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ベッカライウグイス⑭ お見合いのおともは解剖

古賀さんが姿を消した夏の終わり。ベッカライウグイスは徐々に秋の空気に支配され、

リスさんは新しいペストリーを模索する。

栗の渋皮煮がこんなにたいへんだとは知らなかったよ……!

みっちゃんは、なんと、弘子さんにお見合い話を持ってくる。

ベッカライでの、初めてのお見合いが幕を開ける第14話、よろしくお願いします(^^)/

 古賀さんが、やってこない。

 足繁く通ってきていたのがぱたりと途絶え、二週間ほどたった頃、ベッカライウグイスではそんな話題になった。


 普段、お客さんの話をしないリスさんでさえ、

 「古賀さん、最近来ませんね」

 と心配顔である。それは、古賀さん自身の安否を心配しているのか、リスさんの作るパンに飽きてしまったかも知れないことを心配しているのか、真意は分からない。


 古賀さんが、最後にベッカライウグイスを訪れたのは、あの驟雨の日であった。雷のさなか、私は古賀さんとリスさんを二人きりにして工場の仕事に集中した。私は、心の中でリスさんと古賀さんが、互いの話に及ぶことを望んでいた。それが叶ったにしても、そうでなくても、古賀さんが訪れなくなったというのが、その答えなのだろうか。それにしては、リスさんは何も知らない様子なのがせない。



 古賀さんがいないベッカライウグイスは、忍び足でやってきた秋に、あっという間に呑み込まれていった

 それは、帽子も外套もない無防備さで、秋風のさなかに放り出されてしまったようで、しかし誰もそんな気持ちには気づかないふりをして、一日一日を送った。

 そうして、輝いた積乱雲がすっかり羊雲に変わる頃、リスさんは新しいペストリー作りに取りかかった。


 「来春こはるさん、今年の秋は、栗のペストリーにしようと思うんです」

 「はい」

 何はともあれ、リスさんが新しいことに着手するのはよいことである。

 「……でも、たいへんなんですけど、お手伝いが……」

 「大丈夫ですよ!」

 私は、請け合った。

 「ちなみに、去年の秋は、何をお店に出していたんですか?」

 「栗のデニッシュです」

 ?私は、首を傾げる。

 「去年は、時間勤務の羽鳥さんと私だけだったので、業者さんからマロンペーストを入れてもらってたんですけど……今年は、来春さんがいてくれるので、もっと本格的なものにしたいと思って」

 リスさんは、楽しそうに言う。

 「あの、リスさん、甘夏はデニッシュでしたけど、栗になるとペストリーに変わるんですか?あれ、でも去年は栗のデニッシュだったんですよね……?」

 私は、素朴な疑問を口にした。

 「デニッシュ、っていうのは、デンマーク風のペストリーっていう意味なんですけど、パン生地にバターを折り込んでますね。ペストリーは、パイ生地だと思ってください。もう、栗のパイですね。改名した方がいいかな……」

 首をひねって、同時にリスさんは笑った。それから、急に声を落とした。不穏である。

 「それが……来春さん……私の作りたい栗のペストリーっていうのがですね……」

 今度は、レジの横に置かれているメモ用紙とペンに、リスさんは絵を描き出した。

 それは、栗のペストリーの断面図で、真ん中が栗の渋皮煮、周りにマロンペースト&クランブル、それをパイ生地で球状にされている上に、アイシングを波模様にかける、というものだった。

 ふむふむ。私は、リスさんの手元を見守った。

 リスさんは、書き終わると私を覗き込む。

 「一日、30個は出したいんですよね……」

 私は、にこやかに頷いた。もちろん、リスさんがやりたいことは、すべて応援します、とばかりに。

 「……来春さん、栗の渋皮煮、作ったことは……?」

 いいえ。私は、首を横に振る。

 「マロンペーストは……」

 もちろん、いいえ。首を横に振る。

 しばし考え、リスさんは頷いた。

 「うん。分かりました!お手伝い、お願いします!」


 それから、リスさんは早速業者さんに連絡を取った。

 まず、生栗の仕入れからである。お客様のお口に入る栗は、味だけでなく、しっかり管理されたものでなければいけない。もちろん、大きさも大きい方がいいのだが、栗は産地によって値が跳ね上がったりするそうだ。いわゆる、ブランド栗というものだが、そうではないところで、良いものをみつけなければならない。

 リスさんは、二日ほど、いつもの業者さんとやりとりをし、なんとか良いものを発注できたようだった。


 またその二日後に、業者さんが栗を届けてくれたときが、一番驚いた。

 ものすごい量である。

 業者さんは、たくさん仕入れてくださってありがとう~という明るい笑顔で、どっ、どさっと、重たい栗の袋をいくつも工場に積み上げていった。それは茶色い米袋のようだが中身は栗というもので、工場はますます狭くなってしまった。ざっと数えて20袋はある。

 「……リスさん……」

 私は、言葉なくリスさんを見た。

 これ、全部栗なんですか……?

