表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/40

8.

 ところが、音楽室は使用中だった。重厚な防音の扉には鍵がかかっており、中に入ることができない。

「――ああ、そういえば、今日はあの日だったかも」

「え?」

「こっち」

 律はくるりと身を翻すと、吸い込まれるように隣の教室に入っていった。今は無人のようだが、花音はなんだか焦ってしまう。

「ちょ、いいの!? ここ、律のクラスじゃないよね?」

「大丈夫。ちょうど移動教室でいないみたいだから」

 そう言って、細い指で頭上を指し示す。黒板の真上の位置に、黒くて大きなモニターが備え付けられている。その両側の天井の隅にはそれぞれ大きなスピーカーがついていて、どれも花音の学校にある物とは格が違って見えた。

「なんか、校内放送レベルの使い道じゃなさそうな物があるんだけど……」

「今日は有名なピアニストが特別講師として来る日だったと思う。そういうときは、他の授業の生徒も自由に見ていいことになってるんだ」

 律がリモコンでスイッチを入れる。画面に音楽室の様子が映ったとたん、大音量でピアノの調べが流れてきた。

「わ、あっ……!?」

 圧倒的とも思える音の奔流(ほんりゅう)が教室中を蹂躙(じゅうりん)する。花音は波に押されたかのようにふらついた。

 堂々としたグランドピアノの前に座っているのはたった一人。どう指を動かせばこんな息つく間もないような旋律を奏でられるのか。

 知らず知らずのうちに花音は息を止めていた。すでに終盤だったようで、曲はほどなく終わってしまったが、花音の耳の中では同じ旋律が繰り返し繰り返し流れていた。

「――す……、すごいすごーい! なんかわかんないけどすごい迫力! モニターごしなのに!」

 余韻が消え、静まりかえった教室に、興奮した花音の拍手の音が響き渡る。

「数ヶ月に一度の頻度で、プロの演奏家を呼んで授業をするんだ。僕は出たことないからよくわからないけど」

「え、プロを、ただの音楽の授業に!? どんだけ金持ち学校なの、ここ!」

 嫉みをこえて呆れてしまう。在校生の前で赤裸々(せきらら)すぎる感想だったが、律に気にした様子はない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