折り紙を何回折れば月まで届くかの計算にlogを使うな。
十月二十四日、午後十時二十四分。
コンビニバイト十時あがり。
アパートに帰って来、扉。鍵を閉めた。
瞬間。
チャイムが鳴る。
仕方なく俺は玄関を開ける。
美少女じゃないセーラームーンが。
ポーズを決めて、俺を指差す。
「先輩、お月見しましょうよ」
綺麗な月夜の晩、俺はデジャブを見た。
「デジャブを見たって先輩、二重表現。
既視感を感じたっすよ」
と制服の後輩が後背から、声をかける。
「おいおい、勝手に上がんなよ」
「へいへい勝手に、台所。
日本酒。今晩の晩酌用ですから。
冷蔵庫に冷やしておきますけど、
勝手にお上がんないでくださいよ」
「……な、月見って」
「先月でしょ、中秋の名月。
二人で見たじゃないっすか」
「そうだ、そうだろ。
先月やったよな月見?
なんでまた?
あ、あれか?
旧暦と新暦のやつか?」
「いやいや、
前回は芋名月。
今回は栗名月っす」
「栗名月?」
「八月の十五夜。
九月の十三夜。
芋名月と栗名月。
お月見ってのは二回あるんす。
このどっちかしか見ないのは、
片見月って言って、縁起悪いんす」
「へー、詳しいな」
「お月見案内検定一級。特許出願中です」
と、ツッコミにくいボケ。
ようやく俺は、靴を脱ぎ玄関を上がる。
「何買って来たんだ?」
「テッテレ〜、白玉団子〜、あっ、」
彼女は、ジップロックから、
白玉を一つだけ出して、再度、
「テッテレ〜、白玉団子〜」
「何も持ってないドラえもんの手?」
「テッテレ〜、栗饅頭〜」
「増えるやつだ。それ」
「栗名月っすから。
白玉茹でるんで、
先輩も茹だって来んさい」
俺はひとっ風呂。
上がると、窓を開けたベランダから、風。
白玉、ススキ、栗饅頭。
ザ・お月見セットを前に、彼女も座付き。
隣の座布団をポンポンと二回。
座れば一献。冷えた冷酒。
ただ、二人。月を見た。
団子を食い。栗饅頭を食い。盃をクイ。
「折り紙を何回折ると、月まで届くか?」
「厚さは、」
「0.1mm」
「月まで、」
「38万km」
「っすねー。折る回数をnとすると、
0.1mm×2×2… > 38万km
2×2… > 3800、えー……。
2×2… > 3800000000000
底を2としてlogをとると、
「いやんな面倒なことしなくても。
発想の転換、逆転の発想、
逆関数を使えよ」
「逆関数っすか?」
「対数の逆関数、指数。単純だろ。
0.1mmの紙、一回折ると、厚さは?」
「2倍に。
0.2mm」
「もう一回折ると、元の?」
「4倍の
0.4mm」
「厚さは倍々に増えていく。
n回折ることで、厚さは、
0.1mmの2のn乗倍になる。
ここからは大まかな計算。
2の10乗を10の3乗、
1000として考えると、
単位の計算も楽になる。
厚さが、
0.1mm
の折り紙を十回折ると、厚さは、
0.1m
もう十回折ると、
0.1km
さらに十回、
100km
もう十回、
10万km
追加で、二回折ると、
2倍4倍で、
40万km」
「おお、40万km」
「これは、地球から月までの距離、
約38万kmを超える。
つまり、
厚さ0.1mmの紙を、
42回折ると、
月まで届くということだ」
「おお、逆から考えてたのを逆に考える。
なるほど、逆関数っすね」
「いや、それは、逆関数じゃねえけど」
「っすか。ん?
ちょっと逆から考えるんですけど。
42回折った折り紙って、こう、
分厚くなるじゃないすか」
「ああ」
「例えばっすけど、
立方体みたいになった折り紙は、
もう折れないっすよね」
「おう」
「単純に、もう折れない状態が、
立方体であるとしましょう。
折り紙を42回折り、月まで着いたとき、
立方体だったとしましょう。
確か、40万km。
今、月と地球の間に、
正確には月を超えてますが、
一辺40万kmの立方体があります。
ここから、手順を巻き戻します。
42回目を、今まさに折ろうとしている、
41回目の紙の状態は、
縦が40万km
横が80万km
高さが20万km
の直方体っす。
当然縦横逆でも構わないすけど。
さらにひとつ前、40回目は、
縦が80万km
横が80万km
高さが10万km
の直方体。
一回ごとに戻るにつれ
高さは半分になっていき、
縦横の長さは、それぞれ、
二回ごと倍になってくっす。
つまり、
元の折り紙は、
厚さが0.1mm。
縦と横の長さは、
0.1mmに、
2の42乗に、さらに、
2の21乗をかけた、
2の63乗、
今、
2の10乗を10の3乗、
1000として考えてっすから、
40万kmの1000倍、
4億kmの1000倍、
4千億kmの2倍、
8000億km。
月と地球200万回以上往復ができるっす」
「というか、多分。太陽系の大きさ。
越えてるな」
「42回」
「えっ?」
「折り紙を42回折ると、月まで届く。
と先輩は言いましたが、もしそうなら、
折り紙を0回。折らずで月まで届くっす。
つまり、先輩の負けでっす」
「えー、いつ勝負したよ」
「武士に二言は無いはず」
「もののふ、のの、で二言……」
「問答無用。先輩には一言。あの台詞を」
「あの台詞?」
「月の、月並みな」
「……ああ」
「さあ」
「……月が嫌いですね」
「逆関数っすね」




