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異世界から帰還した俺、数千年後のSF世界を冒険する  作者: シン


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第4話 宇宙コロニーの内部

 俺とハルカはアイルン国の宇宙コロニー、ナルへ到着した。

 コロニー全体は巨大な正八面体の形をしており、その外周をぐるりと囲むように宇宙港が張り付いている。

 大小さまざまな宇宙船が縦横無尽に行き交い、その光景はまるで巨大な餌に群がる魚群のようだった。


「すごい数の宇宙船だな~~」


 白月のコックピットからモニター越しに眺める宇宙船の群れは、まるで水族館の大水槽を覗いているかのようだ。

 光を反射しながら滑るように移動する船体は、魚の鱗のようにきらめいて見えた。


「あの白月の何倍も大きな宇宙船は何だ?」


 入港待ちの間、俺はモニターに映る巨大な影に目を奪われた。

 まるで水族館に来た子供のように、胸が高鳴るのを抑えられない。

 指差した先では、白月の数十倍はある巨体が、ゆっくりと港へ着艦しようとしていた。


「あれは大型艦ですね。あの大きさだと戦艦でしょうか」


 ハルカは、俺のはしゃぎっぷりを見て、どこか親のような優しい笑みを浮かべながら説明してくれる。


「戦艦ってことは……空母とか巡洋艦、駆逐艦とかもあるのか?」


「ありますよ。大型艦は戦闘艦を格納して運用することを目的とした宇宙船ですから」


 この時代の戦闘は、俺の知っている地球にいた頃の航空機とミサイルでの戦闘とはまったく違っていた。

 かつての戦争は、航空機とミサイルによる長距離攻撃が主流で、大艦巨砲主義はとうに終わったはずだった。

 だが、光学兵器の登場が、戦場の常識を根底から覆した。


 光学兵器はミサイル並みの射程を持ち、重力ドライブを大型化するほど威力も射程も跳ね上がる。

 その結果、再び巨大な艦に巨大な砲を積む時代へと逆戻りしたのだ。

 宇宙港に並ぶ巨大艦の群れは、その歴史の変遷を無言で物語っていた。


「その分、物凄い額で、民間の駆逐艦でも最低10億クレイドはしますから。戦艦だと100億ですね」


 ハルカは淡々と告げたが、その数字はあまりにも現実離れしていて、俺の脳が理解を拒んだ。


「と……とんでもない額だな。……民間でその額だと、軍用はいくらになるんだ?」


 俺は思わず聞き返していた。

 すでに桁外れの金額だが、軍用となればさらに跳ね上がるのは想像に難くない。

 だが、どれほど跳ね上がるのかは、まったく予想がつかなかった。


「聞く話によると……確か、駆逐艦で500億。戦艦だと5000億ですね」


「それって……一隻で?」


「はい」


 ハルカはあくまで冷静に頷く。


「とんでもない額だな……」


 俺はモニター越しに戦艦を見つめた。

 その船体はゆっくりと港へ入っていくが、あの巨体が5000億クレイドだと思うと、もはや現実味がなかった。


 しばらくの間、俺とハルカはモニター越しに外の景色を眺めながら、入港の順番を待っていた。

 そんな時、突然通信が入った。


 〘アイルン国宇宙コロニー・ナルの入港管理局からの通信です〙


 機械音声がコックピットに響く。

 俺は手元のパネルに手を伸ばし、応答ボタンを押した。


〘宇宙コロニー・ナル入港管理局だ。貴艦には識別コードが確認できない。所属先を証明するものが無い場合、入港は認められない〙


「えっと……」


 理由も分からず、どう返せばいいのか迷っていると隣のハルカが、すっと前に出るように声を上げた。


「そちらに傭兵ギルドのIDを送ります」


 ハルカの指がタブレット端末を滑り、データ送信の音が小さく鳴る。


〘……確認した。入港を許可する〙


 通信が切れると同時に、白月の自動操縦が作動し、船体がゆっくりとドックへ向かって動き出した。

 ドックは意外にも個室構造になっており、白月が着艦すると同時に固定具が展開され、船体をしっかりと拘束する。

 俺はさっきのやり取りが気になり、ハルカに尋ねた。


「識別コードって……そんなに重要なのか?」


 ハルカは頷き、淡々と説明を始める。


「識別コードとは、船に割り振られる唯一無二のコードです。企業、国家、傭兵ギルドなど、どこの所属なのかを識別するためのものです。この識別コードが無い船は……ほとんどが盗賊です。撃墜されても文句は言えません」


