17.
傘の上にハートマークが描かれたもの、傘の間に線が入ったり入らなかったりするものもあり、どうやらいろんなバージョンがあるらしい。画面に「正しい相合い傘の描き方」を表示してつぶやいた。
「ふうん。こんなのがあるんだ。ね、律も見てみなよ! 面白いよ」
「僕、ケータイ持ってないから」
なんでもないことのように言われて、花音とバイトの青年は目を丸くした。
「ええ!? ほんとに!? 持ってないの!?」
「おお! すげえ、天然記念物なみだなおい!」
「……」
律はじろりとにらんだだけで、すぐに食事を再開した。しかし、花音はさらに食い下がる。
「え、じゃあ、どうやって連絡取り合うの!? 友達とか、家とかさ!」
「別に、とりたい人いないから」
律のあっさりした答えは、それ以上の追求をためらわせる効果があった。青年が居心地悪そうに視線をさまよわせ、花音はがっかりしてスマホの画面に視線を落とす。
今日ここを離れてからも、律とは繋がっていられると思っていた。連絡先を交換する機会をうかがっていたのに、その手段がなかったとは。
「……花音?」
突然静かになった花音に、律が声をかけた。花音は焦って話を戻す。
「あ、あーっと、絵の話だったね! えっと、これが別れ傘っていうと、虫と縁を切りたいってことかな? でも、なんかこれ、矢印にも見えるよね。や、矢印にしては変かー、あはは!」
「……矢印?」
少し傾いた傘の先を見つめた律は、いきなりご飯を食べるスピードを上げた。
「え? 律? 急がなくていいよ? あたしがご飯食べるの速いだけで――」
「――ごちそうさま。花音、行くよ」
「えっ? ええ、えーっ?」
早送りのような動きで食器を棚に戻すと、呆気にとられる青年を尻目に、花音はひっぱられるようにして食堂を後にした。




