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花にひとひら、迷い虫  作者: 鍵の番人


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12/40

12.

 律が向かったのは、「生物準備室」と表示された教室だった。それほど広くない室内には長テーブルが等間隔に配置されていて、その上には、小学校でよく見た透明なケースが数十個並べられている。

「ここは一応、僕が管理してるんだ。だからほとんど人も来ない」

 それが本当なら、隠れ場所には最適だろう。どうせ昼休みになるまで音楽室には入れない。

 律は、飼育ケースの間を行き来し、それぞれの様子を観察したり、世話をしたりし始めた。花音はテーブルとテーブルの間をぶつからないように気をつけて進んでいき、周囲より影になっている一つに近寄ってみた。

 中からはカサコソとはかなげな音が聞こえる。気のせいか、小さな生き物の息づかいも。

「あ。花音はちょっと……、こっちの方がいいかも」

「え?」

 律はためらいがちに花音がいるのと反対方向のケースを袖で指し示す。

「虫が好きならいいけど、そうじゃないなら、こっちの方が一般的だから……」

「あ。そ、そうなんだ……」

 決して虫が得意なわけでない花音は、素直に忠告に従った。律に勧められたケースの中をのぞき込むと、小さな虫たちがか細い足を一生懸命動かしているのが見えた。順繰りに一つ一つのぞいていく。

 カブトムシ。クワガタ。カマキリ。テントウムシ……。

「ふむふむ。この辺りはわかる」

 ……黒くて足の長い虫。毛がもさもさしてクモみたいな(以下略)……。

「うん! この辺りでやめよっかな!」

「……僕は初心者だから、育てやすい身近な虫しかまだいないけど……」

 身近でもキモチワルイものはキモチワルイ。花音は後ずさりして、遠巻きに眺めることにした。

 サイズの合わない白衣の袖口をまくり、かいがいしく虫たちの世話をする律の目は、真剣そのものだ。

「律は、虫が好きなんだね」

 クリップボードに何かを書き込んでいる律を見ながら、感心してつぶやく。彼は、花音を一瞥すると、

「――昆虫は、わかりやすいから」

 手をとめずに、返事をした。

「わかりやすい?」

「……進化するのも、行動原理も、生き残ることが目的だから。単純で、わかりやすい」

 何と比べて、とは律は言わなかった。

 花音も深くは聞かなかったが、先ほどの女子生徒達の言葉が腑に落ちた。彼女たちが嫌っていた律の趣味とは、このことだったのだろう。

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