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花にひとひら、迷い虫  作者: 鍵の番人


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13/40

13.

「……そういえば、カエルって、虫じゃないよね?」

 律のセリフを思い出して言うと、彼はワンテンポ遅れて顔を上げた。

「仕方ないでしょ。それしか思いつかなかったんだから」

 憮然(ぶぜん)とした言い方がちょっとすねているように見えて、花音はつい笑ってしまった。

「あははは――と、ごめんごめん。でも、そっか。なんで白衣なのかずっと疑問だったんだ。謎が解けたよ」

「いや。解剖はしないから。これはただ、制服は汚すと代えがないからで」

「……え?」

撥水(はっすい)加工してあって、安いの、これしかサイズがなかったから……」

 意外に庶民的な理由だった。律に勝手に親近感を抱いていると、彼はきまりが悪くなったのか、突然、花音の腕を引っ張った。

「え、なに? なに!?」

 生物準備室には廊下に面するドアと別に、勝手口のようなものが設えてあった。三和土(たたき)にはなぜか律のものらしき外靴とサンダルが置いてあり、律はサンダルを履いてついて来るよう花音を促す。

 外に出ると、そこは塀に囲まれた中庭になっていて、星屑のような白い小花が咲き乱れる花畑が広がっていた。

 咲き誇る花の上を、たくさんの薄水色の蝶がふわふわと舞っている。

 それは美しい光景だった。

「うわあ、このチョウチョきれい! すごい! なんかステンドガラスみたい!」

「アサギマダラって言うんだ。長距離の渡りをする珍しい蝶。花音はこっちで待ってた方がいいでしょ」

 切り取られたような青い空と、白い花々、そしてゆらめく浅黄(あさぎ)色のコントラスト。絵画のような情景に、いつまでも見ていたい気分にさせられた。

 日当たりのいい場所に置かれたベンチに座っていると、遠くから生徒達の喧騒が聞こえてくる。ゆっくりと過ぎていく時間を、他校でこうしてすごしているというのは不思議でたまらない。

 室内で作業している律を眺めているのも楽しかった。ほどなくして、外に出てきた律に笑いかける。

「ところでさ、律って生物係かなにかなの? こっちの庭も律が世話してるんでしょ?」

「頼まれてるのは庭だけ。あとは、個人的な趣味、かな」

「え?」

 花畑から外れていた一匹の蝶が、律の目の前を横切って群れの中へと戻っていく。

「……もともとは、何にも興味がなかったんだ。だけどあるとき、変な人が現れて、『何にも興味が持てないなら、花を育ててみないか』って。そのときもアサギマダラがこんな風に飛んでいて、僕は虫の方に興味を持っちゃったけど」

「変な人って……」

「初対面の時、永遠の十九歳だと言っていた」

「何そのあほな人」

「だから、変な人なんだって」

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