第1話 目覚めと始まり
俺は異世界で魔王を倒し、地球に戻って来た。
異世界では散々頑張ったのだから、地球に戻って来てからは好きな事して生きたい、そんな軽い願望が、すべての始まりだった。
俺の名前は鳴神大樹日本人だ。大学1年生の夏、幼馴染の天城榛名と遊園地に行く、はずだった。俺は榛名との待ち合わせ場所へ向かう途中、突如として異世界に召喚された。
異世界では勇者として、復活する魔王を討伐する使命を背負った。
しかし、俺は運動とか苦手なので初めの基礎体力作りにはとても苦労した。その後も、剣術の型の訓練や冒険での基本など色々と覚えさせられた。
そんな中で、唯一心から楽しいと思えたのが錬金や鍛冶などの物作りだった。幼い頃から何かを作るのが好きだった俺は、戦闘能力こそ平均的だったが、錬金や鍛冶の腕はみるみる上達していった。
そしてついに、ホムンクルスの創造に成功した。
異世界での生活はすでに五年が経過しており、俺は幼馴染に会いたくてたまらなかった。
その寂しさを紛らわせるように、俺は榛名によく似たホムンクルスを作り上げてしまったのだ。髪と瞳の色こそ違うが、輪郭も仕草も声の響きさえも榛名に瓜二つだ。俺はその子にハルカと名付けた。
やがて、五年に及ぶ準備期間を経て魔王が復活し、俺とハルカは討伐へ挑むことになった。
そして、魔王を倒すまでに、準備期間も含めて十年掛かった。
長い。あまりにも長かった。
そうして、俺はついに日本への帰還を果たした。ハルカと一緒に。
長い戦いの果てに辿り着いた故郷は、見慣れたはずなのにどこか現実味がなかった。だが、帰ってきた俺を待っていたのは安堵ではなく、事実のズレだった。
異世界で十年を過ごした俺は、日本では行方不明者として扱われており、こちらの世界ではわずか一ヶ月しか経っていなかったのだ。
帰還して最初に向かったのは、榛名の元だった。
そして再会した瞬間、俺は開口一番、強烈なビンタを食らった。
頬に走る痛みよりも、榛名の瞳に滲んだ涙の方が胸に刺さった。
怒っているのに、泣きそうで、いや、もう泣いていて。
その視線から、どれほど俺のことを心配してくれていたのかが痛いほど伝わってきた。
榛名は父親まで巻き込み、俺を探し回ってくれていたという。
その事実を聞いた瞬間、胸の奥がじんと熱くなった。
俺は榛名に弁明するように、異世界で起きたことを一から十まで話した。
最初、榛名は当然のように眉をひそめた。突然消えた幼馴染が異世界に行ってたなんて言い出したのだ。疑うのが普通だ。
だが、俺が異世界で得たスキルを実演し、そこで手に入れた未知の植物や金属を見せると、榛名の表情はみるみる変わっていった。
現実離れした話でも、目の前の証拠には逆らえない。
やがて榛名は小さく息を呑み、静かに頷いた。
あれから一週間後。
俺は何もやる気が起きず、自室のベッドに横たわったまま天井を眺めていた。
大学は休学扱いになっていたが、異世界で十年も過ごした俺に、講義内容を覚えているはずもない。
結局、勉強にはまったくついていけず、そのまま退学することになった。
親にも異世界での出来事をすべて話し、信じてもらえた。
だが、俺の口から語られる常識外れの体験に、親はどう反応すればいいのか分からない様子で逆に気を遣わせてしまっているのが、痛いほど伝わってきた。
「どうするかな……これから」
俺は夜な夜な、異世界で得たスキルをこっそり試していた。驚いたことに、この地球でも魔法やスキルは問題なく使えると分かった。
だったら、地球の機械と異世界の技術を組み合わせて、もっと色々なものが作れるはずだ。そう思った俺は、異世界でポーションの材料に使っていた植物を育ててみたり、作りたい物の構想を練ったりしていた。
だが、そこで現実的な壁にぶつかる。
実験道具を置くスペースがない。
地球の実験機械も揃っていない。
作りたいものは山ほどあるのに、肝心の場所と道具を揃えるお金が圧倒的に足りなかった。
熱意だけはある。だが、それだけではどうにもならない。
