3.
信用してくれたのかと思いきや、しっかり疑われているらしい。
花音が不満を訴えると、少年は「ちょっと待ってて」と言って姿を消した。そしてすぐに何かを持って戻ってくる。
「これ履いて」
少年が差し出したのは、彼が履いているのと同様の内履きだった。反射的に、自分の足下へ視線をやる。
「うちの生徒はスリッパは履かない。体育の授業とかできなくなるから。忘れてきた場合は貸し出し用の内履きがあるんだ」
「! だから、あたしが、ここの生徒じゃないって――……」
制服と外履きはネットで購入したのだが、内履きをそろえるのを失念していた。よって花音は、玄関に置いてあった来客用のスリッパを履いていたのだが、それが彼に違和感を与えていたのだろう。一目で部外者だと看破された理由が判明した。
さっそくスリッパを履き替える。少年がほっとしたように息をついた。
「ちょうどみたいで良かった。これしか残ってなかったから」
木訥としたしゃべり方と無表情のせいでわかりにくいが、悪い人ではないのだろう。花音は礼を言おうとして、名前を知らないことに気がついた。指摘すると、彼はほんの少し目を見開き、口元に袖口をあててつぶやいた。
「ああ……言ってなかった。栗山律。栗の山に、法律の律。二年B組」
「へえ~。律って、かわいい名前! ……って、二年って、タメじゃん! ね、りっちゃんって呼んでいい?」
飛び跳ねながらそう言うと、栗山律はじろりと横目を向けてきた。
怖い。
「……すみません。調子に乗りました。よろしくお願いします、栗山さん……」
花音は想定以上の衝撃を受けて落ち込んだ。かわいい顔でにらまれると、こんなにも大ダメージを受けるものなのか。
わかりやすく肩を落としていると、律は呆れたのか、溜息をついた。
「……律でいい」
「えっ? あ、ええと……じゃあ、律く――」
「それで、花音。どこへ行けばいいの?」
いきなりの呼び捨て。
堅苦しいのかフレンドリーなのか判らない。戸惑っていると、律がせかした。
「すぐに用事を終わらせて、すぐに帰るんだよね?」
「え、あ、ご、ごめん、えっと……、そうそう、三年四組に行きたくて」
「三年四組?」
律は、踏み出しかけていた足をぴたりと止めた。
「そんなクラス、ここにはないけど」
「――えっ?」