瀬能杏子へ刑事の聞き込み 僕の心の中の殺人 1.82話
杏子「さあ。どうぞ、おあがり下さい。」
刑事「いや、ここでいいよ。」
杏子「そうですか。」
刑事「君、織部君の法要の時に、会ったね?」
杏子「ええ。」
刑事「奥さんと国本君に聞いたら、君の事、教えてくれてね。それで話が伺えないかと思って、今日は来たんだ。」
杏子「そうですか。」
刑事「君、初めて来たんだって?」
杏子「ええ。はい。」
刑事「なんでまた、急に、改めって。いや、問い詰めている訳ではなくて、疑問に思ってね。」
杏子「まあ。そうですよね。そう思いますよね。」
刑事「君、織部君ところの生徒会長だったんだってね?・・・三年も経って、線香立てに現れるなんて、ねぇ?」
杏子「ああ。そうですね。刑事さんのおっしゃる通りです。・・・私も気まぐれで。」
刑事「気まぐれ?」
杏子「友達と話していたら、中学生の時に亡くなった織部君の話になったんです。」
刑事「・・・友達?」
杏子「ええ。織部君の彼女だったって人から。」
刑事「・・・彼女ねぇ?織部君に彼女なんていなかっただろう?」
杏子「?・・・そうですか?」
刑事「ちなみに、その子、名前は?・・・教えてもらえる?」
杏子「ええ。安田さん。」
刑事「・・・安田則子さん?」
杏子「ええ。そうです。」
刑事「ああ。安田さんか。・・・なるほどねぇ。」
杏子「・・・安田さん、織部君と交際していたのではなかったのですか?」
刑事「うん、まぁ、そう、だねぇ?」
杏子「私はてっきり、二人は交際していたものかと。・・・仲が良かったと聞いていたし、亡くなった後も法要に出かけられていたと、安田さんから聞いて、それで。」
刑事「まあ、まあ、まあ。まあ、それはそれでいいんだけど。」
杏子「安田さんに聞いて、私、当時、生徒会長でありながら、織部君のそういうのに無頓着で、もう少し、あの時、何か出来なかったか考えてしまって、それで、お線香立てに上がらさせていただきました。」
刑事「ああ、そうなんだ。うん。」
杏子「安田さんに、一番の親友、国本君が織部君の法要に行っていると聞いたので、それで、一緒に連れて行ってもらう事にしたんです。」
刑事「ああ、それは国本君から聞いているよ。・・・君も、熱心だね。いやぁ頭が下がるよ。卒業した学校の生徒会長とはいえ。」
杏子「・・・心残りだったものですから。織部君のご両親、卒業式に列席されていまして、私、本当にいたたまれなくなってしまって。」
刑事「奥さんも、君が卒業式で挨拶していたの、覚えていたよ。」
杏子「・・・織部君の位牌に挨拶が出来て、少し、心が軽くなった気分です。」
刑事「そうだよね。・・・。」
杏子「・・・。」
刑事「あのぉ、瀬能さん?・・・君、織部君が亡くなった当時、何していたか、覚えているかな?」
杏子「・・・。」
刑事「いやぁ、あのぉ、定型的な質問だから。・・・生徒にも聞いた事だし、君にはまだ聞いてなかったと思って。」
杏子「・・・たぶん、私は、生徒会活動を行っていたと思います。毎日、五時、六時まで学校に残っていましたから。織部君が亡くなったとされる日も同じように、過ごしていたと思います。あ、」
刑事「・・・なんだい?」
杏子「今、思い出したのですが、学校の活動日誌が残っていれば、正確な活動内容がわかるかも知れません。・・・母校に問い合わせていただければ、分かるかも知れません。ただ、保管しているかどうかは分かりませんが。」
刑事「凄いね。いやぁ、アリバイの答えとして完璧だ。」
杏子「・・・なにぶん、中学生の生徒会活動ですから、活動日誌の保管も、はずかしい話、ずさんで。・・・昔の活動日誌が生徒会室を圧迫しまい、まとめて処分するなんて日常茶飯事でしたから。三年、二年くらい前の活動日誌なら、残っていると思うのですが?母校に聞いてみて下さい。」
刑事「いやいや、ありがとう。ま、聞くまでもないけど。」
杏子「・・・国本君から聞きましたけど、なかなか事件が進展していないようですね?織部君も、ご家族も、心安らかに霊前に向き合えないとか、ご心痛お察しいたします。」
刑事「ああ、そうなんだよね。ご家族には申し訳ないけど、まるで事件が進まないんだよ。だから、君みたいな、子のところまで、話を聞きに来たくらいさ。」
杏子「手がかりとか、まるでないんですか?」