 リスさんは、黙って力強く頷いた。

 頑張りますよ!


 その日、餡子あんこを届けにやってきた水琴みなこと庵の智翠ともあきさんでさえ、工場の栗の様子に驚いた。

 「リス、これ……」

 「栗よ、もちろん」

 智翠さんは、黙って、一番上の袋を開けた。中から、大粒のつやつやした栗が出てくる。彼は、いくつかをよく眺めた。

 「いい栗だね!」

 リスさんはほっと胸をなで下ろしたあと、腰に手を当てて言った。

 「でしょ?できるんですよ、いい仕入れが私にも」

 ははは、と智翠さんは笑った。

 「うちとは仕入れ先も産地も違うみたいだったからどうかな、と思ったけど、見たらいい栗だった」

 「そんな、老舗和菓子屋さんと同じ栗を、パン屋さんが使えるわけないじゃない」

 智翠さんは、もうひと笑いすると、また別の袋の中身を確かめだした。

 「管理もいいね。丹波は年々高値になるばかりだから、うちも考えなくちゃいけないのかも……」

 それから、ふと私を振り向いて

 「来春さん、がんばって!」

 とだけ言って帰って行った。


 

 翌日、ベッカライウグイスは二日続けての定休日の初日に当たるが、リスさんと私は栗の処理に追われた。

 これが、やってもやっても終わらない。当たり前である。栗の袋が山になってあるのだから。


 「いい状態の時に作ってしまって、冷凍するの」

 リスさんは事もなげに言いながら、せっせと作業を進める。

 「半分は、渋皮煮で、あと半分はマロンペーストにするから……。うーん、どう考えても丸四日くらいかかりそう……どうしようかな」

 私も、リスさんと一緒に「どうしようかな」と言いたくなった。

 

 私たちは、渋皮煮からとりかかった。

 まず、栗を見る。よーく皮全体や頭やお尻も見る。

 「来春さん、まず、栗の表面をチェックです。どんなに小さくても、穴があったら虫がいますので、はじいてください」

 リスさんは、業者さんに、良い卸元を頼んでいたので、はじかれた栗は思いのほか少なかった。それでも、リスさんは安心できないという。

 「栗、イコール虫です」

 それは、たいへんである。私は、舐めるように栗をチェックしだしたが、その様子にリスさんは笑った。

 「来春さん、大丈夫!皮を剥く時や、煮た後にも分かるから、そこまで針の穴をみつけるみたいじゃなくっても……」


 そしてやっと、栗を洗う。ひたすら洗う。大量のお湯を沸かし、大きなボウルに移した栗を湯に浸していく。ひたすら漬ける。しかし、この時点でのひたすらは、まったく足りないものであったと私は後に知る。

 工場は、床も、調理台もガスコンロの上も、栗だらけである。艶やかで丸々とした栗に、私は愛着を感じ始める。


 それから、私たちは、スツールを持ってきて腰掛けた。立ったままひたすら包丁を動かすことは考えられなかった。

 柔らかくなった鬼皮に、注意深く包丁を入れていく。

 「ちょっとでも渋皮がむけたらダメなので、渋皮には傷を付けないように。あ、来春さん、これ使ってください」

 リスさんは、私に軍手を渡してくれた。リスさんは、素手で進めるらしい。私は、ありがたく軍手をはめた。

 傷をつけられないと思うと、包丁の入れ方にものすごく気を遣う。が、それでも10個に1個はダメにしてしまっていたが、これは、慣れである。その日の終わりには、失敗なく鬼皮を剥けるようになっていた。

 私は、一日中鬼皮を向き続け、これが本当の「ひたすら」なんだな、ということをひしひしと感じた。包丁を持つ指と手首が痛くなり、肘が震えた。リスさんはその後、さっと湯がいた渋皮をさらに綺麗に処理しながら、お砂糖で煮ていった。そして、準備していた清潔な瓶に保存する。


 夕方に出来上がった渋皮煮の瓶に、私は見蕩れてしまった。気持ちとしては、抱きしめたかった。今日一日の努力の結晶は、たっぷりとした砂糖水に琥珀色になって沈められ、美しかった。そして、美味しそうだった。

