7.
「どう?」
「んー……。いや、何も……、あ」
写真を律に返そうとした時、その裏の文字が目に入った。撮影者の名前、クラス、撮影場所と日付の他に、明らかに別人の筆跡で、文字が書かれていた。
二人一緒に見える位置に写真を掲げる。
『卵♪
りんご♪
ミルク♪
バター♪』
「――デ、デザート!?」
「なにが」
冷静に律がつっこむ。
「だ、だってこれ、何かのレシピっていうか……。お、おいしそうじゃない!?」
「たぶん、これも暗号でしょ」
「えっ……」
こともなげに言う律を、花音は愕然として見つめた。
「ってことは……、まだ続くってこと!?」
「……そうじゃない?」
「――っ」
花音は手元の写真に視線を落とした。
せいぜい十分、いや三十分もあれば終わると思っていたから忍び込むなんて方法をとったのだ。これでは予定が狂ってしまう。滞在時間が長くなれば、それだけ他校生だとばれやすくなるし、そんな危険を冒すだけの理由が自分にはあるだろうか。
花音は写真を持つ手に余計な力が入らないよう注意しながら、思考をめぐらす。
「……どうするの。やめる?」
律に聞かれて、花音は口ごもった。けれど、自分に言い聞かせるようにゆっくりと答える。
「……いや。最後までやる。途中でやめたんじゃ、わざわざこんな山の中まで来た意味ないし!」
「……わかった」
律はそれだけ言うと、白衣の袖を口に当てて考え込む。
どうやら彼もつきあってくれるらしい。正直に言えば、一人でこの暗号に取り組むのは勘弁して欲しかったので、花音は胸をなで下ろした。意外と面倒見がいい彼のためにも早く終わらせようと、気合いを入れて写真を見直す。
――しかし、この愉快そうな言葉の羅列に意識が引っ張られてしまう。
いつの間にか花音は、この食材で何が作れるのか真剣に悩んでいた。
「ホットケーキ……、アップルケーキ……、フレンチトースト……、アップルカスタードパイもいけるか?」
「……花音。おなかすいてるの?」
目を閉じて思考していた律が、仕方なさそうに目を開けた。
「うう……。だって、やっぱりレシピに見えるんだもん。買い物リストっていうか……。だからつい」
「リスト……?」
律の眉がぴくりと動いた。
「音符に、リスト……。ピアニストのフランツ・リストってこと? ……まさかこれ、だじゃれ?」
「だじゃれ……?」
二人は、微妙な空気のまま、音楽室へ向かうことにした。