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08.宿願

「もう帰ってくれても構わないぞ?それとも送るか?」

「いや見届ける。それは俺の責務でもある」

「分かったが、止めるなよ?」

「そんな崇高な心なんて、あの時に捨ててしまったよ」

俺は少しだけ頬を緩ませる。


そして俺は、ガタガタと震え始めた龍弥の元へ行くと、背中の剣を抜き手加減をして蹴飛ばした。呻きながら通路の一つへ飛ばされる龍弥は、受け身も取ることもできず転がった。

まだ起き上がることのできない龍弥は無様にも命乞いを始めた。


俺が何度止めてくれと叫んでも聞き入れなかったくせに……


そう思いながら地面に胡坐をかき、狼狽える龍弥の様子をじっと見る。

隣にはレベッカが寄り添うようにして座り込む。


「何か食べる?」

レベッカの提案に戸惑いながら、思わず笑う。


「それも楽しそうだが、今は止めておくよ。そこまでのグロ耐性は俺には無いからな」

「ふふふ。分かった」

笑顔で返すレベッカを見てよっぽど俺に惚れてるのだろうと自惚れてしまう。


そして急に不安が吹き出してくる。そもそも俺にそんな価値は無い。俺は、オマケというチートスキルでうまくやっただけの男だ。本当は俺には自惚れるほどの自信を持ってはいけないのだと反省する。


あくまでも慎重に、狡猾に、次はこの国を、俺を笑いながら追放した王、それとあの場で俺を嘲笑った全ての奴等への復讐を、折れば必ずやり遂げて見せる。


そんな事を考えている間に、龍弥の情けない悲鳴が聞こえた。

蟻の残党が群がっている。


龍弥の持つ自己回復により少しは回復しているように見えるが、それよりも早く蟻達は龍弥を捕食している。俺はそれを黙って見ていた。背後から、"あっ"とか"うっ"とか声が聞こえる。


嫌なら見なければ良いのにな。

そう思いつつも俺は目の前の光景に少しグロすぎたなと思い始める。もはや龍弥から悲鳴は聞こえない。白目で顔から体液を流しているそれは、もはや事切れているのだろう。


「ちょっと借りるな」

そう言って俺はレベッカから剣を借りると、魔力を大量にこめて一気に振り下ろす。


業火が龍弥を、そして群がる蟻達を焼き尽くした。

大量にドロップした魔石と蟻顎を拾うと、木箱が2つ、銀箱が1つ出た。


後で開けるか……

そして振り返る。


「終わったぞ」

その声にレベッカは笑顔で抱き着き、他の者は唯々こちらを見ていた。


その後、マルセルさん達がすぐ近くの階段付近へ移動して、マジックアイテムで全員脱出するまでを見送った。


まず一つ。復讐は終わった。


俺は77階層に転移して直前に遭遇したブラックドラゴン(闇)とケルベロス(混沌)の群れを切り殺す。落ちた素材をレベッカに拾わせ壁際に座り込む。


俺に素材を手渡すとそのまま背中を向けて俺の足の上に座るレベッカ。


今さっき落ちた素材の分であろう銅箱が一つ手の中にあったので、それも収納に放り込む。


そしてレベッカを後ろ抱きのまま柔らかい体を抱きしめ、首の匂いを嗅いだ。


「次は、王だ。本当にいいのか?」

「今更何を言ってるの?私は、セイジを最後まで見届ける。そう誓ったの……殺されたって着いていくから……」

俺は無言でレベッカの体勢を入れ替え、その唇を貪った。


ホテルに帰ると風呂で汗を流す。

案の定長湯してしまったが、心身ともにリラックスできた。


そして箱を開けてゆく。大したものは出なかったが、勇者の能力を見る限りもうすでに戦力的な面では十分だろう。俺は掲示板を確認しながら城へ向かうタイミングを探った。



◆◇◆◇◆



総合・王国専用掲示板★3199


684: ただの軍属

悲報!勇者死す!


695: ただの名無し

なんかキタ!


696: ただの名無し

マジで?


697: ただの名無し

詳しく!


698: ただの軍属

牢獄の10階層超えたあたりで蟻にもしゃもしゃされたとのことw


699: ただの商人

それはご愁傷様。


700: ただの貴族婦人

もしゃもしゃ怖い


701: ただの御貴族様

いや不味くない?

勇者ってどう考えても帝国対策だろ?


