の目に映るのは、照れて駄々をこねる可愛らしい年上の女だ。

「何かおいしいモン食べさせてな。それでチャラにしたるわ」

「二人だけで? それは、ムキクちゃんに申し訳ないなぁ」

 さっさと歩き始めた彼女の後ろを、ケンタウロスがかぽこぽと追う。

「ムキクには何かお土産でも買ってったるわ。だいたい、今日は二人っきりで出かけて来いって、あの子が……」

 振り向くと、そこに彼はいなかった。


 見知らぬサイクロプスによって路地裏に引きずり込まれたケンタウロスは、激しく足掻いていた。しかし二周りほども大きな相手に顎を捕らえられ、自慢の後ろ足も掴まれてしまっては抵抗も空しい。

「そんなに暴れるなよ」

 ずるりと形を崩した巨体は見慣れたスライムへと姿を変える。

 彼は呆れたようにため息をついた。

「何やってんだよ」

「何って……デート」

「お前さあ……ああいうタイプの女は遊びで手ぇ出しちゃいけねぇよ」

 ケンタウロスが明らかに不服そうな顔を見せた。

「遊びじゃねえよ」

「へえ、遊びじゃないんだ」

 今日のスライムはちょっと意地悪だ。教え諭すようにぷるんと伸び上がる。

「本気だって言うのか? 相手は子持ちだぞ」

「それも良く心得ている」

「いいや、解かってないね。ガキを持つってのは大変なことだ。責任とか、扶養義務だけの問題じゃねえぞ」

「それは……不安だってある……けど……」

 ケンタウロスは口ごもりながらも顔を上げた。

「彼女はムキクちゃんを何よりも大事にしている。だから、俺も彼女の大事なものを一緒に守ってやりたい……じゃ、だめかなあ……」

「もっと自信を持てよ」

 スライムは体表に笑顔を刻んだ。物陰に隠れていたムキクが駆け出し、その男にしがみつく。

「それでええに……決まってるやないか!」

「えええええ? なんで?」

「お母ちゃんを……幸せにしたってな、お父ちゃん!」

「え? ええ?」

 スライムはムキクをべりっと引き剥がし、ケンタウロスを往来に突き出した。

「追けたりして悪かったけどな。俺はお前の幸せも、願ってるんだぞ……」


 人ごみに叩き込まれて立ち尽くすケンタウロスの胸元に、何かがしがみついた。

「!」

 反射的に引き寄せてしまうほど馴染んだ感触……

「あんた、どこに行っとってん!」

 柔らかな体が汗ばみ、髪が乱れているのはどれほどを走り回ったのか……それが亡くした夫ではなく、自分を探してなのだ。

「ごめん、ヒセさん……」

「ごめんで済むかいな! ウチがどれだけ心配したと思ってん!」

「だから……ごめん」

 ケンタウロスは両腕に力を込めて、誠の心だけを伝えようとした。

「俺は要領いいことが出来るわけじゃないし、戦いだって馬鹿みたいに強いわけじゃない。これからも心配ばっかりかけると思う。それでも……傍に居てほしい」

「あんた……ウチでええの?」

「ヒセさんこそ、俺でいい?」

「ええに決まってるやないか!」

 先ほどのムキクと同じ言葉、口調にケンタウロスは声をあげて笑う。

「親子だなぁ」

「なにがや?」

「ううん。それよりヒセさん、花嫁衣裳はどんなのがいい?」

「ああああああんたは阿呆か? こんなオバサンに花嫁衣裳とか! 何考えとるん!」

「やっぱ、ヒセさん、可愛い」

 往来のど真ん中でのいきなりのキスに、ヒセが両手を振り回して真っ赤になる。

「今度そういう恥ずかしいことしたら、怒るからねっ!」

 恥らったような、怒ったような、少し微笑みを含んだその表情……ケンタウロスはもう一度キスしようと、その可愛らしい女性を強く抱き寄せた。


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