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9.強敵の登場。その座をかけた、戦いの始まりです?

 何杯目の茶を飲んだ後だったか。待つことがとことん嫌いなカリヤ殿下は、暇を潰すためにちょうと部屋にいた俺やエルダ、それからリーンさえもを褒め称え始めた。もう、外見が女性なら中身はどうでもいいってことなんだろう。

 立て板に水をかけるように勢い良く流れ出る美辞麗句の数々は、はっきり言って苦行だった。普段ならあり得ないことに、兄たちに助けを求めてしまいたくなる……のを必死に堪え、神への祈りを心の中で繰り返すことで心頭滅却する程度には。

「のう、キャズ。

 求婚の件は冗談としてもだ、私としては客人として王城におぬしを招こうと考えているのだが、いかに思う?」

「…………は?」

 だから反応が遅れてしまった。

「公と奥方にはおぬしの心次第と言われたのだがな、兄たちと同じようにおぬしも基礎学から王都の学院に通うのであろう? であれば、一年後には王都に居を移すことになる。ならばその先を王城に変更してはどうかと思うてな。

 なに、悪いようにはせん。王城ならばイルファーンらも近くにおる、心強かろう」

「あ、いや。その……」

 国の礎となる人材を育成する王立学院は基礎学と専門学のふたつに分かれていて、基礎学は十二歳からの四年間、適性を見極めながら長所を伸ばす。基礎学校は王都以外にも東西南北にひとつずつあり、その周りには幾つもの分校が点在している。基礎学のレベルは王都とそれ以外に差があるわけではないが、その上の専門学に進めば王都にしか学校がないために、力ある貴族や優秀で奨学金を受けるような生徒は初めから王都の基礎学に進む。

 兄たちの場合は優秀だったからだが、俺はそこまで優秀じゃない。前世の記憶の分少しは上に立ってはいるが、そんなものは直ぐに追い抜かれるだろう。

 だから近くの基礎学校に通えばいいと思ってたわけで、考えもしなかったことに頭がついていかない。

「おぬしが傍にいるだけで、私としても心強い。傍に居てはくれぬか?」

 魔窟のような王城にいく勇気は俺にはない。ないが、年齢も性別も超えた友人の願いにノーと言えるほど、勇気もない。

「そんなこと、急に言われても」

「おぬしの不安は私が全て取り払おう。

 ……だめか?」

 普段の様子からは想像がつかないような、そんな真っ直ぐな目でカリヤ殿下は見つめてきた。俺も真剣に応じなければならないと、意を決して口をひらいた。

「駄目に決まっているだろう。うちのキャズから離れろ」

 が、俺が返事をする前にドアが勢い良く開かれ、怒りの潜んだ低い声が飛び込んできた。それに足音が二人分、続く。

「おや、思ったより早かったのだな。

 もっと遅くても良かったのだぞ、イルファーン。いや、むしろ気が利かないな。ここは気を使って遅く来るべきだったのだ。もう少しでキャズから色よい返事がもらえそうだったのにな」

「だから急いだ。キャズを王城などという悪意の渦に放り込むことはできん」

 いつもの飄々とした態度にカリヤ殿下は戻り、かなり激昂しているだろう長兄に向けてニヤリと笑みを向けていた。さすがは魔窟の王になる女傑だ。俺には恐ろしくて、とてもじゃないが長兄の顔を見ることなんて出来そうにない。

「お前の目論み通り、大臣共にはこれ以上王配の件で進言しないように良い含めてきてやった。感謝しろ。

 幸い、うちの国に喧嘩を吹っかけて父の逆鱗に触れようという阿呆は居ないからな。同盟のためと、無理に他国から王配を選ぶ必要もない」

「平和は良いことだが、そのために自身や子を売り込む愚か者が多くて困っておったのだ。いっそ何処かの国との、政略上の繋がりのために婚姻の必要があれば楽であったと思うぞ」

「だが、ないのが現状だ。

 そこで、近隣諸国から適当と思われる数人の留学を受け入れることとした。陛下からも了承を得ている、その中から選べ」

「ほぉ?」

 飛び交う冷ややかな言葉に俯きスカートを握り締めていたが、トーンの下がった声音に思わず顔を上げた先には、綺麗な笑みを浮かべながらも笑っていない目をしたカリヤ殿下がいた。

 もの凄い後悔した。

「その口調だと留学してくることはだいぶ前から決まっていたみたいだな。

 それも父上からの了承を得ているとか、どうやら立ったまま寝言を言っている馬鹿がいるようだ」

「己の立場もわきまえず、いつまで経っても婿をとらないから起きたまま夢を見るようになったのだろう」

 だがそれに長兄は変わらない調子で返す。さすがはチートな長兄。

 一方の俺は、俺への怒りじゃないのはわかってるのに胃が痛む気がするし。

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