14.
――どうだ、少年! 花とは美しいものだろう!
日本語を流暢に操る、変わった名前のアメリカ人だった。
彼は学校関係者だと主張し、便宜を図ってやるから花畑を管理してくれないかと打診してきた。結局、律が興味を持ったのは蝶の方だったのだが、彼の目的は一応達成されたからか、律はこの準備室を与えられた。
「その時の花は、アサギマダラがもっと好きな花にほとんど植え替えちゃったけど」
それでも彼は笑って許してくれたらしい。打ち込めるものが見つかって良かったな、と。
「ふうん。いい人に会えたんだね」
やっぱりこの学校に関わる人は変わり者が多いらしい。けれど、律の表情がどことなく柔らかくなったのが嬉しくてそう言うと、律はびっくりしたように振り向いた。
「花音は、本当にそう思う?」
「え? なんで?」
「僕が虫に興味を持ったこと、よく思っていない人の方が多いから」
「ああ……」
彼女たちの言葉を、律も彼なりに気にしているのだろう。無表情だから傷ついていないというわけではない。
「あたしはそういうのないからさ、夢中になれるものが見つかるっていいなって思うよ。むしろ律の残念なところっていうなら、無愛想とかぶっきらぼうとか授業をサボるとかそっちの方かなってあたしは……、あっ、ごめんなさい!」
律の冷たい目に射貫かれて、花音は反射的に謝った。
「花音て、ときどき無神経なこと言うよね……」
「わーっ、わかってる、ごめん! 友達からもたまに呆れられるんだよね! 気をつけてはいるんだけど、でも、口が勝手に……! ほんとごめん!」
花音が必死に謝ると、律が表情をなごませて「ふふ」と声を漏らした。
「いいよ。なんか……、あんたは、わかりやすくて嫌な感じがしない」
「え……」
律が笑ったところを見るのは初めてだった。言葉の一部にひっかかりを覚えながらも思わずまじまじと見つめていると、花音の腹の音が大きく鳴った。顔を真っ赤にして音の原因を押さえ込む。
「花音……。さっき、図書室で何か食べてた……」
が、律の耳にもしっかり届いてしまったようだ。
「あ、あれは朝ご飯だったの! この学校、こんな山の中にあるんだもん、町中から来るの大変だったんだから!」
花音は開き直ると、準備室に引き返して室内を調べ始めた。律が首をかしげてその行動を見守る。




