対決 僕の心の中の殺人 1.91話
二宮「これで思い残す事が無くなったよ。」
杏子「・・・そうですか。」
二宮「自分のお墓を自分でお参りに来るなんて、ね。・・・しばらく父さんも母さんも来てないのかなぁ。」
杏子「自分のお墓なんですから、自分で綺麗にしていけば、よろしいんじゃないですか?」
二宮「まぁ、墓なんてただの飾りだから。こんな石っころに何の意味もない。・・・生きている人間の方が大事だからね。」
杏子「ご自宅を引っ越されて、二年になりますから、なかなかご家族も、ここまで来る事が難しいのでしょうね。」
二宮「それにしても、草ぼうぼうだよ。」
杏子「・・・まぁ。そうですね。うん。」
二宮「どっちにしても付き合ってくれてありがとう。なかなか一人じゃ来づらくって、ね。・・・これで一区切りだよ。」
杏子「・・・そういうものですか?私はあなたみたいな経験がないので分かりませんが。」
二宮「やっぱり自分のお墓を見ると感慨深いよ。改めて、死んでしまったんだって思うよ。・・・そうだ、瀬能さん。僕を殺した、犯人、見つかりそうかな?」
杏子「・・・以前にも話ましたが、織部君?あなたの話だけでは、まるで犯人を特定するなんて芸当、出来ませんよ?」
二宮「・・・。この前、電話した時は随分、強気な事を言っていたのに。・・・瀬能杏子が、降参なの?」
杏子「アハハハハハハハハハハハ。降参?いえいえ。あなたの話からは犯人を見つけ出す要素がまるで得られませんでした。いくら私でも具体性に欠ける、あやふやな話で犯人を見つける事なんて出来ないと言っただけです。」
二宮「?・・・見つけられないんじゃ同じじゃないか。」
杏子「私は、『あなたの話だけでは』と言いました。あなたの話だけではお手上げでした。
・・・お手上げはお手上げなのですが、私はどうしても腑に落ちない事があります。
二宮絵馬さん。私は、あなたの証言により、振り回されたと言って良いでしょう。
事件被害者という織部君と、織部君と関りがあった知人友人ご家族の、大きな温度差を感じるのです。そのギャップが、違和感であり、どうしても腑に落ちない事なのです。
あなたは、本当に、何者なのですか?」
二宮「僕は、僕だよ。それ以上、説明のしようがないよ?」
杏子「二宮絵馬さん。あなたの存在自体が、ふわふわしているのです。証明のしようがない・・・存在なのです。
しかし。私にしてみれば、些細な事です。あなたの存在が、いかなる者であっても、関係がありません。
私が知りたいのは、三年前、織部君が亡くなった、その真実のみです。
私は、当初、それほど興味が湧く話ではありませんでした。同級生が死んだからと言って、だから何だ、一切、私には関係ない話です。同級生として告別式に出る、それ位の関係ですよ。何の感情もありませんでした。・・・他の同級生達も同じだと思います。
ですが、今回、あなたによって、同級生の死を振り返る機会を与えられました。何かの使命だと感じました。
おまけに、死んだ同級生の、死の原因は不明とされています。あなたは、殺されたといい、犯人を見つけろ、と言う。
三年前の私は、事件だろうが事故だろうが、殺されていただろうが、何の関心も持っていなかったのは事実です。」
二宮「・・・瀬能さんは人が言えない事をズケズケと言えて、清々しいねぇ。尊敬に値するよ。」
杏子「私が興味を持った理由は、心臓を移植された人間が、元々の持ち主の記憶を宿した、という事です。自分を殺した犯人を見つける?・・・これほど、不謹慎で、愉快な事はありますか?
私は、当時の贖罪と同時に、愉悦に震えましたよ。」
二宮「ははははははははははははははは。・・・流石、瀬能さんだ。僕が見込んだ人間だけの事はある。」
杏子「単刀直入に言います。
織部君を殺した犯人。あなたですね?」
二宮「・・・。・・・・・本気で言ってる?」
杏子「ええ。」
二宮「そう?」
杏子「否定しないの?・・・もっと否定して下さいよ?私を楽しまさせて下さいよ?」
二宮「別に否定する事でもないもの。ただ。ただ、・・・残念だなぁ。瀬能さん、君なら、僕の事を理解してくれると思っていたのに。
僕の事を織部巡と信じなくても、まさか、僕が、僕を殺した犯人だ、なんて。
・・・僕は君を高く買いかぶり過ぎていたみたい。君も、ただの、普通の人間だったね。そこら辺にいる、頭の中が空っぽな人間と一緒だ。
君を信じた僕が、愚かだったよ。・・・・ははははははははははははは。」
杏子「私を高く評価して下さった事は、ありがたく頂戴いたします。悪い気はしません。
私は、科学論者でもオカルト論者でもないですから、織部君の記録が、臓器に宿り、それが移植者である、あなたに移る、という事ももしかしたらあり得る事だと思います。それを否定する論拠も根拠も私は持ち合わせていませんから。
初めてあなたに会った時、あなたは、私に、胸の傷を見せてくれました。多かれ少なかれ心臓の手術であることは予想がつきます。
それを証拠に、あなたが織部君である。あなたと織部君は同一人物であると、信じさせようとしました。
私も人の子ですから、死んだ織部君が、あなたの心に宿ったのなら、それは奇跡に他ならないと思います。
ですが、あなたが織部君だなんて、信じられる根拠がどこにもありませんでした。平たく言えば、嘘をつくならもっと本当らしい嘘をつくべきです。
・・・あなたの誤算は、もっとあなたの事を信じてくれる、恋人なり親友を仲間に引き込むべきでした。無慈悲な私ではなくね。」
二宮「何をどう言おうと、今の僕を理解し、信じてくれる人なんて、いないと思うけどね?
