プロローグ
●登場人物●
ニシ:23歳 白の魔導士。常盤興業の契約社員。天賦は召喚魔導。付術や魔導陣を駆使した魔導が得意。もっぱら近接戦闘マニア。魔導の発動キーは『高速詠唱』孤児5人と一緒に暮らしている。出身は浜松。両親は健在だが不仲。
カナ:24歳 ニシより年上だが学年は同じ。白の魔導士。常盤興業の社員。旧東京支部 技術部主任。休日は魔導工学専攻の大学院生。天賦は光の魔導。もっぱら遠距離戦闘マニア。大分出身。神社の養子。
リン:元陸自の常盤興業の社員。詳細な経歴は不明。旧東京支部 保安部 隊長。強化外骨格を用いた戦闘のエキスパート。見た目は中学生だが2■歳。メインアームはMk.IVライフル。親しい人の死にトラウマがあるようで……。
リンの部下:ケン(元陸自)、ジュン(元SAT)、テツ(元某国外人部隊)、ハシ(元陸自)、ヒロ(元県警)、なお全員筋肉体型。
カグツチ:ニシが召喚する高次元思念体。自称・神。見た目は身長2mの湘南男。
サナ:記憶喪失の少女。たぶん中学生。高度な魔導の素質があるが訳あって隠すことになる。魔導の行使方法すら忘れてしまっている。
モモ:小学6年生。家族の中では最年長のお母さん役。5年前の潰瘍発生の際、ニシに助けられた。好きなアニメは『Magical★Girl』
ニシの預かっている孤児:ハナ(8歳)、カズキ(8歳)、ユメ(9歳)、ヨシコ(10歳)。5年前の魔導災害で家族を失う。全員、魔導士の素質がある。
新山刑事:所轄の刑事。魔導関連の犯罪や事件を扱う。
カリナ:ネットメディア『マジシャンズ.com』の記者。ニシに興味があるようで……。
●用語●
マナ:実体物と対になるエネルギー。一般的には反物質と認知されている。古代と比較しその総量は少なくなってきたと言われている。
魔導:マナを使った神秘の技。ごく限られた者だけが扱えるが、近代までにほとんど衰退してしまっている。魔導士はマナへの感応力ごとに、緑ー青ー黄ー橙ー白と分けられ住基ネットに登録される。特に白は犯罪防止のためGPSデバイスの着用が義務付けられている。
常磐興業:冷戦終結直前にできたエネルギー系ベンチャー企業。電力を無尽蔵に取り出せる「魔導セル」や機械的にマナを取り出せる「魔導機関」が主力商品。冷戦終結後、エネルギー革命をもたらした。WW3後は魔導を駆使した放射能除去や都市建設、怪異掃討ための私設部隊も保有する年商5000兆円のコングロマリットに成長した。
潰瘍:5年前発生した原因不明の魔導災害。半径数km~100kmの不可侵領域。その中では魂が溶け出してしまう。さらに危険な怪異も徘徊している。陸上、海上あわせて10箇所で発生。現在は拡大していない模様。
魔導災害:潰瘍発生と、同時に出没するようになった怪異による被害の総称。5年間で1億人以上が犠牲になった。
強化外骨格兵士の身体能力を補うパワードスーツ。魔導セルにより飛躍的な進歩を遂げた。WW3直前では試験評価段階だったが、怪異との戦闘では基本的な装備となる。
川崎市:常盤興業の関連施設が立ち並ぶことで発展した大都市。新東京に次ぐ3000万人都市。
「番号札を取ってお待ち下さい」
入店早々、接客ロボットのカメレオンじみた目がこちらを向いて、中性的な的な声がスピーカーから流れた。
ニシは接客ロボットの言う通り、よく注意書きを読んで「1」=新規契約のボタンを押した。土曜日の昼下がり、家から近くの携帯電話ショップは思ったより人が多かった。携帯会社は新規顧客を獲得するため高齢者をターゲットに=週末のショップはいつも大混乱。
「お客様ぁ~こちらが開いておりますのでどうぞ」
