リア充王 爆殺予告
本編の感想に犯罪予告が届いたので、返り討ち。
首謀者に告ぐ。飲み物、噴出し注意デス。
世界を救った英雄の一人であり、この国の王であるスライムの結婚式だ。国を挙げての慶事にヒザリの町は浮かれている。
目抜きの商店は軒にちょうちんを吊るし、沿道はパレードを見物しようと集まった老若男女で賑わっていた。
そんな人垣の中を、町娘風の装いに身を包んだミョネが泳ぐように進む。質素な木綿のブラウスの胸元は大きく膨らみ、男たちの視線を奪うが、彼女が目指す先にいる金髪が放つ陽光に、誰もが黙り込むしかなかった。
「ミョネ」
微笑みながら腕を差し出す『カレシ』と、いかにも甘えたようにその腕に飛び込む『カノジョ』が王直近の隠密部隊だとは、誰が気づくだろうか。
二人はこの祭りの警備の中でも特殊な立ち位置……敵を釣り上げるための『エサ』である。
「どうですか、やつらの動きは」
抱きしめた巨乳美女に囁く姿は、傍目に見れば愛の言葉を交わしているようにも見えるだろう。
「ああ、さっき報告があった。アッチも最後の大詰めってヤツらしい。居場所も解っているさ」
この国祭に先立って、ある組織からの犯行声明が送りつけられてきた。
――キャンサー・U……世界的に有名なリア充爆破テロ組織からだ。
王にまで上り詰め、心底惚れぬいたノーニウィヨの『聖王』を娶るリア充王をつけ狙う組織は少なくない。そんなテロ組織の中でも最悪、最大、最強の冠を有するこの組織からの挑戦はスライムたちを震撼させた。
もちろん、これはスライムが乗り越えなくてはならない試練だ。
だが国賓を守り、そして愛する妻を守るに一人では手余しすぎる。スライムは全兵力を注いで沿道の警備にあてると同時に、ごく少数の、腹からの信頼を預けられる者だけで隠密的行動のための部隊を編成した。
それは旅の苦楽を共にした『親友』であったはずなのだが……
大通りを僅かに逸れ、辺りを憚りながら朽ちかけたしもた屋の扉を押す二つの影。
他でもない、あのケンタウロスと隊員Aだ。
「よく来たね、同志」
狭い建物の中は集められた男たちが吐き出した妬みの瘴気で淀んでいる。
入り口に立っていた蟹人間が巨大なハサミ手を差し出して二人を出迎えた。
「ああ、お目にかかるのは初めてだね。おいらが『キャンサー・U』だ」
それは海の魔族に相応しい、人型の体を重厚にして堅牢な赤い殻で覆った生き物であった。
「リア充、爆殺!」
ぴしっと胸に手を当て、合言葉を叫ぶ姿に満足したのか萌えたのか……イビル・クラブは深く頷く。
「作戦は伝えてある通り。第一部隊はAポイントの警備を殲滅する。第二部隊は民間人を制圧、いざとなったら肉盾として使ってやろう。そして、爆裂魔法の使えるものは人垣の最前列で待機……さて、肝心なのは君達に頼んだ警備の配置図だけど、持ってきた?」
「ああ、っと……ちょっと待ってね」
隊員Aがニコニコしながら懐に手を差し入れた。
しかし、ずるりと取り出されたそれは、艶消した黒色が鈍く光る自動小銃。ガチャリと無機質な操作音が響く。
「下手に動かない方がいいぞ。うちの狙撃手は動くものを撃ち抜く性質があるからな」
脅しをかけながら、ケンタウロスはイビル・クラブのハサミ手をひねり上げようとする。
「……だましたなああああああっ!」
刹那の出来事だった。
振り上げられた巨大なハサミが大柄なケンタウロスを易々と吹き飛ばす。倒れこむ彼の下敷きになった数人の男が悲鳴を上げた。
「お前達はリア充王が憎くは無いのかっ!」
さらに振り回されるハサミ手をかわして、隊員Aは肩先で銃口を矯める。
「お前には渡さない。あいつは俺たちの獲物だ」
