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瀬能杏子の途中整理 僕の心の中の殺人 1.85話

釈然としない話です。

どれもこれもぼやけた話ばかりだからです。

私は、中学生時代の知人を頼り、殺された織部君の実家まで行きました。そこには、事件被害者家族の散々たる生活があるだけで、少しも情報を得ることが出来ませんでした。

時が止まるとはまさに、あの家の事を言うのでしょう。いえ、時が進むのを拒む、母親の姿がありました。生気の抜けた、機械の様に、ただ時間になったら動くだけの父親。とても、見ていられるものではありませんでした。

事件の話を聞こうにも、出て来る話は、生前の彼の話ばかりで、どれもこれも行きつく先は、生きていたら、もっと幸せになっていただろうとか、こんな仕事に就いていただろうとか、結婚して子供が見たかったとか、こちらの正気を保つのがやっとな位でした。

一人でいたら、向こうの瘴気にやられていた事でしょう。

国本君が、法要に行くのをためらう訳です。他の人もきっと同じでしょう。織部君に相当、縁がない限り、二度と、敷居をまたぐことは無いと思います。

ご家族は、織部君の死を受け入れてはいません。常に、死と共にあるからです。

どう殺されたかなんて関係なく、ご子息の死を受けれられないだけなのです。

事件の墓を掘り起こした所で、何も、出てはきません。

死んだ、ご子息は戻らないからです。

私は、安易に、踏み込んではいけない領域に、入って行ってしまったのだと思います。探偵ごっこも大概にしないと、こちらの正気を根こそぎ、持っていかれる事でしょう。

警察は、仕事ですから、犯人を追っています。犯人を捕まえる事で、織部君が死んだ、真相が明らかになり、ご家族の気持ちに踏ん切りが付けられるよう、後押しをしているのだと、私は良い方向で考えています。事務的に犯罪者を捕まえるのが、仕事ですから、そうでなければ、あんな陰鬱とした席にわざわざ警察が顔を出すとは思いません。


国本君と警察の話だと、殺されたのは間違いないようです。

国本君は警察の受け売りだから、警察の話に集約されてしまうのですが。

一番の問題は、犯人が明確ではない点です。

私は、部外者で。国本君も部外者ではありますが、織部君の親友であり、事件当初から、警察に事情を聞かれている間柄で、その中で、犯人の情報を知り得たようですが、見た目のバカっぽさと違って、口が堅いです。とても律儀な男です。ぽいぽいと犯人の情報をしゃべってくれません。

殺された事は一般に公表されておらず、死因は不明となっています。

言い得て妙なのが、腹部からの大量出血です。何もしていないのに腹部から血が噴き出る事はありません。刺されたからに決まっていますが、その事には触れられていません。犯人が特定できないから、触れられないのです。

国本君の話だと、凶器が見つかっていないという事です。

腹部に穴を開けた凶器です。

ここから類推できる事は、犯人が凶器を持ち続けているという事でしょう。凶器を捨てずに持っているという事は、犯人が捕まるまで、物的証拠を確保する事が出来ない事を意味します。確たる証拠がないのに、犯人を逮捕する事が出来るのでしょうか?私はこの点でも、難しいと考えます。

これが、売れる推理小説ならば、氷等の消える凶器で殺害した、となるのでしょうが、事件の本質に関係なくなってしまいます。

加えて、凶器を、鋳造する炉の中に入れて溶かして別の物に変えてしまう、とかいうトリックもありますが、前述と同じす。

今回は、あくまで犯人が凶器を持っていると仮定して、推理しています。


続いて、警察が三年もの間、犯人を検挙できない理由について考えてみます。

ひとつ、家に来た刑事が、煮え切らない事を話していたので、それも理由に加えます。

犯人が未成年の可能性があります。それから、捜査関係者の可能性です。検察でも警察でも、どちらも良いのですが、捜査権限を持っている人間の関係者が犯人だった場合、よほど慎重な捜査を要求される事でしょう。自分の首を自分で絞めたくはないですから、更に、本人ではなく、身内だったら余計です。未成年の場合も、誤認逮捕がないように、慎重な捜査をすると聞いています。法律の壁はかぎりなく高いのです。

それ以外は、ぼやっとした話で、まるで、犯人像が浮かんできません。警察の苦労も伺えます。そうでなければ、わざわざ私の家にまで、話を聞きには来ないでしょう。


ザーメン安田こと安田則子の話だと、当時、世間を賑わせた大学スポーツの暴行事件が、織部君殺害に、関係があると言っていました。

刑事の話ようからして、これは空振りだったと考えざるを得ません。

わざわざ図書館に行って、過去の新聞記事をあらったのが、水の泡でした。

複数の有名大学のスキャンダルでしたから、全国紙の新聞に記事が掲載されていました。大学スポーツは、プロスポーツ顔負けに、大きなお金が動くビジネスらしいです。表立って名前は出ないものの、誰でも知っている企業がスポンサーになり、大学に多額の寄付をしているそうです。寄付自体は違法でも何でもないですから。問題は、多額の寄付を得る為に、大学がスポーツという名目で、利益をむさぼっている点にあります。競技で勝てば、金も入り、更に、政界、企業、官公庁などのOGOBから声がかかり、天下り、いえ、天上りです。富裕層は学閥上位ですから、その派閥に潜り込めれば将来は安泰です。大学スポーツの裏にそういうカラクリがあるようなのです。

