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熊と共存していくことは無理じゃない

作者: M
掲載日:2026/06/11

本作は問題提起をするものでも、非難、揶揄するものでもありません。

 私は公園でカプチーノを飲んでいた。

 隣に座っているのは、一番仲のよい同僚。

 話題を振るのは、いつも私からだ。


「熊のニュース見た?」

「ん? どのニュース?」

「去年一年間で、日本の熊が一万四千頭以上殺処分されたってやつ」

「あーね」


 彼女が飲むのはフラペチーノ。かなりの甘党だ。


「かわいそすぎない? 一万四千って言ったら、パンダなら絶滅しちゃうよ」

「ふっ、パンダって」


 彼女は吹き出しそうになる。


「パンダと熊は仲間でしょ」

「まあ、そうだね」

「殺さなくてもよくない? 山に返してあげればいいのに」

「山に返しても美味しいものあるって知ったら、また降りてくるよ。あなただって、東京旅行にもう一回行きたいでしょ」


 私は前の旅行を思い出す。


「……行きたいねえ。もっと美味しいもの食べに行きたい」

「でしょ、同じじゃん」


 彼女は肩を竦める。


「じゃあ、街へ降りてこないように、山にエサをばら撒く」

「どんぐりがエサなんだっけ」

「あと鮭!」


 木彫りの熊の格好をマネると、私も彼女も大笑いする。


「いくら掛かるのよ」

「そもそも、実のなる樹や生ゴミを狙って街に降りてくるんだから、それを山に持っていけば良いんだよ」

「生ゴミを山へ捨てるの?」


 環境破壊とか不法投棄といった単語が頭をよぎる。本末転倒な気がしてきた。


「ダメかぁ……いいと思ったんだけど」

「あと、山にエサが増えたら、熊も増えるでしょ」

「増えたら、エサ減らす」

「そしたら街へ降りてくるじゃん」

「うーん」

「実際に、熊が近くをうろついてたら、そんなこと言ってられないって」


 反論できない。行き詰まった。

 私は自分のカバンに付けているプーさんのアクスタを眺める。


「熊、可愛いのになぁ」

「そうかな?」

「プーさんもそうだし、リラックマとか、くまモンとか。熊が可愛いから、たくさんキャラクターになってるんでしょ」

「でも、人を襲うんだよ。襲われたら死んじゃうんだよ。処分は仕方ないんじゃない?」


 彼女は諦めたように言うけど、私は割と本気だ。


「街中で銃を撃つ方が危ないと思わない? 人に当たったら大変でしょ」

「放っといたら、被害者が増えるだけじゃん」

「熊に人間が怖いって教えられたら良いんだけどなぁ」

「熊って動物よ。話が通じるわけないじゃない」


 彼女の言葉は筋が通っているように見えて、ただ考えてないだけだ。

 だから。


「人間って賢いんだからさ、熊と共存していくことは無理じゃない!」


 彼女は「へー」と相槌を打つ。興味ないのかな。こんなに大事なことなのに。ちゃんと考えたら解決策は必ずある。


 その時だ。


  ブゥン


「ハチっ!」


 私たちは立ち上がる。


「いや、怖っ!」


 私はカバンの肩ひもを持って振り回す。ビュンと音を立てて、うまくハチに当たった。

 ハチは、地面に落下して動かなくなった。


「あー、良かった」


 カバンにビータンが付いてしまったので、ティッシュで拭き取る。

 彼女は、フラペチーノとカプチーノのカップを持って避難していた。


「ちょっと。カバン振り回したら危ないと思わない? 人に当たったら大変でしょ」

「ハチよハチ。人を刺すんだよ。刺されたら死ぬかもしれないでしょ」


 彼女からカップを受け取る。私はまだ心臓がドキドキしている。


「ハチは、社会性があって賢いのよ。刺激しなければ大丈夫よ」

「ハチって虫よ。話が通じるわけないじゃない」


 私は心を落ち着かせるために、カプチーノを一口飲む。


「ハチこそ、人間と共存ができている生き物よ。ハチミツは、人間も熊も好きなものでしょ」

「でも今みたいに、ハチが近くを飛んでたら、怖いでしょ!」

「そんなこと言ってられない?」

「そう!」


 彼女は何か思い出したかのように笑う。


「でも、ハチって可愛いのになぁ」

「どこが?」

「昔のアニメで、お母さんと生き別れになったハチの子どものアニメがあってね……」

「そういえば、アニメにハマったって言ってたね。でも、アニメと本物は別でしょ」


 彼女は、私のカバンに付いたアクスタをチラ見して、ため息をついた。

 

「……あなたは、熊と共存していくことは無理じゃない?」

くま(・・)でも、タイトルが二つの意味を持つというジョーク、言葉遊びです。

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― 新着の感想 ―
投稿お疲れ様です。拝見させていただきました。 つい先日クマに関する投稿を私もさせてもらってたので興味を引きました。 クマもこちらを怖がってはいるでしょうけど、襲う可能性も否定できないし身体も大きいから…
倫理と、感情。 どれだけロジカルに解決の道筋を組み立てたとしても、生じる感情を抑制できる訳がなく。まあ、語り手さんの様に、語るに落ちるんだろうなぁ。 まあ、そもそも、熊が人を殺し猟師が熊を駆除する現…
主人公の「無理じゃない!」と同僚の「無理じゃない?」 主人公が自分の意見を、知らず知らず自分で否定してしまっているという構成が面白いですね。
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