 「来春さん!」

 リスさんは、私の口に、渋皮煮をまるごと一つ放り込んでくれた。

 栗の甘露である。こんなに美味しい甘味を、私は味わったことがなかった。私は、何度もかみしめながらリスさんを見て頷いた。リスさんは、とても嬉しそうであった。


 私たちは、ベッカライウグイス宿舎で待つ、シューさんの口に放り込む渋皮煮を一つだけ持って、工場に鍵を掛けた。

 暗くなった工場に、栗の袋はまだ山ほど眠っている。

 明日はどうなるのだろう……。



 もちろん、翌日もせっせと作業をしたが、結局栗の袋は10も残った。丸二日の作業で、半分ほどしか消化できなかったのである。

 「早く処理しなくっちゃね」

 リスさんと私は、その後5日間、業務の合間だけでなく、終業後も工場に灯りを灯し続け、ひたすらに栗と向き合った。

 一週間の地道な作業の末、最後の栗の袋が空になったときには、リスさんと私は大きな声で叫んでしまった。

 「やったー!!」

 私は、子どものように、栗の空袋を振って、中から栗が出てこないか確認し、踊り回った。

 リスさんは、最後の栗ペーストを煮詰め、冷まして袋に詰めると冷凍庫へ仕舞った。ベッカライウグイスの冷凍庫は、他の食材を押しのけ、栗ペーストの袋でいっぱいになっていた。


 「はーっ、リスさん!終わったー!栗!!」

 「やったねー!栗!」

 宿舎にくたくたになって帰ってきた私たちに、シューさんは夜食を出してくれた。この栗作業期間中、シューさんは実によく食事の支度をしてくれた。リスさんと私は感謝しきりだった。



 私たちの努力と汗の結晶である栗のペストリーが、店頭に並んだ。

 一日30個限定である。

 お昼にはもう売り切れてしまうため、なかなかみっちゃんたちの口に入ることはなく、リスさんは4個だけ余分に作って振る舞った。


 「うーん、リスちゃんこれは最高ね!」

 その日やってきた弘子さんが、美味しそうに食べ、褒めてくれたので、リスさんも私も、頑張った甲斐があったね、と頷き合った。

 弘子さんの横で、みっちゃんも大きな口を開けてテニスボールのようなペストリーを頬張っている。

 「久しぶりに栗をたべたなぁ」

 栗の渋皮煮は、久しぶりでなければ食べられないものである。

 みっちゃんは、ようく味わってからコーヒーを啜った。それから、唐突に言ったのである。


 「弘子さんさ、お見合いしてみる気はない?」

 ベッカライウグイスののどかな昼下りであった。お昼のお客さんは、既に途絶え、お店には私たちしかいない。


 「えっ?!」

 弘子さんは信じられないものを見る目で、みっちゃんを見た。

 弘子さんの、お見合い?!

 確かにみっちゃんはそう言った。リスさんと私の目は輝いた。私たちは、ショーケースの奥から、その成り行きを見守った。

 そして、静かに顔を見合わせて頷いた。


 弘子さんは、多分、ペストリーのかさかさしたところを喉の奥に詰まらせ、一瞬苦しそうな顔をした。そして、それをなんとか飲み込んだ。何度か咳き込む。

 「大丈夫?」

 みっちゃんが、本気で心配しているのかどうかは分からない。多分、とりあえずそう言っただけだ。この頃、私はみっちゃんのことがよく分かるようになってきた、そう思う。


 弘子さんはむせながら、細い指先で、とんとんと軽く胸を叩いた。

 「み、みっちゃん、どうしたの?大丈夫?」

 大丈夫かどうか心配なのは君の方だけど?という目で、みっちゃんは弘子さんを見ている。

 弘子さんは、それを察して

 「大丈夫」

 と頷いた。

 

 リスさんと私は、こっそりスツールを寄せ合って、席を並べた。

 私たちは、無言の観覧者だった。観客席は、ショーケース奥の、背の高いスツール。

 私たちは、どちらの味方、ということはない。強いて言えば、結婚してもしなくても、弘子さんの幸せを願っているという派である。

 みっちゃんは、のんびりと続けた。

 「ぼくの従兄弟にさ、医者なんだけど、離婚歴のあるやつがいてね」

 ほー。みっちゃんの従兄弟か。お医者さんか。

 私たちは、みっちゃんの説明に聞き入った。身近な人の結婚話、いやお見合い話とは、こんなに興味深いものなのか。


 「ずっと大学で研究しながら臨床してたんだけど、なんかもう年だからさ、退官して、友達がやっていた病院の非常勤になったんだよね。もともとは整形だったんだけど、整形って、知ってた?どこかが痛いとか、お年寄りが多いんだよ?」

 そうなんだ。知らなかったよ、みっちゃん。

 弘子さんは、黙ってみっちゃんの話を聞いている。


 「それで、その友達のやってた病院でさ、整形兼内科って感じで勤めたの。あ、もともとなんだったか、内科の専門医もとってたんだよね」

 ふむふむ。専門医ってとるものなんだ。資格かな?