そりゃぁ、約束された未来がかかっていれば、不正もするし、暴行沙汰もやむを得ない事でしょう。にん傷に及ぶ事だって仕方がないかも知れません。

アメリカ、イギリスの様に、完全にプロと互換したスポーツとして、大学スポーツを運営するならば、まだ健全だと思いますが、日本のそれはとても未熟としか言えません。


一応、記事によれば、一部、有名な選手を狙って、暴行事件が起きたようです。こういう事件を起こすような大学生は、下っ端で、はした金をもらって事件を起こしますが、命令した人間は、有能な弁護士先生が守ってくれる為、割を食うのは、学生ばかりです。やられたら、やり返すの精神で、複数の大学が、競技外で、暴行事件を起こします。そればかりか、競技中であっても、ヒートアップし、審判の静止を振り切り、乱闘が何度も起きていたようです。最終的に一線を越える事件が起きたのが、織部君が殺されてしまった時期に重なります。競技中に、強引なラフプレーで、脳挫傷。体に麻痺が残る大怪我をさせてしまいました。スポーツの事故ではなく、障害事件として立件されました。

その事件がピークで、潮が引くように、大学スポーツの暴行騒動は沈静化していきます。

ラフプレーをした選手は、大学を退学。指示したとされる監督は退任後、懲戒免職。責任者である大学学長も辞任。


織部君は、競技選手の関係者と間違われて、殺されたと噂されていました。

これに関しては、警察も眉唾だったのでしょう。苦い顔をしていました。

仮に本当に、大学生の親族と間違われたとしたら、いったい誰と勘違いされて、殺されてしまったのでしょうか。

まず、勘違いされた本人を特定しないといけません。勘違いされた本人を見つける事が出来るのでしょうか?いやぁ、出来ないでしょう?

ザーメン安田の知人、シーカッパーの森さんが、そのような噂をしていたようですが、これこそ根も葉もない噂に過ぎないと思います。

シーカッパーの家庭教師だった大学生を問い詰めたところで、知らないと言われれば、それまでです。

こういう話を一つ一つ潰していく地道な作業をしている警察には、本当に、頭が下がる思いです。


次に、織部君を狙った殺人であると考えました。

私はむしろ、織部君一人を狙った可能性が高いと思います。なにより警察が犯人を特定できていない所からも、特定の人間を狙った犯行ではないかと考えます。これは無差別殺人と反する事を意味します。

どうも無差別に殺傷する事件に巻き込まれた要素は薄いと感じます。何より、付近で、類似する事件が起きていない事。無差別ならば、同時刻にいた商店街の人間も襲われているはずが、襲われていません。

となれば、織部君を狙った殺害だと考えられます。

これは、犯人にしか分からないルールで、被害者が決められていると思います。自己的であり、儀式的でもあり、戒律的でもある。犯人にしか分からない独自のルールで織部君が選ばれた可能性が、高いと思います。いや、選ばれたのだと思います。

中学生だからか。男の子だからか。顔。体。形。声。生年月日。服装。血筋。考えればキリがありません。犯人にしか知り得ないからです。

凶器を持ち去ったのも、同様の意図があるに違いありません。

前方から、腹部から、血管を突き刺すのです。とても、長く、固く、細い、凶器だと考えられます。そうでなければ、背部に近い、血管を傷つける事はできません。それは、殺意を持って、突き刺さなければ到達しない距離でもあります。人間の腹部には、小腸大腸があります。それに脂肪があります。それらを突き破った先に、血管があるからです。なまじ刺しただけでは人間は死にません。人間はそうそう死なないようになっているのです。

犯人は、強い意思を持って、織部君を殺したのです。この点から見ても、織部君を特定して、殺害したに違いがありません。


恨まれているのか、惚れられているのか、知りませんが、織部君も厄介な人間に、選ばれてしまったみたいですね。


二宮絵馬は見ず知らずの男に殺されたと言っていました。どうも私は、この証言に振り回されている気がしてなりません。

二宮絵馬は本当の事を言っているのでしょうか?

どうして、織部君は選ばれたのか。

選ばれた、という事は、やはり、何らかの接点があったと考えるのが自然です。

直感的にしろ、計画的にしろ、接点があったから、織部君は選ばれた訳です。

織部君が殺される理由。


まるで分かりません。

話が振り出しに戻っただけです。

ザーメン安田、国本君、織部君の家族。彼らと比べて、二宮絵馬は信用に足る人物なのでしょうか。いささか疑問です。

無理です。無理無理。

殺人犯を見つけた所で、私に何の得があるのでしょうか。それこそ逆恨みされて殺されてしまうかも知れないじゃないですか。

もう、無理です。

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