どうしたものかと頭を抱えていたその時ふと、一つの考えが脳裏をよぎった。
(……榛名に助けてもらおう)
そう思った瞬間、胸の奥がざわついた。
榛名の一族、天城家は、世界規模で事業を展開する巨大グループ企業の本家だ。
天城グループは数百の関連子会社を抱え、莫大な資本と株式を所有し、もはや財閥と呼んでも差し支えないほどの影響力を持っている。
さらに政財界にも太いパイプを持つ、本物の超がつく金持ちだ。
本来なら、俺のような庶民が関われる世界じゃない。
だが、榛名の父親は娘を溺愛していて、影では何人もの護衛をつけているくせに、娘には普通の暮らしをしてほしいと本気で願っていた。
中学一年の頃、榛名の家に遊びに行ったとき、榛名の父親が俺に直接そう言ったのを今でも覚えている。
俺と榛名は小学生の頃からの付き合いで、小・中・高と学校もクラスもずっと一緒だった。ここまで重なると、もはや運命としか言いようがない。
しかし、大学だけは俺とは別だった。
榛名の父親は普通の暮らしをしてほしいと言っていたが、榛名はむしろ父の後を継ぐ気満々で、世界トップクラスのエリート大学に進学したという。
昔から頭が良く、勉強を教えてもらうことも多かったが、まさかここまでとは思わなかった。
俺はそんな榛名に助けてもらおうと、枕元のスマホを手に取り、榛名へメッセージを送った。
ヒロキ〈はるな、今大丈夫?〉
はるな〈大丈夫だけど、どうしたの?〉
ヒロキ〈異世界の物を売りたいんだけど。地球にはない植物とか鉱石、ポーションとか……金になるかな?〉
はるな〈私はドラ〇〇もんじゃないよwww〉
はるな〈でも正直、価値はあるよ。地球に存在しないってだけで研究対象になるし、魔力なんて技術発展の宝だよ。ただ……ヒロキも実験対象になるけど、それでもいいの?〉
ヒロキ〈拘束されたり切り刻まれたりしないよね……汗〉
はるな〈漫画やアニメの見過ぎwww〉
はるな〈さすがにそんなことしないよ。というか、私がさせないよ。ただ……採血くらいはあるかも〉
ヒロキ〈採血か……〉
ヒロキ〈まあいいか。それでよろしくお願いします〉
はるな〈OK〉
はるな〈お父さんに詳しく話してみる。明日プライベートジェットで日本に帰るから、会えるのは明後日だね。明後日の午前11時、私の家の前に来て。今度は異世界に行かないでねwww〉
ヒロキ〈了解www〉
それから話はトントン拍子に進み、天城グループの秘密研究所で異世界のポーション、植物、鉱石、魔物素材、魔力など、多岐にわたる研究が本格的に動き出した。
その対価として、俺の懐に流れ込む金額は、とんでもない額だった。
その中でも、俺が一番驚いたのは飛空石の抽出に成功したという知らせだった。
飛空石は、ただの石ころにごく微量だけ含まれている特殊鉱石で、異世界の技術水準では抽出が不可能とされていたものだ。
この飛空石の特徴は、塊になると強力な重力場を発生させること。そして内部には、尽きることのない魔力が渦のように封じ込められている。
異世界でも伝説級の扱いだった素材が、地球の技術で本当に取り出せてしまったのだ。
それから月日が立ち、俺はようやく気づいた。当初予定していた実験道具を置くスペース、別に地球でなくても良いのではと。俺の覚えた転移魔法にはイメージに近い場所に扉を開き転移できるアプロキシメートゲートという魔法があり、それを使い、太陽系から遠く離れたいくつかの場所を候補地として絞り込み、その中には地球型惑星もあり、結局最後は資源が豊富ということもあり小惑星帯の中にある小惑星に自前の研究施設を作った。その研究所では当初俺が作ろうとしていたコールドスリープ機能が付いた治療カプセルなどを多数作成した。ハルカにはガラクタと言われた。そんな感じで俺は満足した生活を送っていた。
それから月日が経ち、俺はようやく気づいた。
当初予定していた実験道具を置くスペース、別に地球である必要はないのでは、と。
俺の覚えた転移魔法には、イメージした場所に近い地点へ扉を開く〈アプロキシメートゲート〉という魔法がある。
