熊と共存していくことは無理じゃない
本作は問題提起をするものでも、非難、揶揄するものでもありません。
私は公園でカプチーノを飲んでいた。
隣に座っているのは、一番仲のよい同僚。
話題を振るのは、いつも私からだ。
「熊のニュース見た?」
「ん? どのニュース?」
「去年一年間で、日本の熊が一万四千頭以上殺処分されたってやつ」
「あーね」
彼女が飲むのはフラペチーノ。かなりの甘党だ。
「かわいそすぎない? 一万四千って言ったら、パンダなら絶滅しちゃうよ」
「ふっ、パンダって」
彼女は吹き出しそうになる。
「パンダと熊は仲間でしょ」
「まあ、そうだね」
「殺さなくてもよくない? 山に返してあげればいいのに」
「山に返しても美味しいものあるって知ったら、また降りてくるよ。あなただって、東京旅行にもう一回行きたいでしょ」
私は前の旅行を思い出す。
「……行きたいねえ。もっと美味しいもの食べに行きたい」
「でしょ、同じじゃん」
彼女は肩を竦める。
「じゃあ、街へ降りてこないように、山にエサをばら撒く」
「どんぐりがエサなんだっけ」
「あと鮭!」
木彫りの熊の格好をマネると、私も彼女も大笑いする。
「いくら掛かるのよ」
「そもそも、実のなる樹や生ゴミを狙って街に降りてくるんだから、それを山に持っていけば良いんだよ」
「生ゴミを山へ捨てるの?」
環境破壊とか不法投棄といった単語が頭をよぎる。本末転倒な気がしてきた。
「ダメかぁ……いいと思ったんだけど」
「あと、山にエサが増えたら、熊も増えるでしょ」
「増えたら、エサ減らす」
「そしたら街へ降りてくるじゃん」
「うーん」
「実際に、熊が近くをうろついてたら、そんなこと言ってられないって」
反論できない。行き詰まった。
私は自分のカバンに付けているプーさんのアクスタを眺める。
「熊、可愛いのになぁ」
「そうかな?」
「プーさんもそうだし、リラックマとか、くまモンとか。熊が可愛いから、たくさんキャラクターになってるんでしょ」
「でも、人を襲うんだよ。襲われたら死んじゃうんだよ。処分は仕方ないんじゃない?」
彼女は諦めたように言うけど、私は割と本気だ。
「街中で銃を撃つ方が危ないと思わない? 人に当たったら大変でしょ」
「放っといたら、被害者が増えるだけじゃん」
「熊に人間が怖いって教えられたら良いんだけどなぁ」
「熊って動物よ。話が通じるわけないじゃない」
彼女の言葉は筋が通っているように見えて、ただ考えてないだけだ。
だから。
「人間って賢いんだからさ、熊と共存していくことは無理じゃない!」
彼女は「へー」と相槌を打つ。興味ないのかな。こんなに大事なことなのに。ちゃんと考えたら解決策は必ずある。
その時だ。
ブゥン
「ハチっ!」
私たちは立ち上がる。
「いや、怖っ!」
私はカバンの肩ひもを持って振り回す。ビュンと音を立てて、うまくハチに当たった。
ハチは、地面に落下して動かなくなった。
「あー、良かった」
カバンにビータンが付いてしまったので、ティッシュで拭き取る。
彼女は、フラペチーノとカプチーノのカップを持って避難していた。
「ちょっと。カバン振り回したら危ないと思わない? 人に当たったら大変でしょ」
「ハチよハチ。人を刺すんだよ。刺されたら死ぬかもしれないでしょ」
彼女からカップを受け取る。私はまだ心臓がドキドキしている。
「ハチは、社会性があって賢いのよ。刺激しなければ大丈夫よ」
「ハチって虫よ。話が通じるわけないじゃない」
私は心を落ち着かせるために、カプチーノを一口飲む。
「ハチこそ、人間と共存ができている生き物よ。ハチミツは、人間も熊も好きなものでしょ」
「でも今みたいに、ハチが近くを飛んでたら、怖いでしょ!」
「そんなこと言ってられない?」
「そう!」
彼女は何か思い出したかのように笑う。
「でも、ハチって可愛いのになぁ」
「どこが?」
「昔のアニメで、お母さんと生き別れになったハチの子どものアニメがあってね……」
「そういえば、アニメにハマったって言ってたね。でも、アニメと本物は別でしょ」
彼女は、私のカバンに付いたアクスタをチラ見して、ため息をついた。
「……あなたは、熊と共存していくことは無理じゃない?」
あくまでも、タイトルが二つの意味を持つというジョーク、言葉遊びです。




