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18/20

「魔術師エルム」

 運命など存在しない。全ては過程と結果の連続である。



 と思っていたけど運命って思った方がドキドキワクワクするから信じることにしました。








*******


 今日はありがとう、と座長が手を差し伸べた。引き上げられた口角と細められた瞼から察するに満足感と感謝を表しているのだろうが、視線が不定期にずれるのを見ると鬱陶しさも混じっているのだろう。

 心の声として書き起こすとすれば「やっと終わった…公爵の息子を起用するなど当初はどうなることかと肝を冷やしたが無事に成功して良かった」といったところか。


 応じて握手すれば、また時間が合った時に参加してほしい、君ならいつでも大歓迎だと手を握り締められる。

 芝居を生業にしているだけあって、母にも負けないような取り繕い方だ。

 否。母を引き合いにはできまい。あれは度を超えている。身内であっても本心と建前の区別がつかない時がある。

 もっとも本「心」などという人間じみたものは存在していないだろうが。


 手を離し、背を向けて劇場を後にする。まだ笑みは消さない。劇団員達が視界から外れた瞬間に笑顔でなくなるなど、「己は彼らに対し反感を抱いている」と世界に主張するようなものだ。とはいえ反感という言い方は不適切だ。正確に言えば何も抱いていない。


 「芝居好きな少年が自分もやってみたいと言い出し劇に参加させてもらった」後の態度としては、このまま家に帰るまで笑顔を保ち跳ねるような足取りをしてあるいは鼻歌なども交えながら進んでいくのが正しい。

 しかし、会の進行が円滑で予定より早く時間が切り上がった。迎えの馬車はまだ到着していない。

 芝居好きの少年としてはどうするのが適しているか、例えば離れを名残惜しんで劇場の周りを歩き回るとか。

 問題があるとすれば周囲には愛好家が集まって今日の座席の感想を言い合っていることだろう。先の案を採用すれば彼らの相手をすることになる。

 苦ではないが、それをする必要も見込めない。


 こんなことを考えているから、いつまで経っても魔法の真理に辿り着けない。

 魔法のことだけ考えていて良いなら積極的にそうするが、残念ながら現状停滞している。故に別の視点から切り込む。己は人間の肉体をしているのだから、人間ならではの経験を積んでみるのが良い。異なる事象であってもそこで得られた考え方が物事の解決策になる可能性もある。


 そのため幅広い分野の人間に声をかけているが、今のところ目立った進歩はない。

 予想がつくというか、想定内というか。己の推測の範囲に収まる事柄ならば体験したところで無駄ではないだろうか。


 案の定、外で集まって話をしていた愛好家を避けるべく、草垣の後ろを通る。

 あるいはこのまま徒歩で家に帰るべきか。頼る伝手もない状態で生きることになれば流石に己にも何らかの変化が生じるだろう。もしそれで何の変動もなければ絶望という他ないが。


 劇場が離れ、細い道に入る。そろそろ笑顔を失っても良い頃か。否。正しくない。今日の思い出に浸って満面の笑みで居続けるのが自然だ。

 人目はないが、徹底しなければ意味はない。


 十一歳という肉体ではどれほど時間をかけて歩いても稼げる距離は高が知れている。そのうち迎えの人間に見つかって馬車に拾われるだろう。あまりにも無駄なことをしている。


 泣き声が聞こえた。


 正確には声というより息遣いか。押し殺すようなしゃくり声だ。

 大人ではない。子供の音域。

 願いが叶ってご機嫌な少年は、泣いている声に興味を示すだろう。自分はこんなに楽しいのに、悲しそうな人がいるぞ、どうしたんだろう、と辺りを捜索するのが適している。


 その通りの表情を作りながら、きょろきょろと首を動かす。音を辿ればその位置はすぐに把握できた。


 色褪せたような金髪の少女が蹲って泣いていた。

 場所は診療所の前。死人でも出たのだろうか。


「どうしたんだい、何か悲しいことがあったのかい?」


 正義感に駆られて少年は声をかけるだろう。抑揚が過剰にならないよう気をつけながら近寄ると、少女はぶんぶんと首を振った。俯いている上に前髪が長いので顔は見えない。


「…も…もう、ずっと前のこと…なのに…っ今でも、かなしくて…ダメなのに…」


 かなり幼い声。四歳程度だろうか。「ずっと前」という単語を出せるほど長い人生を送っていないだろうに。子供の喋ることに整合性を求めてはならない。


 むむむ、と少年は唸り、自分ができることを考えるだろう。

 幼子を慰めるためには、抱きしめる?頭を撫でる?