「……マジかよ」


 背筋がひやりとした。

 さっきの宇宙盗賊との戦闘を思い出し、もし白月が識別コードなしのまま宇宙を飛んでいたらと考えると、ぞっとする。


「なのでこの後、マスターの傭兵ギルド登録と一緒に、白月の識別コードも発行してもらいます」


 ハルカはそう言って微笑んだ。

 その表情は、まるで大丈夫ですよと言っているようで、俺の緊張を少しだけ和らげてくれた。


 俺とハルカは白月を降り、ドックの床を踏みしめた。

 コックピットのモニター越しに見ていた時より、実際に自分の足で立ってみると、その広さとスケールがまるで別物に感じられる。

 天井は高く、巨大なアームや整備用クレーンが何本も伸びていた。

 床は分厚い金属板でできていて、歩くたびにカン、カンと乾いた音が響いた。


 俺は思わず深呼吸をして、冗談めかして言った。


「う~ん、空気がうまい……わけないけど」


 もちろん、ここは完全な人工空間だ。

 空気は循環システムで管理されているだろうし、地球のような自然の匂いなんてあるはずもない。


 けれど、初めて降り立つ宇宙コロニーの空気は、どこか新鮮だった。


 ハルカはそんな俺の言葉に、くすっと小さく笑った。


「ふふ……マスター、楽しそうですね」


 その笑顔が、なんだか妙に嬉しかった。


そして、俺がドックの出入り口へ向かって歩き出したその時、背後からハルカの声が飛んできた。


「マスター、待ってください。マスターに渡すものがあります」


 思い出したように小走りで近づいてきたハルカは、腰のポーチから二つの物を取り出した。

 一つは手のひらに収まる銀色のリング。

 もう一つは、無駄のないデザインの金属製の小型銃だった。


 ハルカは丁寧に両手でそれらを差し出す。

 俺は受け取りながら、リングの方をまじまじと見つめた。


「銃は分かるけど……このリングは何?」


「これはアカシック端末です。地球にいた頃で言うところの、いわゆるスマホですね。こうやって耳にはめて使います」


 そう言うとハルカは長いロングヘアーを指でかき分け、自分の耳を見せてくれた。

 そこには、同じ形のリングがぴたりと装着されている。


 俺は真似してアカシック端末を耳にはめる。

 瞬間リングが微かに震え、耳元で小さな起動音が鳴った。

 次の瞬間、視界の端にふわりと光が浮かび上がる。


「おお……!」


 空中に半透明の画面が展開されていた。

 どうやらAR技術で視界に直接投影しているらしい。

 指を伸ばすと、画面がそれに反応して滑らかに動く。


 まるで空中に浮かぶ透明なタッチパネルを操作しているようで、第三者から見れば何もない空間を指で触っている人に見えるようだ。


 未来感がすごすぎて、思わず笑ってしまった。


「……すげぇ。俺の時代のスマホ、完全に負けてるな」


 ハルカはそんな俺の反応を見て、嬉しそうに微笑んだ。


「気に入っていただけて何よりです、マスター」


「ところで、ハンドガンを渡すってことは……ここ、そんなに治安悪いの?」


 俺はハルカから受け取った近未来的なハンドガンを腰のホルスターに収めながら尋ねた。

 金属光沢のあるボディは無駄がなく、触れた指先にひんやりとした質感が伝わってきた。


「場所によっては治安が悪いところもあります。そのための自衛手段としての光学銃です」


「なるほどな……」


 納得しつつも、ふと気になっていたことを思い出す。


「そういえば、この時代って防護盾とか防弾盾みたいなのは使うのか? 変じゃなければ、異世界で使ってた大盾を使おうかなって考えてるんだけど」


 そう、俺はチキンハートだ。

 異世界でも勇者なのに聖剣で突っ込むなんて真似は一度もしたことがない。

 常に大盾を構え、自作のバフポーションを投げつけるという、勇者らしからぬ戦法で戦っていた。


 そのせいで仲間からはチキン勇者、卑怯勇者と散々な言われようだったが生き残るためには仕方ない。

 俺はそういうタイプなのだ。


「いないわけではないのですが……」


「なんか含みのある言い方だな」


「はい。非常に珍しいです。この時代の戦闘は基本的に光学銃がメインで、貴族やお金持ちの方々は実体剣を使います」


「実体剣?」


 思わず聞き返してしまう。

 地球にいた頃の白兵戦といえばアサルトライフルやナイフなどが主役で剣を使う時代はとうに過ぎているのだ。


「はい。ただ、侮ってはいけません。この実体剣は金属はもちろん、光学銃のビームすら軽々と切ることができます」


「ビームを……軽々と切るのか?」


 俺は目を見開いた。

 ビームを切るなんて、もはや物理法則を殴り飛ばしているレベルだ。

 だが同時に、妙に納得もしてしまう。


 金属もビームも切れるなら、接近戦でのアドバンテージは圧倒的だ。

 防御を切り裂き、一気に距離を詰めてとどめを刺すと想像しただけで背筋が寒くなる。


「切れます。この時代には軍用の戦闘AIアシストがありますから、扱える人なら余裕です。それに、実体剣には無意味ですが、光学銃には防護シールドがありますので……実体盾はほとんど見ませんね」