営業スマイル/安いスーツの受付係の男がうやうやしく案内する。年齢層の高い人達がカウンターでガヤガヤとクレームを付けているが、それより順番を優先してくれた。
「今日はお兄様のご契約でしょうか。それとも妹様のご契約で?」
「俺じゃなくて、こっち」
ニシの指差す先、サナがコクコクとうなずいた。
「そうですかぁ~。中学生ですか。初めてのスマホですかぁ~」
「はい」
「いいですね~」
こういう対応のマニュアルでもあるのだろうか。イライラしてきた。
受付の男に言われるがまま、カウンターの椅子に座る。
「お兄様、だってさ。若く見えたのかな」
年の差は、干支で言えば約一回り。
「兄さんじゃなくて、私が大人びて見えたんです。14歳とかじゃなくて、本当は16歳くらいなんです、きっと」
記憶喪失の少女=サナ。自分の年齢を思い出せず/しかし常に大きく見せたいお年頃。ニシの呼び方は、他の子たちに倣って「兄さん」と定まった。かれこれ1ヶ月、その呼び方なのでだいぶなじんできた。
「どちらの機種になさいますかぁ~」
猫なで声の受付。パンフレットを広げ、様々なメーカー/値段/色のスマホを見せる。しかしどれも似たような形=6インチのスクリーン。
「ん――」
サナの眉間に皺が寄った。かなり真剣に悩んでいる。視線が右へ左へ行ったり来たり。
「友だちはどんなの、持ってるんだ?」
「ルイちゃんはこれ、ツカサちゃんはこれだと思う」
サナはパンフレットの写真を指差した。どちらもエントリーモデル。
「ちなみに、お兄様はどんな機種がよろしいですかぁ~」
「俺は、ロースペックのスマホ、ミドルスペックのタブレット、ハイエンドPCが欲しい。simは格安ので」
ニシ=魔導士でありながら、ギークな趣味。
「ははは、そうですか~いいですね」
営業スマイル=警戒心が満ちる。妙な質問を聞かれないかドキマキしている。とは言えサナの最初のスマホなのだから、サポート満点のキャリアで契約する。
「これ、にする」
サナの指差す先=ホワイト/RAM3GB/台湾製。
「その色が好きなのか」
「……うん」
嘘。5人の孤児たちを育てたからわかる。遠慮禁止は、我が家のルールその1。
「モトローラの最新型で」
「え、いや、それは」
「高い? iPhoneより安い。それに友だちと写真をよく撮るだろ? 夏モデルのスマホでいちばん、カメラの性能がいい。それにRAM8GB、CPUも上位モデルだからゲームもサクサク動く。GPSの精度も高くて、ARナビゲーションもできる」
ニシ=ギークの本領発揮。サナ=ドン引き。受付=苦笑い/仕事を取られた。
「うん、同じ色もあるし、それでいい」
「あはっ、わたくしも賛成です」営業スマイル=たぶん嘘。「ご契約のプランはいかがいたしましょう、お兄様」
表にずらりと並ぶ金額/通信量/通話時間。
「この5G通信無制限、通話1分10円のプランで」
「月々5980円になります。お支払いのほうは?」
「クレジットで」
「はーい、ではこちらの書類に記入を。わたくしはおスマホをご用意してきますので~」
そう言って営業スマイルの男は席を立った。
「兄さん、本当に良かったの?」
「値段は、まあ気にしなくていい。遠慮しないって最初に言っただろ?」
ニシはクレジットカードを取り出した。常磐興業のロゴと、ペリカンをデフォルメしたゆるキャラが描かれている。常磐興業=世界最大のエネルギー会社にして業績数百兆のコングロマリット。最近は金融業界にも手を出した/半強制的に社員も契約をすることに。
「通信費は俺が払うけど、スマホ本体の領収書はオジサン名義にするから」
サナは首を傾げた。
「大人のルールだよ。大丈夫。オジサンはお金持ちだから」
「じゃあ、さっきファミレスで食べたリョウシューショも?」
「そうそう」