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one good thing after another~about Tomato~

作者: csq

昔、高校生のときにお弁当に入っているやつがだいっ嫌いで、必ずといっていいほど残していた。例外的に、アメリカンチェリー張りにおいしそうなものだけは口にしていた。

 プチトマトのことだ。

 この土地に住み着いてはや二ヶ月が過ぎようとしている。大阪は、日本で温暖気候な場所では一番暑いし、それを何年も経験したのだからきっとこちらでは夏が過ごしやすくなるだろうと思っていた。でもその考えは、五月末のこの天候により、覆されかかっている。日焼け止めを念入りに塗りたいところだが肌荒れでそうもいかなくなっているので、薄くつけ、長袖を着て日傘を差したらわたしの外出スタイルの出来上がり。アスファルトの照り返しにくらくらしながら、近所のスーパーに向かう。

 本日は3パックもフルーツトマトを買った。リコピン、ビタミンA、カロテンetc.体によいとされる成分のかたまりの、真っ赤な球体。鮮やかなこの色は、一瞬にしてキッチンに立つ私の背をしゃっきりとさせる。今日はどんな風に調理されてくれるのだろう?

 ずっと前に、祖父とスパゲティをいただいたときのこと。祖父はなすとトマトのグラタン、私はフレッシュトマトのスパゲティをオーダーした。やってきたお皿を見てびっくり仰天。せいぜいダイス状にカットされたトマトがちょっと乗っかってる程度、と考えていたのに・・・白い大きなパスタ皿には、乳白色のパスタが鳥の巣のようにかたどってあり、その上に、くし切りにされた丸々一個分のトマトが花のようにかたどられていた。

 「トマトが好きか。」

 私の何倍もたくさんの経験をしている祖父にも、この一皿は刺激的過ぎたのかもしれない。ちょっと驚いた様子で、祖父が聞いた。

 別段、好きという訳ではなかったのだが、この皿を前に一体どういえばいいのか分からなかった。たぶん軽いパニック状態だったに違いない。私はごく些細なことでうろたえすぎることがある。とりあえず「うん好き」とだけ答えた。目を細めて嬉しそうに笑い、一瞬の間のあと、祖父が口を開いた。

 「私の父親も、トマトが好きだった。」

 曾祖父は祖父が中学校に上がるときに、亡くなった。結核か、何かで。大変ハイカラなひとだったらしい。まだあらゆる食べ物が旬の季節を持っていたころ、明治生まれの大の男が、ちゃぶ台の上のトマトを見てにんまりする姿が目に浮かぶ。その無骨な手で、わしっと一つ、完熟のそれをつかんで胡坐をかき、ほおばっている。盛夏の一風景。

 今日、トマトは一年中どの季節でも買える。そんなことを曽祖父は予想していただろうか。曾孫娘が23を過ぎても独り者なのを見たら、がっかりするかもしれない。そんなことを考えながら、今も目の前には結局調理されることのなかったトマトたち。緑の器に白いざるを載せたものの上に、鎮座ましましている。トリコロール・カラー。自分たちのみずみずしさを、十二分に見せつけている。

 時代を超え、私の血肉となってきた食べ物。これからもおそらく、お世話になっていくのだろう。

 “完熟の 真っ赤なトマトを ほおばれば 無性に君に 会いたくなる”


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