それを使い、太陽系から遠く離れた複数の候補地を調査した。中には地球型惑星もあったが、最終的には資源が豊富という理由で、小惑星帯にある一つの小惑星を選んだ。
そして俺は、その小惑星に自前の研究施設を建設した。
そこで当初から作りたかった、コールドスリープ機能付きの治療カプセルをはじめ、さまざまな装置や実験を次々と形にしていった。
ハルカにはガラクタと笑われたが俺にとっては夢のような環境だった。
そんなふうにして、俺はようやく満足できる生活を手に入れたのだ。
それから一年後、天城グループの秘密研究所から、とんでもない研究成果が上がったと連絡が入った。
地球の素材で作った結晶に飛空石の魔力を込めることで擬似的ではあるが、本物に限りなく近い飛空石の生成に成功したのだ。
この成果は、一部の内容を伏せたうえで即座に世間へ発表された。
その瞬間、世界中のニュース番組や新聞が一斉に飛びつき、連日のように大騒ぎとなった。
そして当然のように、天城グループ関連の株価はうなぎ登りで上昇していった。
数日後、事件は起こった。
真夜中の道路を、俺と榛名を乗せた黒塗りの高級車が静かに走り抜けていく。
その時はまだ、これから何が起こるのか想像もしていなかった。
「にしても、関係各所を回っていたら遅くなっちゃったね」
「だな。まさかこんなに遅くなるとは思わなかった」
その直後だった。
前方から轟音が響き、視界が白く弾けた。次の瞬間、車体が宙を舞い、横転しながらアスファルトを削っていく。
何が起きたのか理解が追いつかず、ただ衝撃に身を任せるしかなかった。
「いててて……榛名、無事か?」
「無事だよ。シートベルトしてたから平気」
「車が爆発するかもしれない。急いで離れるぞ」
俺たちはよろめきながら車外へ飛び出した。
だが、胸の奥に嫌なざわめきが走る。
直感的に危険を感じた俺は、スキル〈思考加速〉を発動した。
世界がゆっくりと流れ始める。
〈思考加速〉は思考速度を極限まで引き上げ、使用者の素早さに応じて加速中でも身体を動かせるスキルだ。
周囲を見渡した瞬間、右側から、空気を裂くように対物ライフルの弾丸が迫ってくるのが見えた。
時間の流れが遅くなっているにもかかわらず、その弾丸は恐ろしい速度で一直線にこちらへ向かっていた。
このままでは榛名に当たる。そう判断した俺は、限界まで身体を動かし、榛名を突き飛ばした。
直後、弾丸が腹部に衝撃を与え、視界が大きく揺れる。
気づけば、俺の身体は宙に浮き、そのまま地面へと叩きつけられていた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
榛名の悲痛な叫びが響く。
彼女は俺に駆け寄ろうと手を伸ばした。だが、その腕をメイド兼執事が素早く掴み、強引に引き止めた。
「お嬢様、危険です! 狙撃の射線に入ります!」
榛名は必死に振りほどこうとするが、メイドは彼女を抱きかかえるようにして安全な位置へ連れていく。
その光景を、薄れゆく意識の中でぼんやりと見ていた。
そして、俺の視界はゆっくりと闇に沈んでいった。
俺の人生は、あの瞬間で終わった。そう思っていた。
しかし違った。
意識がゆっくりと浮上し、視界がぼやけたまま明るさを取り戻していく。
背中には冷たい金属の感触。透明なキャノピー越しに、ハルカの顔が映り込んでいた。
次の瞬間、プシューッと空気が抜ける音が響き、透明な楕円形の蓋が滑るように開いた。
俺は反射的に上半身を起こす。裸の胸に、ひんやりとした空気が触れた。
「お目覚めになられて良かったです。現在、G.E.六九三八年百四十二日です」
ハルカの落ち着いた声が、現実感のない数字を告げた。
新しくSF作品を書き始めました。この作品は文章とかを意識しているので投稿頻度は遅めになるかもしれません。pv数によっては投稿頻度を増やす予定です。作品としては短編寄りの長編を目指しています。
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