表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/40

9.

「設立した人がすごくお金持ちだったとは聞いたことあるけど。……確か……、何だったかな、変な名前の外国人」

 花音は思わず吹き出した。

「なにそれ。律、設立者の名前、覚えてないんだ?」

「そんなの覚えてる人、いるの?」

 律は少しむっとしたようだ。それもまたおかしくて、花音は必死で笑いをこらえる。

「ごめんごめん。だって律、何でも知ってそうなのに、身近なところで無頓着だから!」

「…………」

「……はっ! ご、ごめん、あたし……、馬鹿にしたわけじゃないんだけど!」

 無言になった律に慌てて謝ると、彼は首を横に振った。

「そうじゃない。ただ、僕は何も知らないから。さっきの二つは、たまたま教えてくれた人がいただけで。……そう、たまたま……」

 律はまた無言になる。花音が不思議に思って話しかけようとしたとき、モニターの中のピアニストが一礼し、音楽室から出て行くのが見えた。律がさっと廊下に視線を走らせる。

「そろそろ授業が終わる。隠れないと……」

「え、でも、さっきの暗号だと、次は音楽室に行かなきゃいけないんでしょ? 休憩時間がチャンスなんじゃない?」

「次のクラスとの入れ替えでそんな暇ないよ。昼休みまで待った方がいい」

 話し合っている間に、チャイムが鳴って、廊下が一気に騒がしくなった。二人で顔を見合わせて、慌ててモニターとスピーカーのスイッチを切る。

 律の先導で廊下へ出たが、遅かった。すでに生徒達であふれており、各々が行きたい方向に動くものだから、なかなか前に進めない。何歩も歩いていないうちに、移動していたクラスの生徒も戻ってきて、打ち寄せる人並みに呑まれてしまう。

「あ、栗山がいる……」

「わ。久々に見た。珍しい」

「今日はいいことあるかも」

 すれ違いざまにさわさわとささやき声が聞こえてくる。

「……律。なんか、座敷童(ざしきわらし)的な扱いされてるよ?」

「……いいから」

 皆同じ色のブレザーを着ている中で、ただ一人その上に白衣を羽織っている律はやはり目立つ。周囲の声に無反応で進んでいく律に遅れまいと、花音も必死でついていく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