 初対面にしては距離が近過ぎるから不適切だろう。

 そもそも、親しい間柄の人間同士ではよく目にするが、抱きしめるという行為に一体何の意味があるというのか。性欲の発散か、体温の共有か、はたまた所有物としての刷り込みか。だとすれば親が己を一度も抱きしめない理由に納得がいく。

 そんなことはどうでもいい。

 目の前の子供の対処法についてだ。

 先ほどまで芝居をやっていたことに起因して、「じゃあお芝居を披露して元気づけてあげよう」と結論に至る。十一歳の少年の思考回路としては自然だと信じたいが、幼過ぎるだろうか。


 黙り込む己に、少女がちらりと視線を投げた。

 青い瞳。それを認識するのと同時に、「お…おじ…さんは、どうしてここに?」と質問が飛び出してくる。

 おじさん。手製の芝居衣装である服装を見てそう捉えたのだろうが、年端もない少年に対する呼称としてはあまりにも突拍子がない。

 彼女が蹲っていて、通常より目線が高く見える体勢にあるのも手伝っているのかもしれないが、違和感はないのだろうか。

 もっとも、子供、しかも泣いている状態の頭に論理を求めるほど愚かなことはない。


「うむうむ。私は君を慰めに来たんだよ」

「わたしを?」

「そうとも。一緒に遊んで気晴らしをしようじゃないか」


 できる限りの低音を出す。声変わりの片鱗もないから喉に異常がくる。痛みなど何の意味もないが。

 先ほどまで泣いていたというのに、遊んでくれるの、と少女は声を上擦らせていた。子供の心は実に移ろいやすい。扱いやすいと思えば逆に手こずったりもする。これも経験のうちだ。


 玩具の手持ちもないが、懐に土塊があった。以前書物の記述の通りに魔法を試していた時に唯一生まれ出たもの。思い入れがあると言って差し支えない品だろうが、所詮素人が作った塵芥。微量しかない己の魔力を容赦無く吸い取ってくる上、核である魔石も少量の粗悪品しか手に入れていなかった頃だから質が悪い。

 しかし子供はそんなことを気にしないだろう。


 触らずとも勝手に形が出来上がる粘土のような玩具に、少女は興味を惹かれているようだった。己が差し出すと自身の手元でうねうねと捏ね始める。

 そうして、人の形にすると、「昔むかし、あるところに」と物語を展開し出した。

 相手が主導してくれるのならむしろありがたい。合いの手を入れる程度で済む。

 児童書にもある、ありきたりなおとぎ話を、少女は嬉々として広げている。相変わらず目線は手元。誰かと遊ぶのに慣れていない可能性が高い。自分一人の世界に浸っている。

 涙が止まっていた。頃合いだろう。これ以上得られるものもない。


「…そうして、人形は、いつまでも幸せにくらしました」


 彼女の結びと共に、己は立ち上がる。


「うむうむ。元気そうで何より。それでは私は失礼しよう」

「行っちゃうの…エルムさま」


 エルム。

 どこにでもいるような平凡な名前だが、ちょうど今語っていたおとぎ話に出てくる魔法使いと同名だ。作中文には出てこない、挿絵にのみひっそりと記された名前。それと己を混同しているらしい。魔法使いと間違われるのは喜ぶべきことだろう。となれば謝礼として何かを差し出すのが自然。