 「で、やっぱりお年寄りが多いわけ。お年寄り専門医なんじゃないのかな」

 みっちゃん、話が逸れてる。

 「小さめの総合病院で、色んな科があって、当直とかはもう年だからないっていってたんだけど……」

 脱線したみっちゃんが戻ってこない……。リスさんと私は、やや不安に陥る。


 「それでね、お年寄りの入院してる人をたくさん診て、思ったんだって。年をとって入院したら、こんなにたいへんなんだって。子どもたちがいても、みんな遠くに住んでいて、手術や治療の承諾とか説明もひと苦労。洗濯してくれる人も、お見舞いに来てくれる人もいないんだ、って。……離婚しなければよかったのにね……」

 みっちゃーーん!

 お見合いを勧めようとしている人に、それはないよー!


 弘子さんは、そこで眉根を上げた。

 「それで?無給の女中さんを探してるわけ?」

 わっ?!

 リスさんと私は縮こませた肩を寄せ合って慌てた。どうしよう。


 「え?女中さん?いつの時代の話をしてるの、弘子さん」

 みっちゃん……。

 弘子さんは、冷たく言った。

 「じゃあ、お手伝いさんにしておくわね。それより、みっちゃん、みずほさんに、こんな無神経発言してないわよね?愛想をつかされちゃうわよ?」

 弘子さん、ここでみずほさんの心配をするなんて。


 「みんな、やがては年をとるんだよ。僕や弘子さんだってさ。一人で入院して、一人でできない洗濯物がたまっていって、必要なものを買い物にも行けなくって、病院で面倒を見てくれる人を、初対面でさ、お金を出してお願いしなくちゃいけないんだよ。そんな人を探したり手続きだってひと苦労だよね。でね、今の時代はたとえ兄弟がいても、無縁仏になっちゃうんだって。兄弟がお葬式をしてくれたらそれで本当にいい方で、病院も困ってるんだって」

 …………。最後の方は、とても現実的で避けて通れない問題だった。

 「弘子さんさ、一人っ子でしょ、確か。ぼくの、その従兄弟も一人っ子なんだよね。……だから、離婚すべきじゃなかったのに……」

 だから!!みっちゃん!


 弘子さんは、小さな溜息を吐いた。

 「確かにね、私、死んだ後のことまでは考えていなかったわね。まだ元気だし。でも、みっちゃん、知ってるでしょ?私はひとりで生きるためにマンションも買ったし、ちゃんと勤め上げて年金で暮らしてる。寂しかったり何かに依存したりすることのないように、社会に出てもいるわ。そうやって築き上げてきた生き方じゃだめなわけ?」


 みっちゃんは、手元に残っていたサンドイッチをぱくりと食べた。

 「弘子さんは、素晴らしい人だよ。僕の従兄弟も、離婚はしたけど素晴らしい人なの。二人とも社会のために、自分の適性を活かして一生懸命仕事をしてさ、自慢の二人だよ?だから、ちょっと紹介したくなったんだよね」

 みっちゃんは、続けた。

 「樹森正弘きもりまさひろっていってね、樹海の樹に、森林の森、名前は弘子さんの弘とおんなじ漢字。智翠ともあきくんと里翠りすさんみたいだよね」

 なんて木がいっぱいの苗字なんだろう……。


 「とりあえずさ、結婚とかそういうことじゃなくて、見識を広めるために会ってみるのは?医者って、面白いよー」

 弘子さんは、結構、その面白いよーというのが好きなタイプである。みっちゃん、さすが、外しているようでいいところを突いてくる。


 弘子さんは、思案顔でコーヒーを飲んでから言った。

 「みっちゃん、幾つになったっけ?」

 「え?」

 突然の問いに驚いたみっちゃんが、弘子さんに問い返す。

 「67?」

 「なんで私に聞くのよ」

 「だって、知ってるでしょ。同じ年だよ?」

 ああ、そうですか、とばかりに弘子さんはみっちゃんを見た。それから、諦めた。

 「……わかった、いいわよ。お茶を飲むくらいならね」

 「うわぁ。喜ぶよ!正弘、ボランティアに興味があってさ、弘子さん、ずっと市のボランティアで教えてるじゃない?」

 そこは、また弘子さんの嬉しい急所を!

 弘子さんは退職した後も生徒たちのために尽くす日々を送っている。

 「……そうなの?」

 「そうなの」

 みっちゃんは、楽しげに頷いた。

 「なんかね、そんな弘子さんのことを話したら、会ってみたいな~って何度も言うからさ」

 「ふーん」

 リスさんと私は、勝利者になった気分で、輝かせた顔を見合わせた。



 次の日曜の午後遅く、ベッカライウグイスは、いつものように午後5時に閉店し、その後、弘子さんのお見合い会、もといお茶会が開かれた。


 リスさんが、会場はぜひベッカライウグイスで、と提案したのだった。

 どこかのレストランや料亭だと、色々気を遣ったり、向かいに座ってなんとなく居心地が悪かったりするかも知れない。だが、ここならば、弘子さんのホームグラウンドである。どんと構えてお迎えすることができるのではないか、とホスピタリティを訴えたところ、弘子さんは、クスクス笑いながら快く頷いてくれたのだった。弘子さんは、結局、リスさんのことを我が子のように可愛がっている。


