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花にひとひら、迷い虫  作者: 鍵の番人


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15/40

15.

「ここって、食堂があるんだよね? 暗号ないかなー、暗号! 食堂! 食堂に行きたいなー!」

「そんな都合よくあるわけないよ……」

 律は呆れながら花音の様子を観察していたが、やがて時計を確認して言った。

「そんなに行きたいなら、試しに行ってみる? 時間外だから、作ってもらえるかわからないけど」

「えっ、いいの!? やった! 律、ありがとう!」

「はいはい……」

 飛び上がって喜ぶと、律が苦笑した。たとえ苦笑でも、律が笑顔になるとなぜか花音も嬉しくなる。

(律、あんまり笑わないからなあ)

 いつも無表情――というか、やる気がなさそうな表情をしている。

 だからかもしれない。たまにそれが崩れると、宝石のかけらでも見つけたような気持ちになるのは。

「あっ、もしかして、食堂も超・豪華なんじゃない?」

 花音の学校には食堂自体がなかったので、知らず知らずのうちにテンションが上がる。

「食堂自体は普通だと思うけど……。でも、料理長は、イタリアで修業してきたとか聞いた」

「なにそれ! やっぱねたましいけど楽しみだわ! イタリア! ポルチーニ!」

 きのこの名前を叫んで走りかけた花音の首根っこを、律が手を伸ばしてつかんだ。花音が「ぐえっ」と声を出して止まる。

「り、律はあたしよりちょっとばかし背が小さいんだから、そこつかまれると首がしま――っ、いたいいたいいたい!」

「…………廊下は走ると危ないから」

「ハイ……ゴメンナサイ」

 首根っこつかむのも危ないと思う。とは口に出さず、律に連行されるようにして食堂に向かった花音は、メニューを見たとたんに元気を取り戻した。

「わあっ……、なにこれ、和風イタリアンてやつ!? ううっ……やばい。選べない……!」

「というか……僕たちしかいないからすごく目立つ……」

 授業中なのだから当然だが、食堂には花音たちしかいない。一番奥の壁際にいても、目立つものは目立つのだ。

「まあいいじゃん。律は目立つの慣れてるんでしょ?」

「慣れてるわけじゃ……、ていうか、見つかったら困るのは花音でしょ」

 律の懸念は無視して、花音は三つしかないメニューから日替わりパスタセットを注文する。食堂の準備をしていたアルバイトらしき青年は、律の姿を見て、注意するのを諦めたようだった。

 あっという間に出てきた食事をいそいそとテーブルに運ぶ。学生向けのため、量は多めで金額は安い。それなのにデザートまでしっかり付いていて、さらには市井のレストランでもなかなか食べられない味だった。

「すごい……、サラダとか付け合わせまで全部おいしい……! 律、いいなあ。毎日こういうの食べてるの?」

 感動で顔がとろけそうになりながら律に尋ねる。

「生徒達で混むからあんまり来ない。たまに、時間外で来るときもあるけど」

 やはり時間外利用の常連のようだ。和食派なのか、ご飯をもそもそと食べている律を眺めていた花音は、ふと律の背後の壁が気になった。

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