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11.俺達の戦いは続く、的な終わり方。これもテンプレです?

 両方の戦いが納まったのは、俺の腹が茶はもう入らんとギブアップするのと、ほぼ同時だった。正直、これ以上茶を飲まないで済むと、終わったときにはホッとした。

 この場から逃げ出せるわけもなく、茶を飲む以外に俺にすることがなかったんだからしょうがない。

「お前が用意した男共の中に相応しい者がいなかった場合、私はキャズを貰うからな」

「仕方ない。が、キャズはやらん」

「しぶとい野郎だ」

「恋するヲトメは強いのよォ。っていうかァ、アタシの心はヲトメなんだってば」

 襤褸と化したジーベルと汗をかいているが傷ひとつない次兄はこの際どうでもいいことにして、ちょっと待てくれカリヤ殿下と長兄! なんだその、俺が景品デスなそれは!

 さすがにこれには抗議しようと、勢い良く俺は立ち上がった。

 が、ずっと座っていたためか立ち上がることが出来ず、テーブルに激突しそうになった。伸びてきた三本の手に支えられたために激突は免れたが、俺に視線が一斉に集まった。穴があったら入りたい。なくても穴掘って隠れたい。

「大丈夫か、キャズ」

 慌てて駆け寄った長兄が俺を掬いあげ、小さい子どもにするように抱き上げて背中をさする。

 血の成せる技なのか。たとえリーンでもこんな風に抱きかかえられたら緊張のあまり硬直するのだが、兄たちの場合はそれがない。

 だから襟首を掴んで、その顔を睨みつけてやる。

「大丈夫じゃない。俺がカリヤ殿下のものになるとか、何考えてんだよ」

 俺のへたれ具合に泣きたくなったせいか、その声は見事に鼻声だった。えぐえぐ子ども泣きをしてる訳じゃないから聞き取れたとは思うが…………うぉおお、恥ずかしいぞ。これ!

「そうね、さすがにキャシーじゃ年齢に差がありすぎるわね」

「私と貴女に比べれば些細な差でしかありませんよ」

「……それもそうね」

 俺をキャズの愛称ではなくキャシーと呼んでくれたのは、なんとも素晴らしいタイミングで帰ってきた、父と母だった。

 兄たちと並べば兄弟にしか思えない三十歳ほどで老化を止めた最狂魔法使いの父と、そんな父の毒牙にかかったために十代の少女にしか見えない母。父が言うには母は少しずつだが歳をとっている現状らしく、現在その老化を止めるために…………。

 だめだ。頭が現状を理解することを拒否しはじめた。

「リリカーリヤ殿、先日の申し入れですが、アローダイ殿に言伝をお願いしてきましたが、私は全面的に支持するつもりです」

「それはありがたい。公、感謝するぞ」

 カリヤ殿下の名を愛称ではなく呼んだ父は、陛下の名前までなにやら嫌な予感しかしないことを言ってくれた。それに笑みで応えるカリヤ殿下の様子も、それを増長させる。

「これまでみたいに毎朝可愛く髪を結ったりしてあげられなくなるのは悲しいけど、王都でもそうやって可愛いキャシーでいてね。

 仕立て屋さんに可愛いドレス、いっぱい手配してきたから」

 聞きたくない単語が、聞こえた気がする。というか、母よ、その言い方だとまるで……俺は王都に行くかのようじゃないか?

 ほら、俺は極度の人見知りで、知らない人がいるとか精神的苦痛だしさ。そもそも俺、男……。

「このままじゃ、可愛いキャシーをつれて買い物も出来ないじゃない」

 つまりは荒治療してこいと。でもって女装を通せと。

 嫌だ、冗談じゃなく嫌だ。でも、この母に逆らえる気がしない。

 縋るように俺を抱き上げたままの長兄に抱きつけば、無言で頭を撫でてくれた。今回ばかりは、兄の過度な優しさが身に染みる。チートな兄でも更にチートな父の庇護を得る母には敵うはずもなく、チートにすらなれない俺は泣き寝入りするしかないのが実情だ。

「キャシーが本当に嫌で嫌でしょうがないって言うんだったら、諦めるわ。でもそうじゃないなら、良い機会だから頑張ってみたらいいと思うの。

 だから、ね?」

 見るまでもなく、母が潤んだ目で俺を見ているだろうことは想像がついた。そしてそんな母の隣で、父が俺に命令してでも母を寝室に攫っていきたいのを必死で我慢しているのも。

 このまま俺が了承しなければ、間違いなく父は俺に命令するだろう。

 …………いい、機会なのかも知れない。ぬるま湯のような今の環境から飛び出して、対人スキルを磨いてみるのも。

「わかった。頑張ってみる」

 これは俺の意思なんだと、顔をあげて母を見、自分に言い聞かせながらなんとか言う。蚊のなくようなか細い声だったが、それは母と父の耳にも届き、当然聞こえた長兄には良くやったとばかりに頭を撫でられた。

「そうと決まれば、決意が揺らがない内に決行しなきゃね。

 エルダ、リーン、いますぐ自分の荷を纏めに行きなさいな。明日の朝には王都に発ってもらうわ。

 リリカーリヤ様、キャシーのことよろしくお願いしますね。離宮で面倒を見てもらえるなら、私も安心できますわ」

 天才子役も真っ青な変わり身で、母は楽しそうに指示を出しはじめた。

「うむ、任せておけ。離宮の仕度も戻る頃には整っている頃だろう」

 カリヤ殿下も、そこは任されないで欲しいんだが。それに既に準備OKとか、どういうこと?

「さあさ、明日は早いわよ。今日はもう休みなさいな」

 話は終わったとばかりに母は手を打ち鳴らした。

 色々と騙された気がするのは……気のせいじゃないはずだ。

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