 どんな人が来るのかな~。とリスさんと私はそわそわである。弘子さんのお見合いに立ち会えるのが、こんなに嬉しいこととは!と私たちはわくわくを抑えきれず、特別メニューまで考えて準備してしまった。


 私は、誰の心も温かくする、リスさんのスープは絶対に必要だと主張した。ベッカライウグイスに就職してから今の今まで、私はリスさんのスープに慰められ満たされている。

 リスさんは、必ずや美味しいスープを作ります、と約束してくれた。

 名付けて「秋の夜長にほっこり作戦」である。この作戦名は、もちろん、リスさんと私の心の中にだけとどめておいた。いい大人が吹聴するには恥ずかしい。

 私たちは、宿舎で二人、頭を付き合わせてメニューを決めた。

 リスさんのパイ生地で蓋をされたオニオンスープ、チーズ入り。これは、聞いただけでもう美味しそう。その蓋は、栗のペストリーと同じものを使うので、泣く泣く栗のペストリーはお蔵入りとなった。その代わりに、パンはベッカライウグイスご自慢の焼きたてハードロールを3種類盛り合わせることにした。メインは、鯛のアクアパッツァと牛肉の赤ワイン煮。お肉は、ほろほろになるまで煮たものを。樹森さんは、入院していらっしゃるご高齢の方々に食べさせてあげたくなるかも知れない。デザートはリスさん特製フルーツタルトである。リスさんのカスタードクリームと、山盛りフルーツにナパージュをかけた逸品である。私は味見をさせてもらい、リスさんのパティシエの顔を新たに知ったのだった。本当に、料理もお菓子もパンも上手な人である。

 と、ここまでの段階で、たびたびシューさんの横槍が入ったことは否めない。

 シューさんがどうしてもお酒を供したいと主張するので、私たちはそれを飲んだ。考えてみると、なかなかに良い案かもしれない。リスさんも私もお酒には詳しくなかったので、シューさんに一任することにした。シューさんは、街の専門店に行って、三本のワインと大量のチーズを買ってきた。シューさんの頭の中は、チーズでいっぱいである。

 さらにシューさんは、サラダも作ってあげたいと言い募った。シューさんのサラダは、栗作業の時に何度か作ってもらったものをありがたくいただいていたが、なかなかのお味だった。バルサミコのドレッシングに、生野菜だけでなく数種類の豆とナッツが入っているのである。私たちはサラダもシューさんにお願いすることにして、メインをもう一種類考えた。



 いよいよである。


 カランコロン

 「あの~こんにちは……こんばんはかな……」

 「いらっしゃいませっ!」

 リスさんと私はかつてないほど元気よく、くだんのお客さんを迎えた。


 弘子さんは、すでにカウンターに座って待っている。そして、扉の方を振り返った。

 第一インプレッション!

 リスさんと私は、両目を瞑り合って合図したつもりが、二人いっぺんだったので、そのときは、自分が合図を送ったことしか分からなかった。


 弘子さんは、綺麗な人である。まっすぐな髪は肩の下で綺麗に切りそろえられ、細身な姿はどんな洋服を着てもよく似合う。整った顔とは別に、表情は柔和でユーモア好きなところが目元に現れていた。

 そんな弘子さんを見て、現われたみっちゃんの従兄弟、樹森さんは少しおどおどとしていた。彼は、丸い眼鏡を掛け、カジュアルなシャツを着て、年齢を感じさせない若々しい雰囲気があった。

 リスさんも私も思った。美男美女です!!


 弘子さんは、すっと席を立った。

 「常盤弘子です」

 ここで私は、弘子さんの苗字を初めて知った。弘子さんにぴったりで素敵な響きである。


 弘子さんに案内されて、樹森きもり正弘さんは、席に着いた。

 リスさんも、オーダーをお伺いしに席へ向かう。もちろん、お飲み物のメニューも、今日のために私たち二人が作った特別製である。


 「あ」

 リスさんから受け取った手作りのメニューを見て、樹森さんは声を漏らした。それがやや奇抜なのはご愛嬌である。私は、ふと誰かを思い出してリスさんを見た。

 樹森さんは、リスさんから渡されたメニューを見て、「秋の森のお茶」と注文し、リスさんは次に弘子さんへ手作りメニューを渡した。

 「リスちゃん、すごいわね。なんだか、とってもがんばってくれたのね」

 と恥ずかしげに笑いながら、「秋色のソーダ水」を注文した。

 ちょっとメルヘンチックだったかも、と私は反省しながら、再び誰かのことを思い出して、少しだけやりきれない気持ちになった。が、今は、弘子さんと樹森さんのおもてなしが第一である。