「ほとんど、ということは……いないわけじゃないんだろ? なら大丈夫!!」


 俺は胸を張ってそう言い、アイテムボックスから腕輪を取り出した。

 未知の金属と宝石で精巧に造られたその腕輪を、躊躇なく自らの腕にはめる。


 そう、この腕輪こそが俺の相棒。

 異世界で使っていた大盾へと変形する魔道具だ。

 物理耐性はもちろん、魔法耐性も桁違いで魔王の直撃を受けてもビクともしなかった、俺の命綱とも言えるスグレモノである。


(……まあ、この世界でも使えるって検証済みだし。光学銃のビームくらい余裕で防げる……はず。……防げるよな?)


 自信満々の顔をしながら、内心ではちょっとだけ不安がよぎる。

 未来の兵器と異世界の魔道具の相性なんて、普通は誰も考えないだろう。


 そんな複雑な気持ちを抱えつつ、俺とハルカは宇宙港の中枢を目指す。

 コロニー中央を貫くエレベーターに乗り込むと、透明な壁越しに広大な街並みを見下ろしながら、居住区へと降りていった。


「……おお……」


 思わず声が漏れた。


 SF作品でよくある筒状の内部に建物が張り付いているタイプではなく、広大な平面に無数の高層ビルが立ち並び、その間を無数の飛行物体、おそらく空飛ぶ車なのだろう飛行物体が縦横無尽に行き交っている。


 まるで未来都市のパノラマ映像をそのまま現実にしたような光景だった。


 ビルのガラスに反射する光、空中を走る光の軌跡、そして地上を行き交う人々の流れ。


 すべてが、俺が地球にいた頃の常識を軽々と超えていた。


「意外だな。コロニーって言ったら、てっきり筒状の内部に建物が張り付いてる、あの遠心力で人工重力を作るタイプを想像してたんだが」


「マスターが言うそれは古いタイプのコロニーですね。現在は大型の重力コアで重力を発生させるのが主流なので、形が筒状である必要はありません」


 そんな会話をしているうちに、中央エレベーターのカゴはゆっくりと地面へ近づいていく。

 透明な壁越しに見える都市の光が、徐々に目線の高さへと降りてくるのが分かった。


 エレベーターのドアが開き、俺たちはカゴから降りた。


 途端に、視界が一気に開ける。


 エントランスホールには、人間だけでなく、明らかに人間ではない種族が多数行き交っていた。

 肌の色、体格、耳や尻尾、体毛の有無、その多様さは、まるで異世界の街のようだった。

 

 懐かしさと新鮮さが同時に胸を満たし、思わずワクワクして辺りを見回す。


「なあ、異世界にもいたよな? 二足歩行のトカゲみたいな種族……」

 

 俺は視線の先にいた、まさにリザードマンのような姿の種族を指さした。


「あれはリザド族ですね。正確にはトカゲではなく、爬虫類のワニに近い進化をした種族と言われています」


「ワニ……?」


 完全にトカゲにしか見えないのにワニ寄りなのか、と妙に感心する。

 同時に、ふと疑問が浮かぶ。


(爬虫類なら……脱皮とかするのかな?)


 そんなことを考えていると、別の種族が視界に入ってきて、そちらに興味が移った。


「あっちの二足歩行の狼みたいな種族は?」


「あれはウルフ族ですね。基本的に二足歩行の動物のような見た目の種族は、まとめてビースト種と呼ばれています」


 俺は次々と通り過ぎる種族に目を奪われる。

 リザド族、ウルフ族、どれも異世界で見たことのあるような姿ばかりで、懐かしさが込み上げてきた。


「あそこの人は……もしかして獣人? 隣の人はエルフ?」


「確かに、あそこの方は獣人族ですね。獣人族は数千年前、違法実験で生まれた種族で、ビースト種と人間を掛け合わせて誕生したと言われています。実験で生まれた子たちを保護した人物が天桜日皇国の出身で、その方が獣人族と名付けたそうです。現在は個体数が増えて当たり前のようにいる種族ですね」


「なるほど……つまり獣人族はケモミミ天国ってわけか」


 俺は思わず頷きながら、少し興奮してしまう。

 そんな俺を見て、ハルカはくすっと笑いながら説明を続けた。


「そうですね。そして隣の方はエルフのように見えますが、正式には耳長族と呼ばれる種族です。皆さん、美男美女ばかりですよ。ちなみに獣人族と耳長族は、人間種に分類されます」


 未来のコロニーで、異世界のような種族たちが普通に暮らしている。その光景は、どこか懐かしさを覚えた。


次の投稿は4月になる予定です。もしかしたら3月中にもう1話、投稿するかもしれません。まあ、他の作品の投稿状況と相談ですね。


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