地獄は始まったばかり
ザバァと勢いよく水が頭から降り注ぐ。朦朧とした意識がすこしずつ冷たい水によって覚醒していく。
「よし、目が覚めたな、どうじゃ？体は動きそうか？」
レオナルドが心配そうな顔でこちらを見るので全身に意識を集中して体の具合を確かめる。
怪我をしたような感じはないな、全身が鉛のように思いが動きはするな。
「怪我は無いみたいだ、体もまだギリギリだが動かせるみたいだが頑張って2割くらいって感じかな」
「なるほど、ならまだ限界を更に超えて強くなる余地はあるようだな、安心せい。今日限界までやり遂げれば１日休みをやるからの。ほれっ意識もハッキリしてきたようじゃし、気合いを入れて動け。モンスターは死にかけのお主をみたらためらわず殺しに来るぞ、お前は疲れたから待ってくれと言って殺されてよいのか？わかったら走って走り抜け」
間違っては無いけど初日から、やばすぎだろ。でも黙ったままだと別の手段で殺しに来るかもしれない。それならいっそ残り2割を気力で使い切って朝まで眠ってしまおう。それが多分一番楽なはずだ
「よしよし、良いぞ。そうだ今はとにかく走って頭が空になるまで走り抜け。お前は、そこからがスタート地点になるんだからな。お前が帰るまでに精神から肉体まで鍛え直してやる。さーお前らのご主人が気合い入るように追いかけてやれ」
その後、周りが暗くなり始めるまで走り抜いて、とうとう意識を失うまで走りきった。もうなにも考えられない。
「よく走りきっ・・・ここま・・・・はお前だけじゃぞ、誇って・・・お前は・・・一番やり切った男じゃ」
よく聞こえないが、怒られてる感じではないよな？今はとにかく休みたい。
「意識を失ったか、ま～よくここまで走りきったもんじゃ。予想より出来るようじゃの、これなら基礎を叩き込めば面白いくらい強くなるじゃろ。これは楽しみが出来たの～、一体どこまで強くなるか。
さて、このままでは風邪をひいてしまうの。早く連れ帰って休ませてやろう。一番になった褒美じゃ、そこでコソコソ見てないで、でてくるが良い。こやつも信頼しているお主になら世話されても嫌がらんだろう、だが回復は自然に任せてくれぬか？回復魔法は便利じゃが鍛えた効果も消えてしまう可能性が高くての。せっかく走り抜いていじめ抜いた体も魔法で治っては鍛えられん」
木の陰から出てきたのはティナであった。訓練のさい怪我人が出た時、念の為に回復要因として待機してもらっていた。
「レオナルド様、ナイト様の努力を無駄にしたくないため止めはしませんが、ここまでやる必要はあるのですか？意識を、失うまでやるのはやり過ぎではないかと？もちろん、戦闘訓練などで気を失ってしまうことはあるので否定はしませんがまだ初日ですよね？このままではついてこれないものが出てくるやもしれませんよ？」
「そうじゃの、逃げ出すやつは中にはおるかもしれん、それは否定せんよ。だがの、この国は一歩間違ったらすでに滅んでいたのかもしれんのじゃ。そんな国をチャンスだと思って狙う輩もおるかもしれん。
だからこそ逃げ出すやつはいるかもしれんが、それでも耐えきって訓練を乗り切ったものは並大抵の強さではないぞ。逃げ出さずやりきったことにより自信もつき、訓練している間に必ず精神的にも強くたくましくなるじゃろうて、ワシはそんなやつを少しでも増やせるよう厳しいかもしれんが、鬼になるつもりじゃ。お主には、ナイトが潰れてしまわぬよう支えになってもらいたい。もちろん他の仲間にもな、こやつは必ず短期間でワシすらも予想出来んくらい強くなる素質を持っておる。コヤツの成長を横で見るのはワシの密かな楽しみじゃ」