「楽しいひと時をありがとう。お礼にその不思議な力を持つ道具をあげよう。お守りにしておくれ」

「…うん」


 頷き、初めて、少女は頭を上げた。重苦しい色に、ぱあっと光が差す。


「ありがとう、エルムさま」


 花が綻ぶような顔と目が合




 家に着いた。

 見覚えのある建物が並んでいる。

 目を瞬かせる。「到着しましたよ」という御者の声に押されてなんとか(なんとか?)馬車を降りた。


「いや、本当に、迎えが遅れてしまって申し訳ありませんでした…!どうか奥様にはご内密にお願いしたく…!」

「…気にしないでいいよ」


 動揺(動揺?)をうちに押し込め、いつも通り無邪気に笑って心の広い少年を演じる。すると御者は「ああ、ご寛大な対応、いつもいつも本当にありがとうございます…!」とくしゃりと顔を歪ませて手を握ってきた。


 御者の口角が上がり、目を細めている。それだけの筋肉の動きだ。

 なのにどうしたことか。何か違和感がある。

 …そもそも。己は先ほどまで何をしていたのか。

 確か幼い少女の遊び相手になっていたような…。

 妙だ。記憶が混雑している。


 混乱(混乱?)する己を、母が出迎えにきた。彼女は己を見下ろして全く違和感のない笑顔で言い放つ。


「おかえりなさい。どうなさったの、まるで嬉しいことがあった子供のような顔をして」


 嬉しい?


 常ならば「やっと念願の劇場に立てて、とても楽しかったんですよ」と興奮しながら言い立てるのが適している。なのに体がうまく動かない。

 嬉しかった?何が?


 母は笑みを浮かべている。何の違和感もない。綺麗な笑顔。

 先に見た、御者の笑顔を思い出す。それには違和感があった。

 それを探るために、動くことを決めた。




 結論が出た。

 己は人の笑顔を見ると心拍数が上がる。体温が上がる。瞬きを惜しむ。

 つまりは、人の笑顔を見たくて見たくて仕方がない。

 何故そうなったか。原因は未だ掴めない。ある時急にそうなっていた。いっとき、記憶が飛んでいるのを見るに何かあったのだろうとは思うが、手がかりもないことを追いかけても仕方がない。

 笑顔とはいっても。全ての笑顔が対象なわけではない。

 例えば母の笑顔を見てもそうはならない。己に取り入ろうとする貴族の笑みを見ても同様。

 有り体に言うならば「心からの笑顔」を見た時だけ、そうなる。


 おかしな体質になったものだ。


 しかし、その体質によってあらゆる考え方が変化してきた。


 人を笑顔に、幸福にすることは素晴らしいことである。

 有益とか無益とか、そういう基準で全てを定めるのは愚かしいことである。

 人の裏を読むのは下劣な行為であり、自分を評価してくれる人には感謝すべきである。

 自分以外を見下し、線引きをしている己の血族は、冷血の極みで、人間ではない。

 彼らは心を持っていないが、自分は違う。

 だって笑顔が、「好き」だから。模倣ではない感情を持つ自分は、人間である。


 馬鹿馬鹿しい考え方だ。いや、馬鹿馬鹿しいなんて考えるのはおかしい。

 くだらない。くだらなくない。

 こんな無駄なことに時間を割く必要はあるのか。無駄かどうかなんて単純には分からない。

 己は他の人間とは違う。そんなことはない、自分は、僕は人間だ。


 入り乱れる思考。否、入り乱れるというよりは、本音が顔を出した瞬間に道徳を覆い被せているような状態。


 いずれにせよ、やがて崩壊するだろう。

 崩壊なんてしない。僕は感情溢れる人間であり続ける。


 世界には優しい人間が溢れている。否、己の血族以外は、皆尊く素晴らしい。彼らを笑顔にする。それを目標にしようじゃないか。


 僕はエルム。

 人を笑顔にする、魔術師だ。








*******


 ライラくんが真剣な顔をして鎖を触っている。

 かつて牢屋に取り付けてあったものの残骸だね。彼女はそれを自身の魔力を用いて溶かすことができる。しかしそれをすると多量の魔力を消費して彼女の命にも関わるので許されない。

 なので他の方法を試している最中ってことですね。


 先生に組み込まれた水晶を壊すため、それを縛る鎖をどうにかするという試み。

 この前は鋏で切ろうとして失敗だった。「絶対に破れない」という基準で作り上げた性能通り、切る、断つという行為を無効化している。だから内部から熱で溶かすのは有効だったわけだ。