 リスさんは、スパイスとハイビスカスティーを煮始め、私は葡萄とジンジャーのコーディアルをソーダで割った。

 私たちは、大体を、あとは仕上げだけの段階まで調理しておき、工場に籠もらなくてもいいように準備していた。


 リスさんが、スパイシーな湯気の出る赤い色のお茶と、紫色のストローを刺した葡萄色のソーダ水を二人の席へ運んだ。

 「ありがとう、リスちゃん」

 灯りは、控えめにしてある。カウンター上のペンダントライトと、お店のダウンライト。カウンターの上には、匂いのないキャンドルをいくつか準備して、拾ってきた松ぼっくりと、近所の少し分け入ったところにあるのを見つけておいたツルウメモドキを置いた。

 二人は、嵌め殺しの大きな窓から、静かに暗い庭を眺めている。

 

 私たちは、パンとオニオンスープが工場のオーブンの中で焼き上がるのを待ちながら、聞き耳を立てる。

 

 秋の夜の庭は、深々《しんしん》と虫の声に覆われながら、冷えた地面の底へ触手を伸ばす。草の根が、土にしがみつく力を緩め、固いその先を探り出す。密やかな営みを、外灯が影を作って隠すその溜りには、まだ夏と見紛うばかりの草叢がさざめいて、小さな池のように見える。


 二人は、美味しそうに飲み物を啜っていた。

 オーブンに付いているタイマーが、焼き上がりのベルを鳴らす。

 リスさんと私は、工場へ行き、庫内から焼きたてのパンとオニオンスープを出す。


 店内へ戻ると、二人はとうとう会話をはじめていた。

 「常盤さんは、今年の夏、海へ行きました?海って、ヒトデを思い出しますよね」

 私たちは、ショーケースの中から出て、二人のいるカウンターへスープとパンを運び出した。

 弘子さんは……ノーリアクションである。果たして会話が進んでいたのだろうか。私は少し考えた。

 「ヒトデって、棘皮きょくひ動物なんですけど、すごいんですよ」

 私とリスさんは、ヒトデくらいではまだ不穏な空気を感じていなかったが、給仕を進めながら、そっと互いの肩に触れ目配せをした。

 「人間とは、筋肉が違うんです」

 何気なく、弘子さんの様子を確かめてみたが、樹森さんを見る表情が読めない。私たちは、手を動かしながら耳を澄ませるしかなかった。

 「あのね、ずっと同じ姿勢でいられるんですよ!人間は、制止しようと思っても動いちゃうじゃないですか。でもヒトデはね、保てるんです、そういう筋肉なんです」

 そういう筋肉に、弘子さんは興味が持てるだろうか……。

 「どうぞ」

 と小さな声で、カトラリーを並べ終わったリスさんが、樹森さんへパンとスープを勧める。

 いつの間にか二人の周りは、小麦の焼けるいい匂いに包まれ、樹森さんは、リスさんのオニオンスープを見るなり声を上げた。

 「うゎっ、こんなの飲むの、ひっさしぶりだなぁ」

  弘子さんは、

 「いただきまーす」

 とにこやかにいって、パリパリとスプーンでパイ生地を割り出した。

 樹森さんも、それを見ると同じようにしてスープに取りかかりはじめた。

 それからが、早業だった。

 樹森さんは、あれよあれよという間にスープをお腹へ流し込む。どのように見ても、味わっている風情はない。

 ものの3分で、いや2分で、樹森さんはスプーンを置いた。

 もちろん、弘子さんはまだ半分も進んでいないだろう。これはどういうふうに給仕を進めていけばいいのだろう。ショーケースに戻って、並んでスツールに腰掛けながら、リスさんと私は考えた。

 「とりあえず、お魚の準備をするわね」

 リスさんは小声で私に耳打ちをすると、工場へ入っていった。

 アクアパッツァは、もうほとんど火が通った状態で準備が済んでいる。あとはオーブンで軽く焼き、飾り付けをするだけであった。工場のオーブンは十分温まっているので、すぐに焼けるだろう。

 その間に、私は二人の元へ、シューさんの「木の実のサラダ、バルサミコ風」を運んだ。

 樹森さんは、美味しそうに焼きたてのハードロールを食べている。既に2個目を手にしている。シューさんのサラダに取りかかる。その間、何も話さない。弘子さんは、のんびりとくつろいで、庭を眺めながら食事を進めていた。

 

 そして、とうとう、いよいよだった。私は、夕べシューさんに特訓された成果を発揮すべく、意を決して右手を握った。

 ワインのサーブである。私は、いつもの木のトレーにワイングラスを乗せ、二人の元に運んだ。

 それから、再び中へ戻ると、いつもは冷たいペストリーなどを保管している方のショーケースから白ワインを取り出した。多分、いい具合に冷えている。たぶん。そして、決意を胸に、リネンとコルク抜きを手にカウンターを出ようとしたときである。


 カランコロン

 えっ?!

