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37.
風が吹き、白衣がはためく。閉じたドアを見つめながら、まだぬくもりの残る白衣を抱きしめる。
誰もいなくなった屋上で、花音は涙声でつぶやいた。
「律……、嘘ついて、ごめん」
その声は、風に乗せられ、森の中へ運ばれて消えた。
警備員は運良く一人。
教師も全員帰宅したのだろう。廊下は照明が落としてあり、非常灯だけが暗闇に浮かび上がっている。
律はほのかな灯りをたよりに三階の廊下を走り抜け、警備員の気をひきながら近くの教室に隠れて時間を稼いだ。二階に降りる階段で捕まってしまったが、花音が屋上から待避する時間は稼げただろう。
逃げ回ったくせに、捕まってからは抵抗もしない律を不審に思ったらしい警備員は、顔を覗いて驚いた声を上げた。
「あっ! お前、栗山じゃないか!」
名前を呼ばれて、律は視線を上げた。
それは、食堂でアルバイトをしていた青年だった。