 となれば逆に冷却。凍らせて砕くというのは良い案かもしれない。


 そんな僕の主張を受け、彼女は今まさに氷の魔術の勉強をしています。彼女に魔力を使わせる予定はないのに、実に素直で可愛らしい。


 ライラくんは十六歳の少女だ。感情によって変色する不思議な瞳を持つ、麗しき乙女。しかし超常を嫌悪する身内によって長年抑圧されてきた、痛ましい過去を持つ。


 彼女は周囲の教唆によって、自身の感情を押し潰すことに努め続け、一見慣れてもいた。

 ただ、僕の見立てによると、それはあくまで負の感情に対して。つまりは虐げられる状況や嫌な人に対しては我慢強い。

 逆に言えば、優しくされるとすぐに心が動いてしまう。表情にも出る。分かりやすくてとてもいじらしい。

 苦しいことには慣れているのに、嬉しいことには慣れていないなんて、どんな風に人生を歩んできたのか察せられてお労しいにも程があるでしょう。


 けれどそんな環境にあっても彼女の性根はとても純粋で、眩いほどに清廉。加えて非常に感受性の高い、繊細な子だ。目を見れば分かる。彼女以外が彼女の目を持っても、あんなに美しくはならないと断言できる。


 色々あったけど、今は僕と一緒にお家でのんびり暮らしている。ひょっとしてこのまま一生一緒にいてくれたりなんかしちゃったりしたら嬉しくて死んでしまう。死んだら彼女が悲しむので死なない。不死身の肉体の作り方模索中。


 考案に励む僕の背中を、硬い肘が叩いてくる。こんなことするのは勿論先生。


「ぼうっと立っている暇があるなら手伝いなさい」


 苦言。両手に魔術書が抱えられている。以前遊びにきてくれた魔術協会の皆様が残していってくれたお土産だ。

 先生は彼らに大層気に入られたようで、日夜観察対象として振り回されていた。その疲労の分の不満を僕にぶつけているというわけだ。人形だから疲労はないのに、本当に先生ったら人間らしくて困る。


 先生は僕の最高傑作で、僕のためだけに作った人形だから、思い入れもある。

 この家には他にもたくさんの人形がいるけど、コックさんとメイドさんは人間の補助をする人形として、その他大勢の白仮面の子たちは戦闘機として作ったもの(終戦後に武装機能は取り除いた。危ないしデザイン悪いし)だから、純粋に己の理想のために生み出したのは、先日停止した試作の彼と、先生だけなのです。


 もし先生の中から僕の道徳が抜き出され返却されても、先生はこのまま理想の姿でいてくれるかどうか。疑問はあるけどとにかくやってみるしかないですね。

 失敗するのは色々あってちょっと怖くなったけど、それでもやっぱり、挑戦あるのみ!




 氷の魔術が完成しました。

 かつて作ったことのある冷気を吹き出す装置。それを、魔術協会の皆様よりいただいた資料で学んだ術式で強化したもの。昔の作品に強化パーツをそっと添えて改良するだけだったから、作業としては楽ちんでした。

 雪だるま型の指先から裸の先生目掛けて冷凍光線を発射する。絵面は拷問に違いない。でも先生なら拷問だって鼻歌混じりに耐えてくれるでしょう、僕じゃないんだから。

 フィールドを冬仕様に整えた庭で、影響が及ばぬよう見学のライラくんは屋内に下がってもらい、合図して冷却を開始する。


 轟音。

 流石は魔術協会本部の術式。出力すごいや!


 先生の顔が歪む。まるで地獄の苦しみに耐えているような人間の相貌。全く素晴らしい!

 限界ギリギリまで作動させて、道具を止める。

 先生は微動だにせず凍りついていた。自分の未来予想図たる姿をした人が氷に閉じ込められているの、とってもシュール。

 滑らないよう気をつけながら、カンカンと金槌で叩き割っていく。先生は凍っても砕けたりなんかしない。だって最高傑作だから。


 水晶が嵌め込まれている胸元を重点的に痛めつける。あれこれ先に水晶の方が砕けるんじゃない?

