6.笑撃的事実の発覚は避けられないことでした。フラグが立ったよ(泣)
「ひとつ聞きたいのですが」
館に向かって四人で進む最中、それまで黙っていたヒルバール女史がそう口を開いた。出来れば何も聞かれたくないし、聞かれたところで答えたくはないのだが、承諾の言葉を誰かが返す前にヒルバール女史は続けてくれた。
「兄上様方に頼りたくないようですが、お嬢様は兄上様方が苦手なのですか?」
しかもド直球。普通はもう少しやんわりと聞くとか、顔色を窺いながら徐々に近付いていくとか……方法は幾らでもあるだろうと言いたい。淑女としての礼儀がなってないのは俺じゃなくてヒルバール女史のほうなんじゃないかって、言ってやりだい。
でも言えない。
「苦手、といえば苦手なんでしょうかね。
ヒルバール嬢は、若様方のことはどの程度ご存知ですか?」
代わりに答えたのはリーンで、どうとでも取れるその言葉にエルダから忍び笑いが漏れる。
「偉大なる魔法使いの子。非の付けようのない長男、武に秀でた次男、魔法に秀でた三男。その誰もが父に似て聡明で、人の心を惹き付ける姿をしているという。
わたくしが知っているのは、この程度です。
夜会には顔見せの一回しか出ていないので、全て人伝手や新聞から得た情報ですが」
「とても兄君様方の特徴をあらわしていると思いますよぉ。
兄君様方はぁ、その能力はもちろんのことぉ、趣味思考も御館様に似ていらっしゃるのですぅ。御館様が奥方様をとぉっても大切にされているよぉにですねぇ、兄君様方は歳の離れたキャズ様をとぉっても大切にしていらっしゃるのですよぉ」
俺の耳にも入ってきてる兄たちの賛美をヒルバール女史がしたかと思えば、リーンではなくエルダがあっさりと暴露してくれた。
もし俺が男じゃなくて女だったり、兄じゃなくて姉だったりしたならここまで溺愛に拒絶反応は出なかったことだろう。しかし実際は男と男。兄が弟を溺愛するとか、ヤバ過ぎると思う。
掘ったり掘られたりな関係にはならないだろうが、嫌過ぎる。
「兄妹愛、というものですか。
わたくしにも兄がいますので、過保護な兄が少々邪魔に思えてしまうことは理解出来ます。頭の中が花畑のような兄で、わたくしに少女趣味なドレスを勧めてくるのです。余りにも頭に来たので殴り飛ばしたことがありましたが。
お嬢様、お嬢様はまだ幼いのです。手に負えないことは兄上様方に頼られたほうが宜しいと思いますよ」
やっぱりヒルバール女史は家庭教師としてどうかと思う。殴り飛ばすとか、淑女の行動じゃないだろ。
それからそこっ、リーンとエルダ! 笑うんじゃないっ!