死んだ僕が、生き返るなんて。・・・いや、死んだ僕の記憶が、僕に、乗り移るなんて、誰も信じてくれやしないと思うけど?」
杏子「・・・私は。私は、信じていましたよ。少なからず、可能性は否定していませんでした。
あなたは、嘘が下手です。それに、織部君の死を軽んじ過ぎています。
しかも、簡単に、犯人に復讐するだとか言う。犯人が分かった所で、いったい、どうやって復讐をするんですか?
犯人を突き殺すんですか?・・・織部君が殺された時のように。」
二宮「はははははははははははははは!
僕が、僕を殺した相手に復讐して何が悪いと言うの?・・・僕は殺す正当な権利を持っていると思うけど?
しかも、君は、僕の死を軽いと言う?まさか、感情論?感情論で、僕の存在を疑うと言うの?
はははははははははははははははは!・・・ほんと、君は面白いねぇ?だから、僕は君を選んだんだ。僕の仲間は君しかいない!僕を理解出来るのは君しかいないんだよ!」
杏子「・・・感情論ではないんですよ。あなたは勘違いをしています。
二宮絵馬。あなたと、あなた以外の織部君の関係者は、あからさまに熱量の違いがあります。
織部君の友達は、警察に事情を聞かれました。友達は皆、織部君の助けになりたいと思い、知っている事、すべてを話しました。そこには、噂話も含まれてしまいましたが、彼らは、どんな些細な情報でも、犯人が捕まる事を祈り、協力をしました。
ですが結果は、三年経った今でも、犯人が見つかる事はありませんでした。今、見つからないのだから今後も見つからない事でしょう。
織部君の友達は、死を死として受け入れようとしています。中には、死を受け入れられない人達もいますが。あなたと決定的に違うのは、少なからず、死と向き合っているという事です。
それに比べ、あなたは、死というものに敬意がありません。他人事なのです。
あなた、仮にも、織部君なら、自分の死に対して、どうしてそんなに、関心がないのですか?殺されたんですよね?復讐したいんですよね?
もっと怒りに満ちて、憎しみと憤りをもって、自分を殺した相手に挑むべきではないのですか?
そんな感情を私に、一度でも見せましたか?あなたはあまりにも、ひょうひょうとし過ぎなのです。
・・・この辺は、あなたが言う通り、感情論での話です。
もっとも理論的な疑問もあります。警察が三年も捜査しているのに、一向に、犯人が見つからない事が、最大の、あなたへの疑念です。
本当に、あなた、犯人を見たんですか?
あなたが言っている犯人は、本当に存在するんですか?
私は、あなたが、嘘を言っている様にしかみえません。警察は、犯人特定に至る情報を持っていません。三年かけて情報を潰してきたからです。
直接、犯人を見たのは、あなたしかいないし、その話も、客観性を得るものではありません。犯人を見た、と言っているのに、犯人とおぼしき人物に繋がる情報が得られない。
・・・極めて、簡単な話です。
あなたが見た犯人が嘘だからです。正確に言いましょう。あなたは犯人を見ていない。あなたが言う犯人は存在しないのです。」
二宮「ははははははははははははは。犯人がいない?じゃあ僕は誰に殺されたって言うの?僕は確かに殺されちゃったじゃないか!」
杏子「だからあなたが殺したんです。二宮絵馬!