 そんなことを思っていたら、ぽろりと鎖と水晶が落ちた。

 あっやっぱり無理だった。


 何はともあれ作戦成功!これで僕は完全(に元の)体!やる気を無くして起き上がれなくなるなんてこともなくなりますやったね!


 砕けた石から立ち上る煙を浴びながら、拳を突き上げて見物人に成功をアピールする。

 それと同時に。


 これはまずいと悟った。








 絹糸に近い繊維でできた黒髪を持つ二足歩行型娯楽人形が、ガシャガシャと音を立てながら氷塊を脱出する。人間を模した顔についた眉を顰め、複数の管を通すことで微細な息遣い含めた発声が可能になった喉を使って「酷い目にあった」と低音で抗議してくる。

 窓の向こうから覗いていた少女も、明け方に少しずつ現れ始める陽の光のような色の髪を柔らかに揺らし、周囲を伺うような足取りで外に出てきて、こちらの無事を確かめると鈴を転がす声をして成功を祝う言葉を口にした。


「やあやあありがとう!これで僕は全ての心を取り戻した!言わば完全体!これから僕の英雄伝説が始まるのかと思うといやあ胸が高鳴りますね!」


 理屈も突拍子も無い文言を吐き出しながら胸を張る。言動に変化はない。違和感は与えないだろう。


 そのはずが、彼らは顔を見合わせ、首を傾げ、怪訝そうな態度を示してくる。


「…エルム様…?」

「ちょっと待ってやめて」

「えっ?」

「エルム?」

「やめて名前呼ばないで」


 華奢な少女と、指揮下にある人形。恐れる要素はない。

 目を合わせなければ良い。多少はマシになるだろう。しかしそれも違和感の一端として捉えられたのか、少女が前に回り込んできた。

 ひゅっと音を立てて息を飲み、後ずさる。そんな己に対しいよいよ何かおかしいと勘付いたのか、徐に身を乗り出して瞳を覗いてきた。


 角膜という限られた範囲なのに、あまりにも底知れない。

 動揺の紫紺が浮かび、不安の深碧が底を占め、興味の紅が散らつく、果てのない色。どんな宝石より極光オーロラより鮮やかな色彩。せめぎ合う感情に応じて変化するから彼女が生きている限りそれは留まりはしない。

 目を逸らすと、通常より音程の落ちた声色で「どう、されたんですか」と縋るような姿勢を見せてくる。

 限界だった。


「……可愛くておかしくなってしまうので近寄らないでください……」

「……え?」


「先生のせいだよ!?先生がライラくんを好きになってたからその分も僕に加算されてきたんだ!先生の人でなし!」

「人でないことは間違いないが…それは冤罪というのではないのか。結局はお前の心だろう」

「ああーそうですよそうですよ!僕ですよ!こんなのが心だなんてね!もっと尊くて温かくて穏やかなものだと思っていたのに!最近やっと慣れてきたってのに!また燃料投下されちゃったよどうしてくれるの!ああー近寄らないで!信じられる!?こんな反応する奴が「自分は人間じゃない、心なんて持ってない」って悩んでたんだよ!?滑稽にも程があるねえ!ありがとうございました人間です!ああー近寄らないで!!」


 醜く喚き散らされる叫びに、彼女は呆然と、先生は呆れたように見遣ってくる。

 しかしやがて彼女は、目が潰れるようなはにかみと共に「わ…私は、嬉しい、です」ととても素直な感想をプレゼントしてくれた。


 ああ。胸が痛い。心が熱い。

 完膚なく突きつけられて、僕は、制御の効かない叫声を出しながら、情けなさと恥ずかしさに体を折り、彼女の必死に慰めにきてくれる姿を見て、どうしようもなく笑った。


本編はこれにて完結です。以降は蛇足話になります。

読んでいただきありがとうございました。




ライラが人ならざる強大な魔力を持つ理由は「生まれつき」と「幼少時から魔力を使っていた」ことの複合


「魔力を使う毎に魔力を過剰に吸い取るお守り」を所持していなかったら

毎夜お守り相手に人形遊びをして魔力を吸い取らせていなかったら

ライラは体内に溜まり続ける己の魔力の影響で、齢二桁もいかないうちに命を落としていました


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