2.専属護衛は美女でした。これってハーレムフラグだろうか?
そんなわけで転生チートは出来なかった俺ではあるが、予定は少々狂ったものの、十歳を数えた今では農業に勤しむ毎日である。……家庭教師の目を盗みながらという注釈がつくが。
色々と間違ってるのはわかってるが、生まれ変わったところで俺は俺なのだ。誰かとマンツーマンで勉強だなんて、考えただけで気絶できる自信がある。
父に似たのか運痴ではないのが幸いして、逃げるのは苦じゃない。これが元の体だったらと思うと、ぞっとする。すぐさまつかまり、そのまま勉強部屋に連行される様が目に浮ぶ。
「キャズ様、ヒルバール嬢はきっと探されていますよ? お屋敷に戻らなくて宜しいのですか?」
薄暗い場所でこっそり農業に励んでいた俺の耳に、俺の思考を読んだかのような届いた。
「その必要はない。ヒルバール女史が教える内容が俺に必要だとは思えないからな」
声の主はわかっているからあえて振り返ることをせず、幾度とされた内容の質問にいつものように答えた。僅かな音で肩を竦めるのがわかったが、俺の身の安全に口は出しても普段の行いに口は出さないそいつがそれで黙るのもわかっていた。だから作業を続ける。
振り返れば、そこには目を見張るような美女が壁に寄りかかっていることだろう。光で紡いだような金の髪に空を切り取ったような青の瞳、肌は白の陶器のように滑らかで、そこにいるだけで女の色気を振りまく――これまた残念な男である。
色々あって父に保護された男で、誰かが傍にいるだけで挙動不審になる俺の護衛についている、恐ろしく腕の立つ気配を断つことの上手い人物である。名をリーン・シャルネ。彼氏ではなく、彼女募集中の二十二歳。くどいようだが、男である。
只今……女装中であるが。
女だ女だ、と言われ続けたために女装に目覚めたわけでは決してなく、俺の護衛につくならば女装が必要だと母に言いくるめられて女装する破目に陥った被害者だ。それが似合ってるからまだいいが、もし筋肉ムキムキの男が護衛につくことになっていたら母はどうする気だったのだろうかと時折不思議に思うことがある。あの母のことだから、女装させそうな気もする。
起きなかった事象に不安になっても仕方がない。頭を切り替えよう。
俺が前世でやってみたかった農作物のひとつに、ホワイトアスパラがある。株自体は一般的なアスパラと同じなのだが、光に当てないで育てることで白くなるのだ。遮光するシートでハウスをつくり栽培するのが一般的だったらしいのだが、こちらの世界には少々面白い技術と魔法があることを発見したので試験栽培中というわけだ。
こちらの世界にアスパラが存在しないこともあって、同系統の植物でになるが。
「……ああ、もうじき芽が出るな。
宙空栽培と土を持ち込んだもの、それぞれを光苔と魔力光で育てたもの。どのような違いが出るか……」
僅かに土を盛り上げているそれらに思わず笑みが浮ぶ。
早ければ明日にでも収穫できそうだ。細かい成分分析が出来ないのが残念といえば残念だが、それでも簡易の分析なら魔法で行える。普通に路地で栽培したものとの違いが愉しみだ。