あなたが、織部君を殺したんです。そして、凶器も未だ、持っている。あなたが持っているんでしょう?織部君を刺した凶器。」
二宮「おかしな事を言うねぇ?僕が僕を殺した?・・・証拠はあるのかい?・・・今、君が言ったよね?凶器を仮に僕が持っているのならば、証拠なんてどこにも無いじゃないか?憶測で物を言われてもねぇ?」
杏子「残念ながら物的証拠はありません。織部君の死体も焼かれて、物理的に無くなってしまいました。
あなたは知らないと思いますが、織部君を殺したとされる犯人。犯人とおぼしき不審者。そんな人、存在していませんでした。事件当日、その時間、商店街で不審者はいませんでした。カメラの映像として残っていますし、警察がチェック済みです。あなたはコート状の上着を着た男に殺されたと言いました。私は、この情報で、犯人は男だと刷り込まれてしまいました。これにより、同級生が噂する、関係ない事件を調べるハメになったのです。織部君が大学スポーツの選手家族と間違われ、殺されてしまった、という話です。確かにその時期にそのような事件がありました。中学生であれば、大学生の弟としても通用する範囲です。丁寧に調べてみれば事件がまったく関係ない話だとすぐに分かりますが、男子大学生ならば、あなたの言っている犯人像と合致してしまう為、存在しない犯人を永遠に探してしまう所でした。
ですが、生憎、私と違って織部君の友達は冷静な人が多くて、助かりました。
中学生の、同級生の死を目の当たりにしたんです。死んだ後の変遷もずっと見てきた彼らは、織部君の死を真摯に捉えています。遊び半分な私と違い、事実のみを話してくれました。コートを着た男もいなければ、不審者もいなかった。
事実、織部君は殺された。
殺された織部君を名乗る、女。疑問は残りますが、織部君を殺したのは間違いなく、あなたでしょう?二宮絵馬。
あなたが何の目的で織部君を殺したかは知りませんが、あなたは、織部君に罪を償うべきです。」
二宮「・・・ご高説、ありがとう。でも、五点だね。いや、十点あげるよ。
ははははははははははははははは。
瀬能杏子さん。・・・君は、不合格だ。
君は状況証拠だけで僕を疑っているのだろう?
君は何も証拠を持っていない。論ずるに値しないんだよ。」
杏子「そんな事は百も承知です。証拠があったら犯人はとっくの昔に逮捕されていますからね。」
二宮「まあ、いいや。僕は君を高く評価しているんだよ。そうでなければ、君とコンタクトなんか取らないからね。僕には君が必要だったんだ。
それでも、常識に捕らわれた、女だった。もう少し面白い子だと思ったんだけどね。
社会は僕を裁く事なんて、出来やしないんだよ?
はははははははははははは。」
杏子「・・・それは、罪の告白ですか?」
二宮「似たようなもんだよ、瀬能さん。どうせ僕を裁く事なんて出来やしないんだ、答えを教えてあげる。
僕の正体は、織部巡さ。」
杏子「!」
二宮「どうしたの?別に逃げなくてもいいじゃないか?逃げられる場所なんかどこにもないよ?君と僕しかいないんだ。こんな廃れた墓場にね。」
杏子「どういう事ですか?・・・あなたは二宮絵馬じゃないんですか?」
二宮「察しが悪いね、瀬能さんは。
僕と二宮絵馬は、神が作った双子ともいうべき存在なんだ。奇跡の双子とも言えるかな?」
杏子「・・・神?・・・奇跡?・・・双子?」
二宮「僕と二宮絵馬は、まったく同じDNAを持つ人間であり、かつ、クローンでもなければ、親子でもない、純粋な他人。君なら言っている意味が分かるだろう?」
杏子「・・・計算上では、一千京に一人の確率で存在すると言われています。ただそれは理論上の話で、まったく同じDNAを持つ他人が存在するなんてあり得ません!」
二宮「僕達はその奇跡の数字の上に立つ、人間なんだ。
ああ。言い忘れてた。僕のここには、織部巡の心臓が入っているよ?この傷は正真正銘、心臓移植の時の傷だ。まったく同じDNAだからね。拒絶も拒否も無かったよ。織部巡の物は全て二宮絵馬の物だし、反対もそうだから。何が言いたいか分かる?
僕と二宮絵馬は、同じ人間だったのさ。僕達は二人で一人。二人で一人なのだよ。」
杏子「・・・それと、殺人事件と、心臓移植と何の関係があるんですか?」
二宮「ああ。僕と二宮絵馬は、DNAが完全に一致する人間だ。それの意味する所は何だと思う?
僕達は、もともと一人の人間だったんだよ?」
杏子「!」
二宮「手違いによって、二つに引き裂かれただけの存在。一緒になろうと思うのは自然な事だと思わない?
僕達はお互いに不完全な所を補い合っただけさ。・・・他人から見たら、人を殺した様に見えるかも知れないけど、二つの体が、一つに戻っただけなんだよ?