刑事「ないねぇ?ないない。だから、困っているんだよ。」
杏子「せめて、目撃者とかいたら、すぐ解決できたのでしょうに。・・・残念です。」
刑事「目撃者っていうか、見た人?・・・犯人とおぼしき人間はカメラに映っていたんだよ?」
杏子「犯人?・・・怖ゎい!」
刑事「犯行の現場は、カメラの死角になっていて、映っていなかったんだけど、周囲のカメラの映像で、犯行時間前からうろついている人間の映像が確認できたんだ。だけど、カメラも全部が全部、流れるように犯人を追いかけている訳じゃないから、切り切りでね、けっきょく、カメラでの追跡は出来なくなってしまったんだ。」
杏子「ええ!じゃあ、犯人は、前からずっと事件を起こそうと狙っていたという事ですか!・・・いあぁ。怖い。怖い。もしかしたら、私が襲われていた可能性もあるって事ですよね?」
刑事「ああ?ああ。ああ、そうだね。凶器を持った不審者が商店街をうろついていたんだ、君みたいにかわいい子は、十分、注意しないと。」
杏子「ええ!凶器を持っていたんですか?・・・織部君、殺されちゃったんですか!」
刑事「え?あ、ああああ。君、知らなかったの?」
杏子「怖い!・・・どうしよう!」
刑事「大丈夫、安心して。安心して。そういうの滅多にいないから。・・・あれなんだよ、たぶん、織部君だけをターゲットにした事件だったんだよ。」
杏子「!」
刑事「残念だけど、何故か、犯人は織部君を狙って、犯行に及んだんだ。だから、それ以外の人に危害を加える心配はないと思っている。・・・もう、事件から三年だ。無差別じゃない所を見ると、やはり織部君単身を狙った事件なんじゃないかと、思っている。・・・秘密だからね?いい?」
杏子「・・・織部君。かわいそう。・・・織部君、何か、人に恨まれる事でもしたんですか?」
刑事「いや、それはないと思うんだけど。・・・国本君の話だと、人畜無害だという話だし。不良でもないし、派手で目立つ事をするタイプでもないし、好きな女の子に、ああ、安田さんの事ね。告白もできなかったって。はぁ。・・・あんな若いのに、これからの子なのに、せめて、好きな子に告白ぐらいさせてあげたかったよね。」
杏子「・・・。」
刑事「警察も最初は、無差別な殺傷事件だと思っていたんだけど、」
杏子「・・・無差別ではなかった?」
刑事「まぁ、そうなんだよね。そういう見方を今はしているけど。」
杏子「・・・誰かに間違われて、殺されてしまった、という事はないんですか?」
刑事「まあ、それも検討している、けど。じゃあ、誰と間違われたんだ、って話にもなるだろ?当時から、おかしな噂は飛び交っていたけど、どれも確証に至らなくてね。」
杏子「・・・相手が未成年だからですか?」
刑事「・・・ああ。そういう線も否定できない話ではあったけども。・・・仮に、犯人が未成年だったとしたら、慎重に捜査を行わないと。確実な証拠がない限り、人をつかまえるっていうのは難しい話なんだ。・・・捕まえるのは簡単だよ?でも、大事なのは、それで法の裁きを受けさせるっていうのが大変なんだよ。」
杏子「織部君は大変な事件に巻き込まれてしまったんですね。そして、命を落としてしまった。」
刑事「落ち度がない人間が殺されてしまったんだ。・・・犯人はその報いを受ける必要がある。話は簡単、それだけなんだよね。」
杏子「大学生の運動部が、競技外でも、小競り合いをしていた、という噂がありましたが・・・?」
刑事「ああ。あったね。そんな噂。お互いの大学でやり合って、怪我人を出して、傷害罪でつかまった、っていう話もあるし。実際、捕まっているし。かと言って、織部君の事件と関係があるかと言えば、接点はないからね。そんなんで事件が解決するんだったら、とっくに解決してるよ?」
杏子「・・・アハハハハ。噂話だったんですね。・・・もう怖くて、商店街に行けないと思っていたから。」
刑事「そうだね。確かにね。」
杏子「お茶か、コーヒーか、何か、お飲みになります?」
刑事「いやいやいやいや。もうお邪魔するよ。僕が言うのも変だけど、また、織部君のご霊前に会いに行ってあげてよ?お母さんも喜ぶと思うし。」
杏子「・・・そうですね。うん。そうします。」
刑事「それじゃ、また、何かあったら連絡するよ。今日はこれで。」
杏子「ご苦労様です。」