27.
顔を上げるも時すでに遅し。花音は数人の女子生徒達にとり囲まれていた。
見知らぬ人ばかり、と思ったが、正面の少女には見覚えがある。音楽家の演奏を聴いた後、教室前の廊下で律にからんできた生徒のはずだ。
とすると、こうなった状況は推して知るべし、ということだろう。
「あんた、律くんのなんなの?」
開口一番、敵意むき出しの言葉が飛んできた。
「なんか今日、ずっと一緒にうろうろしてない? 何組の誰よ? 律くんとどういう関係なの?」
「うちらの誰もあんたのこと知らないんだけど。名前、名乗りなさいよ」
口々に詰問され、花音は対応に困る。はっきりと答えられるのは名前だけだ。けれど、それだけでは彼女たちは納得しないだろう。
「ちょっと、黙ってないでなんとか言ったら!?」
「無視してんじゃないわよ!」
「ああ、ごめんなさい!」
花音は慌てて返事をした。とにかく何か答えなければ、さらに彼女たちをいらだたせてしまう。
「えっと、あたしは天宮花音っていって……、律……くんとは、別になんの関係もないんだけど、事情があって、今日だけ案内してもらってて……」
「は? 意味わかんないんだけど」
花音のしどろもどろな説明では、やはり理解してもらえなかった。わかってはいるのだが、これが事実なのだから、他に説明のしようもない。正面にいるポニーテールの生徒が目をつり上げて詰め寄ってくる。
「関係ないなら、なんで律くんが一緒なのよ!」
「だ、だからそれは、偶然会って……、ほ、ほら、律くんてやさしいでしょ? あたしもなんだかわからないけど、自分からやってくれるって……」
「……律くんが、自分から?」
真ん中の子が、怪訝な顔をして周囲の人たちと視線を交わす。
「あんた、何言ってんの?」
「え?」
「律くんは誰とも関わんないわよ。複雑な家庭環境ってやつで、人間が嫌いなんだから。あんたが無理矢理つきあわせてるだけでしょ。無神経な女ね!」
どん、と胸を突き飛ばされて、花音の中に小さく火種が灯った。
「……あたしは、ほんとのことしか言ってないよ。律は優しいから、あたしが困ってたのを見過ごせなかったんだと思う。あなたたちこそ、言ってることが無神経なんじゃない?」
「なっ……、なによ、えらそうに!」
「ね、ねえ、瑠璃!」
隣の子が慌ててカッとなった女子生徒を肘でつついた。「こいつ、誰も知らないなんて、やっぱりおかしいよ。先生んとこ連れて行かない?」
(えっ!?)