 お店の重い扉が開いたのだ。

 誰かと、私は入り口を見た。

 シューさんであった。

 大きな体をはすにして、そろりと入ってくる。


 シューさんは、弘子さんの方を見ると、静かに頭を下げ、そっと私のところへやってきた。

 私は、小声で泣き言を伝えた。

 「クラさーん」

 シューさんは、黙って頷くと、私の手からコルク抜きを受け取り、口を閉じたまま静かにワインの栓を抜いた。キュキュキュ、っという音がしてコルクが抜かれる。それを、シューさんは鼻に持って行き、そっと匂いを確かめる。そして、私を見て頷くと、そのまままたお店の扉から宿舎へ帰って行った。

 なんて絶妙なタイミングなのだろう。

 私は、心からシューさんに感謝した。

 詰まるところ、私のような初心者に、ワインのコルク抜きなど無理だったのだ。

 私は、安心して、ワインのサーブに繰り出した。


 「来春さん、ワインまで用意してくれたの?さっきのシューさん、すごかったわね」

 弘子さんは、くすくす笑いながら言った。

 「シューさんって、さっきの方?」

 樹森さんは、弘子さんにはじめて質問した。弘子さんのことではなく、シューさんのことである。

 弘子さんは、笑いながら答えた。

 「そう。シュバムボルンさんっていって、リスさんのドイツ修業時代のお友達なの。こっちで仕事があって、リスさんのところに滞在しているんです」

 「今日のサラダは、シューさんご自慢の逸品です」

 私は、樹森さんのサラダのお皿を回収した。

 「そうなの?美味しかったです。あ、パンも美味しいね!」

 樹森さんは、もうパンも食べ終わってしまい、私のサーブした白ワインを早速口にした。

 弘子さんは、再び、黙ってスープを口に運んだ。



 それから、リスさんと私は飾り付けを済ませると、それぞれ、できたてのアクアパッツァを一皿ずつ持って、カウンターを訪ねた。

 樹森さんは、私たちを見上げた。

 「リスさんと来春さん?ありがとう。とっても美味しいパンだったよ」

 私たちがいない間に、弘子さんは紹介してくれたらしい。樹森さんは、あまりこういうところ、つまり他人の陣地に自分一人だけという状況に慣れていない様子だったが、それでも次第に落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

 

 「……それで、ホタテですが、ホタテって、泳ぐじゃないですか?」

 落ち着いて、ホタテの話が続いていたようだ。

 それにしても、みっちゃんと血が近い。そう思わせる会話運びをする人である。

 時折、話すのをやめて、料理を味わう。心から味わっている。それで息継ぎを済ませ、また話し出す。独壇場である。

 「ホタテが、泳いで敵から逃げるときにね、自分の身、つまり美味しいところを相手に見せて逃げるっていうのが、だめだよ~、ってずっと思っていたんですけどね……」

 樹森さんは、ナイフとフォークを持つ手を一瞬止めた。

 「おや、これは……アサリだ」

 樹森さんは、ヒトデからホタテ、そしてアサリへと話題を移した。


 一枚のアサリを、パンの載っていたお皿に移すと、弘子さんへひと言いう。

 「いいアサリですね」

 それから、樹森さんは、かちゃかちゃという音を立てながら、器用にナイフとフォークを使ってアサリを分解していく。

 ショーケース奥の観覧席へ帰ったリスさんと私からも、その様子はよく見えた。

 分解というよりそれは、解剖だった。

 「貝って、軟体動物だから、棘皮動物とは違いますよね。この二本出ているのがですね、吸い込み口と吐き出し口。長くて若干太い方が、吸い込み口で、ここから彼らの食事、プランクトンを吸い込んで、ここ、えらですね、えらで漉し取るわけです。餌を。えらは呼吸もしてるわけですけど、そして、こっちの吐き出し口は、老廃物を外に吐き出すわけですね。ま、人間で言うと、口と肛門の働きですね。でも、本当の口と肛門は、別の場所にあるんです。見えるかな……」

 お皿にナイフの触れあう音が、静かな店内に響く。

 「あ、あったあった。ほんとに新鮮なアサリなんだな。煮られてても分かる。……この穴が口で、このびろんと長いのが腸、腸の端っこの肛門が出水管の方へ伸びていて、排泄されるんです。面白いのが、アサリは、腸に心臓がくっついていることなんです。ちょっと……わかりにくいけれど、たぶん、これが心臓。このあんまり色が良くないなぁ、っというところが胃。このアサリが食べたものがここに溜まってるから、こういう色なんですね」