702: ただの名無し

順調に育ってたんじゃねーの?


703: ただの名無し

もう団長クラスでも太刀打ちできないレベルだった。

人類最強。


だが、蟻には勝てなかったと…


704: ただの名無し

どうすんのこれ?陛下再召喚しちゃう?


705: 城勤め文官

いや無理だろ?

召喚には意外と長い年月かけて……


706: ただの名無し

ブラックさんちーっす!


707: ただの御貴族様

国家機密をばらす者にはエージェントが来るぅ?


708: ただの名無し

誰か来た!ってウソやん?


709: ただの名無し

その言葉を最後にブラック無糖文官は……


710: 城勤め文官

やめろください。


711: ただの御貴族様

マジ気ぃつけや?


712: 城勤め文官

合点承知(; -_-)b


713: ただの名無し

で、どうすんだろマジで。


714: ただの名無し

いや団長もマジ強いし、なんなら王都の疾風とか、竜の顎とか、Aランクパーティもいるやろ?


715: ただの名無し

そいえば疾風のレベッカちゃん抜けたってマジ?


716: ただの貴族婦人

マジっぽい。


717: ただの名無し

詳しく。


718: ただの貴族婦人

なんか男とイチャイチャしている件。


719: ただの商人

えっ……あの豊満なあれがあれされてるんか?


720: ただの名無し

されてるんやろなー。


721: ただの名無し

何それ裏山彬。


722: ただの名無し

相手はメンバーの?


723: ただの名無し

いや、何か知らん冒険者らしい。


724: ただの貴族婦人

私ホテルから内またになって男にしがみついて出てきたレベッカちゃん見た。


725: ただの名無し

やったか……


726: ただの名無し

やったな。


727: ただの商人

俺のアイドルが!


728: ただの名無し

いやそもそもお前じゃ無理だったんだ諦めろん。


729: ただの名無し

商人くんには裏で採れた特大メロン送っておきますね。


730: ただの名無し

熟れてぐちゅぐちゅになったメロン……


731: ただの商人

ちょっとおれ畑行ってくる!


732: ただの名無し

早まるな!それはただのメロンだ!


733: ただの名無し

バカはほっといて、牢獄ってそんなヤバイの?


734: ただの名無し

そう言えば最近牢獄の下層からドロップしたっていう新種のグリフォンの素材で回ってたらしい。

オークションで金貨2000枚ついてた。


735: ただの貴族婦人

そんなん何するの?


736: ただの名無し

帝国の鍛冶師が落札。

魔剣作るって泣きながらガッツポーズしてた。


その他にもちらほら見たことのない素材が……


737: ただの名無し

あれじゃない?

疾風が10階層言ってたじゃん?


738: ただの御貴族様

スゲー儲かるんだな冒険者って。


739: ただの名無し

そう言って死んでいった友が何人も……


740: ただの名無し

ともあれ、勇者も居なくなったし、王はどうすんだろね?


741: 城勤め文官

勇者の事をさらっと忘れたように王国の建国祭はやるようだよ?


742: ただの名無し

所詮は異世界人が1人死んだってだけだもんな。


743: ただの名無し

建国祭でニッコニコの陛下が……


744: ただの名無し

ま、いつも通り長い演説して陛下バンザーイで終了でしょ?


745: ただの名無し

旨い物くえればそれでいい。


746: ただの貴族婦人

そだねー。



◆◇◆◇◆



ホテルでベッドに寝ころびながら掲示板を眺めな終わった俺は、隣で自分の事が晒され悶えているレベッカに、建国祭についての情報を確認した。


建国祭は毎年行われるお祭りで、今年も2週間後には行われるそうだ。その際には陛下が城のテラスから集まった人たちに挨拶をするのだと言う。


良いタイミングだな。

そう思って建国祭当日を待つことにした。


それから俺は王都でレベッカとぶらぶらと買い食いなどを楽しみ、ささくれだった心を癒していた。途中でレベッカのファンと思われる奴らに囲まれたりもしたが、割と平穏な日常となった。

何度かギルドで絡まれもしたが、それらは腕をぐりっと捻ってやったら大人しくなった。1週間もするとレベッカの黒鎧彼氏には逆らうなという暗黙のルールが出来上がり、どこに行っても冒険者からは頭を下げらるようになってしまった。


正直俺は居心地が悪いのでやめてほしいのだが、それを見るレベッカがご機嫌なので放置した。

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