実演
騒ぎもようやく一段落し、俺はドワーフ王におすすめの酒に合うつまみをいくつか用意してから、再び会場へと戻った。
そこでは、さっきまでの喧騒が嘘のように、あちこちで笑い声と香ばしい匂いが入り混じり、祭りの熱気がさらに高まっていた。
今回、俺は思い切ってレシピを公開することにした。
調理方法も隠さず、誰でも見えるように実際に調理を披露する形式にしたのだ。
見ているだけでも楽しめるようにと工夫したおかげか、観客たちは興味津々に鍋や火加減を覗き込み、質問まで飛び交っていた。
さらに、少し離れた場所では利き酒会も行われており、酒好きの貴族たちが集まっては買い集めた料理をつまみに、上機嫌に杯を交わしている。
香り立つ料理と笑い声が混ざり合う中、俺はマイク代わりの拡声魔具を手に取り、声を張り上げた。
「さーて、食事で賑わっている皆様! 本日の料理の数々、いかがでしょうか? 一つでも気に入ったものがあれば、我々も嬉しい限りです!」
少し間を置いて、俺は続けた。
「そして――もし、その中に“マヨネーズ”が気に入ったという方がいらっしゃいましたら、ぜひこのあと行う特別企画にご参加ください!」
ざわっと会場がざわめき、期待と好奇心が入り混じった視線がこちらに集まる。
俺は深呼吸をひとつして、さらに声を張った。
「これより、本日提供した料理のレシピを実演を兼ねて公開します!
実演は一度限りです。興味のある方は、ぜひこの機会をお見逃しなく!」
――その瞬間、会場中がどよめいた。
「うぉー!」という歓声があちこちから上がり、観客の目が一斉に輝く。
……あれ、これは想定以上の盛り上がりだな。
このままじゃ押し寄せる人でけが人が出かねない。
慌てて俺は誘導用のロープを設置させ、列を作るように呼びかけた。
混乱を避けるために、ドワーフ王国から来ていた料理人三人にも協力を頼む。
「悪い、ちょっと手伝ってくれ。あと――マヨネーズの実技もお願いできるか?」
三人はすぐに頷いた。
そこで俺は追加で声をかける。
「今回の実技に協力してくれたら、試作段階だけど“マヨネーズ作りが楽になる魔道具”を提供しようと思う。
使い心地のレポートはお願いするが……どうだ?」
その瞬間、三人の目が一気に輝いた。
ためらいもなく「お願いします!」と手を差し出してくる。
今のマヨネーズ作りはすべて人力。腕が棒になるまで混ぜなければならないのだ。
少しでも楽になるなら、参加したいと思うのも当然だろう。
「たくさんの参加、ありがとうございます。それでは――これよりレシピ公開と実演を始めたいと思います!」
俺は壇上に立ち、改めて周囲へ呼びかけた。
「本日は、私が以前お世話になり、共に料理を学んだドワーフ王国の三人の助っ人をご紹介します!
この三人は、あの王国で初めてマヨネーズを作った仲間です。
私の次にマヨネーズを理解している料理人たちと言っても過言ではありません。
きっと今後、彼らは立派な料理人として名を馳せるでしょう。ぜひ顔を覚えていってください!」
突然の紹介に三人は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに気を取り直し、慣れた手つきで作業に取りかかる。
これまで何度も王国で練習した動きだ。ミスもなく、手際よく実演が進んでいく。
――が、次の“モイ”の調理実演で事件は起きた。
蒸しあがったばかりのモイの皮むき中、三人が揃って「あっつ!」と声を上げたのだ。
観客席から笑いが起き、場の空気が一気に和む。
「おいおい、気をつけろよ! 本当に火傷するからな!」
俺は笑いながら注意を飛ばした。
そんなやり取りも含めて、実演は大成功だった。
観客たちは新しいレシピを満足そうにメモし、帰り際には「これ、家でも試してみる!」と笑顔で去っていく。
――マヨネーズもモイも、きっとこれからこの地で広がっていくだろう。
その未来を思うと、自然と口元がほころんだ。