 弘子さんは、ふむふむ、と黙って聞いている。

 「これが外套っていわれる部分で…………」

 こうして、樹森さんは、アクアパッツァだけ、食事の進みが遅かった。



 カランコロン

 私の祈りが届き、再び、シューさんが現われてくれた。

 だが、まだ肉料理にはかかっていない。アクアパッツァが遅れているためである。

 シューさんは、のんびりとスツールに腰掛け、コーヒーを啜っている私たちを見とがめた。

 まだなの?とその青い目が語っている。

 まだなんですよ。リスさんと私は静かに頷く。


 シューさんがなぜお店の扉からやってくるのか、というと、工場には決まった人しか、そして衛生的な服装と靴に履き替えた人しか入れない、と念を押しているからであった。

 だから、シューさんは、ショーケースの奥に入ることも遠慮して、私にジェスチャーで、ワインのコルク抜きについて知らせた。

 私は、うんうん頷きながら、ショーケース奥のカウンターに置かれている赤ワインと、コルク抜きを、レジ横のカウンターの上に載せてシューさんの手技を待った。

 シューさんは、忍び足でやってくると、きゅきゅきゅっとコルクを抜き、その匂いを嗅いだ。そして青い瞳に目蓋を半分だけ下ろし、深く頷くと去って行った。

 私は、感謝の眼差しで、その大きな後ろ姿を見送った。


 

 それから、やっと、赤ワインをサーブする機会がやってきた。

 白ワインのグラスを下げ、新しいグラスを置く。そこにとぷとぷとボルドー色のワインを注ぐ。片手で注ぐ。真剣勝負である。滑らかなグラスの内側に、ワインを鮮やかに透かした波ができる。

 「いい匂いね、来春さん」

 弘子さんが、私に声をかけた。

 「シューさんからの、プレゼントです」

 「あら」

 弘子さんはにっこりした。

 樹森さんは、鷹揚にいった。

 「それは、お礼を伝えたいな。ものすごく美味しいワインでした、とお伝えしてもらえるかな?」

 私は、にっこりして頷いた。

 「はい」


 二人は、芳醇な香りを吸い込みながら、ワインを堪能した。シューさんの意見はやはり正しかった。 


 そうして、樹森さんは独り言なのか会話なのか分からないが話しはじめる。

 「ホタテって、脳があるのかなぁ。いや、考えたことなかった」

 牛肉の赤ワイン煮を運ぶリスさんは、肩をふるわせていた。明らかに笑いを堪えている。

 「あるんじゃないですか?ミジンコにもあるから」

 弘子さんが、ここでやっと、樹森さんとの会話に参加した。だが、その言葉にはなんの感情もないように聞こえた。

 「あ、ミジンコの神経節ですね?ぼく、ミジンコ飼ったことあるんです。池で、捕まえてきて。ミジンコって、目に見えるんですよ。それで、最初のうちは、ばーーっ増えて嬉しくて、もう餌をたくさんやるんです」

 「ミジンコの餌って……?」

 「ほうれん草パウダーです。スーパーに売ってる」

 「へぇ」

 「毎日毎日、数えるのが楽しくって。でもやつはああ見えて、泳ぐのが早いですからね。同じ個体を数えないように気を付けなくちゃいけないんですけど……。でも、ある日、ぱたって、いなくなったんです」

 「えっ?」

 「どうしてか、謎なんですけど。僕は、一夜にして、僕んちの水槽がいやになっちゃったんだと思いましたね」

 「はぁ」

 「じゃなければ、あんなに忽然と全員不明になるはずがない。虎男も一緒に見に来てたから、覚えてると思いますよ」

 「……それって、最近ですか?」

 「いいえ、小学生の時です。ミジンコが泳いでるところ、久しぶりに見たいなぁ」

 弘子さんは、笑った。今日、はじめて声を出して笑ったのだった。

 後日、弘子さんはミジンコが結構好きである、と私たちに話した。人の好みは分からないものである。

 ベッカライウグイスの、お見合いの夜は更けていった。 



 こうして、樹森さんは、ベッカライウグイスによく顔を出す一人になった。

 だが、不思議なことに、彼は来る度、カウンターの上や壁やショーケースをキョロキョロと見て確認する。

 どうしたのかと思ったリスさんが、あるとき聞いた。

 「樹森さん、なにかお探しですか?」

 「ん、あ、いやあの、メニュー表をね……ちょっと、いただけるかな?」

 私は、ショーケースの中でくすくすと笑いが止まらなかった。樹森さんの様子が微笑ましかったからである。

 

 弘子さんからは、樹森さんと海鮮料理のお店へ行った話を聞いた。

 弘子さんは、そこで、今度はホタテの解剖に付き合わされ、器官の名称を説明されたそうだ。当たり前だが、アサリよりずっと大きくて色々はっきりしていたらしい。

 次は、ムール貝かな。

 二人の成り行きを、リスさんと私はそっと見守っている。

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