これなら君も理解できるだろう?瀬能杏子さん?」
杏子「・・・そ、そんな猟奇的な理由で、織部君を殺したんですか?」
二宮「まだ分からないんだ?・・・かわいそうだね。
確かに、殺したという行為であるならば、僕は僕を殺した。目撃者とか不審者がいないのはその為だよ。僕は、あの場所で、自分の体に剣を刺した。世の中では、自殺とか言うらしいけどね?」
杏子「織部君!・・・あなた、自分で自分を刺したんですか!」
二宮「そうだよ。あの場所は、病院にも近く、二宮絵馬がいる所にも近い。商店街のど真ん中であればいずれ誰かが発見してくれる。それに、十字の中心で、自らの心臓を捧げるなんて、原罪を償うにはもってこいじゃないか?
あとは、君に話した通りだよ。」
杏子「・・・やはり私には嘘を話していたんですね?」
二宮「うぅん。難しい話だけど、嘘と言えば嘘。嘘でなければ嘘ではない。君に、二宮絵馬として初めて会いに行った時は、二宮絵馬が見た僕の記憶だ。確かに男に殺されたっていうのは僕の嘘。その嘘を真に受けた二宮絵馬が君にそう話したんだ。君もなんで嘘なんかついた、なんて思っているだろうけど、単純な君への興味だよ?君が僕をどれだけ真剣に考えてくれるか?
二宮絵馬の姿の僕が、織部巡だなんて言っても、頭がおかしいだけの女だからね。それをどこまで真面目に考えてくれるか、知りたかったんだ。
予想以上の成果だったけどね。・・・でも、赤点だ。」
杏子「・・・どうも。それなりに評価をいただいて痛み入ります。」
二宮「僕はようやく一つになれた。こんなに素晴らしい事はないよ。はははははははははははははははは!」
杏子「それで終わりですか?あなた、それで終わりですか?あなたのやっている事は、公開オナニーですよ?・・・気持ち悪い!」
二宮「ああぁ?」
杏子「頭の悪い織部君にもう一度説明しますね。あなたがやっている事は、人前でオナニーをしている、と言ったんです。とんだ痴れ者ですよ、変態です。気持ち悪い!そういうのは黙って一人で部屋でシコっていて下さいよ!」
二宮「なんだと!・・・頭がやられてしまったのか、瀬能さん?」
杏子「気持ち悪いから名前を呼ばないで下さい。ほんと気持ち悪い!
何億だか何千だか知りませんけど、世の中であなたしかいないんでしょう?その奇跡の二人っていうのが?それがなんだって言うんです?僕を見て、私を見て、世界ビックリ人間なんですよって!自分に酔ってるだけじゃないですか。・・・バカらしい。
いいですか、あなたの公開オナニーの所為で、それに巻き込まれた人間がどれだけ悲しい思いをしているか、知っているんですか!
あなたのお父さん、お母さんは、あなたのとんでもないオナニーを見せられた為に、心神喪失しているんですよ!」
二宮「お前、煽っているのか!僕を怒らせない方がいいよ、僕は女の子を傷つけたくないからねぇ?」
杏子「はん!ありがとうございます。女の子扱いしてくださるなんて。・・・しかし、私は、女の子だからと言って、遠慮はしませんからね?」
二宮「君に何ができるの?・・・ここ、泣いても叫んでも誰も助けに来ないよ?」
杏子「それはお互い様でしょう?・・・あなたが好きなだけ絶叫オナニーしても、見つからずに済みますからねぇ?あ~イクイク、イっちゃていいですよ?ほら、イっちゃいなさいよ!」
二宮「・・・許さないぞ、お前ぇええええええ!」
ガン
杏子「あなたは本当におろかな人間です。私が何者なのかもう少し調べてから接触すべきでした。」
二宮「ッ!」
杏子「顔の次は、、、、足元がお留守ですよ?」
二宮「・・がっ!」
杏子「はいはいはいはいはいはいはい。おっぱい、ちゅいますかぁ?」
二宮「は、離せ!くそ、、、、あまぁ!」
杏子「はい、このまま、おねんね下さい。」
二宮「くぅ・・・・そ・・・・・・・・・・・」
杏子「あなたの敗因は、女の子に転生?した事です。転生じゃないか。ま、似たようなものかも知れませんし。いくらスポーツをやっていたとしても、男子と違って女の子の体は華奢は華奢です。私なら男子でも負ける気はしませんけどね。あ、すっかり落ちてしまって。・・・だらしない。
褐色スポーツギャルを墓場で落とした所で、どうしようもありません。
・・・うん、困りました。
警察に突き出した所で、三年前の事件が進展するとも思えませんし。常軌を逸していると一笑されて終わりです。二宮絵馬自身が事件に何の関与もしていませんから。
ただ。私が思うのは、これが織部巡であろうが、二宮絵馬であろうが、犯した罪は償わなけばならないと思う事です。
時が止まってしまった人達に対する贖罪ではないかと、思うからです。」