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恋人《スライム》はサンタクロース①

 もとは誰かの聖誕前夜祭であったらしいが、ここノーニウィヨでクリスマスイブといえばフンゾン神とイターセ神が初めて結ばれた『恋人の日』だ。街はイルミネーションで彩られ、浮かれ、寄り添う恋人達で賑わうロマンティック・イベントである。

 と、同時に……一年で最も『リア充爆破事件』の多い日でもある……


「お前、そこで何をしているっ!」

 路地裏に潜んでいた小人族ホビット半馬人ケンタウロスが取り押さえる。彼が喧騒ひときわな表通りに向けていた魔弾は、微かな音を立てて四散した。

 ゆるゆると小路に入ってきたスライムが呆れたように体を震う。

「考え直せ。ここでリア充の一人や二人吹き飛ばしたところで、お前に彼女が出来るわけじゃねぇだろう」

「お前なんかに俺の気持ちが解るかっ!」

「ああ、解んないね」

 やっと思いの通じ合ったユリと迎える初めてのクリスマスを、このスライムがどれほど心待ちにしていたことか……魔王軍の応援として街の警備になど借り出されなければ今頃はユリとささやかにケーキなど食べていただろうに。

「そうか、貴様もリア充だな?」

 再び魔弾を構えようとしたホビットの掌をケンタウロスが握りつぶすほどに掴む。

「やめろ。それは俺のリア充(えもの)だ」

「お前……同志か!」

「おお、同志よ!」

 硬く抱き合う男達。

 スライムは呆れきってずるりと地面に崩れた。


 厳重な警備のおかげで一人の被害者も無く夜はふけた。これからカップル達は……な時間帯である。

 イルミネーションは褪せないが、既に通りには人影も少なく、スライムたちも城に帰ることを許された。

「そういえばスラスラ、本当にあれ、やるんですか?」

 しんと冷え切った広い廊下を歩きながらヤヲが訊ねる。スライムがぷるんと揺れた。

「当たり前だろ。頼んでおいたものは用意できたか?」

「ええ、一応……」

 クリスマスイブの本来の意味は、恋人達が結ばれて生まれた新しい家族を祝福するものだ。全ての子供達の枕元にプレゼントが届けられる。

「しかし、昔の人が考えることは良くわかりませんねえ」

 恋人達も寝静まった夜更け、それは現れると伝えられている……幸福配達人、三田サンタ 来蔵くるぞう……血染めの赤服に身を包み、堂々たる髭を蓄えた老人の姿で。

「幸福というよりは、恐怖を配っていそうですよね」

 一説によれば角の生えた毛深い生き物にそりを引かせ、燃え盛る暖炉の炎の中から現れるとも言う。

「あれだろ、多分どっかのおっかさんが、『言うことを聞かないと三田からプレゼントもらえませんよ』って感じで出来上がったキャラクターなんだろうさ」

 今夜、スライムはその三田の仮装をしてユリにサプライズを行うつもりなのだ。

「もちろん、ばれないようにしてくれただろうな?」

「そこまで馬鹿じゃありませんよ。それより何をプレゼントする気なんですか」

「教えねぇよ。気になるんなら明日、ユリに聞け」

 スライムがプルプルと笑った。


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