瀬能杏子と国本と花屋の会話 僕の心の中の殺人 1.815話
杏子「あ」
国本「なんだ、瀬能さんもかよ?」
杏子「・・・一応、ご命日ですし、お花だけでもあげて帰ろうかと。・・・国本君もですか?」
国本「まあな。家に帰るついでだし。」
杏子「私もそんな感じです。」
国本「・・・あいつも、こんな商店街のど真ん中で殺されるとは思っていなかっただろうな?」
杏子「殺された、って言っちゃっていいんですか?」
国本「・・・お前さぁ、死因は不明だけど、腹から血を出して、出血多量で死ぬって、日本語的におかしいだろ?いや、俺も分かってるよ。言っちゃダメな事くらい。」
杏子「どう考えても、殺されてますけどね。」
国本「ここ曲がった所が、本屋で、その先でやられたらしい。警察の話だとな。」
杏子「・・・本屋の前に不審人物がいたと、聞きましたが?」
国本「ん?」
杏子「・・・違うんですか?私は、そう聞きましたが。」
国本「いや、知らねぇ。そうなん?俺は、事件直後に立ち去った、あやしい人間がいる、っていうだけしか警察からは聞いてない。瀬能さん、それ、誰情報?・・・安田?」
杏子「え?いや、あのぉ。事件直後、そういう噂が。・・・え?違うんですか?」
国本「初めて聞いたよ。そんな話。じゃあ、あれかな、警察がバラしたんかな?」
杏子「いや、え?・・・そんな事、私に言われても。」
国本「そりゃそうだ。ごめんごめん。なに、なんだかさ、警察も、俺には教えてくれないくせに、他の人間にはそういう情報、流すのかと思って。・・・けっこう、俺、警察に協力的だと思うんだけど?」
杏子「国本君は協力的だと思いますよ?私の目からしても。」
国本「そうだろ?
織部を殺した決定的な瞬間は、カメラに映っていなかったそうなんだよ。でも、その時間、商店街を立ち去る人間がカメラに残ってて、そいつが犯人じゃねぇか、って話なんだ、警察の話だと。」
杏子「じゃあ、本当に怪しいと思われる人物を片っ端から探している、ってだけの話なんですか?」
国本「そこは何とも言えないけど。俺も警察じゃないし。・・・本屋の前に不審者がいたの?初めて聞いたよ、その話。」
杏子「・・・有名な話だとばかり。」
国本「ここ、ここ。あいつ、ここで刺されたの。・・・おい、織部。今年も来てやったぞ。」
杏子「ここですか。」
国本「花は真ん中置くと、じゃまになるから、ここ。ここ。こっち。そう。奥の方。ここ。」
杏子「・・・どうぞ、安らかに。」
国本「・・・来年は来られるかどうか分からないけど、命日には来てやるよ。」
花屋「・・・。」
杏子「・・・あ、どうも。お花、置いておいても邪魔にならないですか?」
花屋「ああ、平気。平気。大丈夫よ。」
国本「友達が何年か前にここで刺されて死んだんで、献花に。ご迷惑おかけします。」
花屋「ああ、覚えているわよ。・・・救急車呼んだもの」
国本「おばさんが?」
花屋「後から新聞で読んだわよ。あの子、助からなかったのね。残念だったわ。・・・あなた達も律儀ねぇ?頭がさがるわよ。」
国本「少しでも供養になれば、それだけですよ。」
花屋「そうねぇ。」
杏子「あのぉ。おばさん、事件があった日、商店街に不審者がいた、っていう話を聞いたんですけど、覚えていらっしゃいますか?」
花屋「まあ。そう。ねぇ。・・・警察の人に聞かれたけど、私、見てないのよ。刺された現場。見てたらその場で、警察に通報するわよ!だって、事件じゃない?」
国本「そりゃそうだ。」
花屋「たまたま店の外に出たら、自転車と男の子が道の真ん中で、そう、ここ、ここよ。倒れていてね。まだ、その時は息があったのよ。苦しそうでね。見たら、血ぃが出てるじゃない!私、悲鳴あげちゃって。ギャーって!腰、ぬかしちゃって。そういうの見るのも初めてだったから。私の悲鳴に気が付いてうちの主人が出てきてくれて、それで、警察に電話したのよ!・・・警察か救急車かよく知らないけど。でも、両方きたし。」
杏子「ああ。」
国本「誰だって、そういう場面に出くわせば、動けなくなるよ。おばさんだけじゃないよ。」
花屋「本当、大変な騒ぎだったよ!・・・だって、この商店街でそんな事件が起きるなんて思わないじゃない?」
杏子「あそこの本屋さんの所に、不審人物がいたって噂で聞きましたが?」
国本「・・・瀬能さんさぁ、よせよ。噂だろ?」
花屋「ええ?そんな噂、初めて聞いたわよ?・・・本屋さんの前に?・・・そんな人、いたの?怖いわぁ。知ってたら通報してたわよ?」
杏子「ああ。そうですよねぇ。」
国本「噂は噂なんだよ。・・・いたら、警察がとっくに逮捕してるって。」
花屋「・・・まだ、犯人、見つかっていないんでしょう?怖いわねぇ。・・・亡くなったこの子も不憫よねぇ。早く、捕まえてあげないと安らかに成仏できないじゃないねぇ?」
国本「俺もそう思います。」