螺旋を刻まれながら放たれた弾丸は、しかし、堅い殻の表面を鳴らして弾かれる。
「あいつを爆殺するのは、この俺だああああああああ!」
がばっと立ち上がったケンタウロスが、四足を踏み切った。その勢いと体重の全てを拳に乗せてイビル・クラブに叩き込む。
「ふん、近距離戦を挑むとは、愚かだ」
体の前で盾のように構えたハサミが、その攻撃を受け止めた。
攻撃に転じたハサミは大きく開き、ケンタウロスの胴を裂こうと襲い掛かる。
死神の鎌を思わせる禍い形状は、過たずに柔らかな腹肉に……食い込もうとして止まった。
「あ……あいたたたたたたた、持病が……」
キャンサー・Uは腰を押さえてへたり込む。
「病弱だって噂は本当だったのか」
「ここまでだな」
ざっと立ちはだかる二人に、その蟹はぷくぷくといくつかの泡を吐いて見せた。
「ふん、まだだ……海兄貴っ!」
奥から駆け出してきた三人の魔族はイビル・クラブを守るようにファイティングポーズをとる。
その影で執事らしき割烹着姿の男に助けられ、よろよろと立ち上がった蟹は、ハサミを振って強がった。
「リア充王に伝えろ! おいら、びー、ばっくだ!」
「あ、待てっ!」
後を追おうと伸ばしたケンタウロスの手を、海兄貴ががっちりと掴んだ。人差し指を立てて「ちっ、ちっ、ち」と横に振る。
「おい、やばいな」
「ああ、相手が悪すぎる」
海に鍛えられた屈強な戦士は一人でも十分に手ごわい相手だというのに、それが三人とは……
「何回ぐらい転生トラックに轢かれれば勝てるかな?」
「なんだそりゃ」
「お手軽に強くなれるマジックアイテムだ」
「ここにはそんなものは無いぞ」
「そうだな、それでも勝たなければ、あのむかつくリア充王をぶん殴れないわけだ」
じり、と迫る海兄貴に向かって二人が身構えたその瞬間、入り口のドアが蹴破られた。
「そこまでです! 大人しく縛につきなさい!」
黄金の髪が揺れながら入ってくる。
その安堵と信頼感に、二人の膝から力が抜けた。
夜もふけて、式次第を全てこなしたスライムは、警備に当たったものたちを一室に集めてささやかな感謝の宴を催した。
だが、その乾杯の言葉は誰が決めたものか、幸せの絶頂にいる王を祝うものだった。
「リア充、爆発しろ~!」
「やめてくれよ、縁起でもねぇ」
酒匂と喧騒にまぎれて悪友に歩み寄ったスライムは、痣と綿布に飾られた二人の姿に外皮を曇らせる。
「すまねぇ。危険な目にあわせたな」
「ああ? これも仕事のうちだ、気にするな」
実際、海兄貴を取り押さえる際についたそれはたいしたものではない。
「いや、その傷じゃなくてよ。もしバレたりしたら、どんな目にあうかわからねぇ特務だ」
「ふん、見事に果たして見せたぞ。そんな俺たちにお褒めの言葉は?」
「え? あああ、本当にすまね……ぶわっ!」
スライムの脳天液にケンタウロスのチョップが降った。
「ばかか。友達なんだから、こういうときは礼を言っておくんだよ」
「うう? ありがとう?」
「ふん、それでいいんだ」
スライムが王になった後も、この二人は態度を変えようとはしない。だからこそ彼は王のくびきから解かれ、腹のうちを見せることができる。
「解ったよ。今日の礼に、また合コンでもセッティングしてやるよ」
「ただし、お前は来るなよ」
「なんでだよ、別に合コンぐらい……」
「合コンは立派な浮気だぞ」
「そうだ。それにお前が来ると俺たちがモテな……不都合があるんだよ!」
あの旅路での賑わいそのままに小突きあう男たちを、ヤヲは目を細めて見守っていた。
この国の王は最弱だ。だが彼は、この世でもっとも強いものを持っている。
彼が王である限り、きっとこの国は……




