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無意識の裏切りが起こす結末

作者: 初月・龍尖



 ある村に男が居た。

 男はこの頃妻を娶った。

 祝言を挙げるカネも無く初夜に床を共にした晩に妻から一言耳打ちされただけで以前と変わらぬ日常に戻った。

 妻は器量良しで日がな一日働き詰めでもあったとしても悲観的な言葉をひとつたりとも吐かないほど良く働いた。

 ふたりが暮らすのは雨漏りのする荒屋で男は家に閉じこもっていつも木槌の音を周囲に響かせていた。

 男は木工を生業としていた。男の作る物は高く売れる事も安く買い叩かれる事もなく平々凡々とした値が付けられる平均的な作品ばかりだった。

 ただ、ひとつだけ。太鼓の撥だけは打ち手が直接買い求めに来るほどのモノだった。

 妻は男の代わりに外での作業を続けていたが、ある時ふらっと出ていったっきり帰ってこなかった。

 男は慌てて方々を探して回ったが全く行方は分からなかった。

 肩を落としながら帰宅すると家には煌々と明かりが灯っており中から高らかな笑い声が響いていた。

 慌てて家の中に飛び込むとそこには異形の姿をした妻とそれに付き従う異形の者が居た。周囲には松明が何本も転がっていた。

 妻は祭に出ましたねと男を睨めつけた。

 男は慌てて首を横に振った。

 妻は手に持った松明を男の傍へ投げ刺した。

 それは男が使い手の為に丹精込めて作った太鼓の撥だった。

 男は決めつけていた。初夜の床を共にした時に耳打ちされた言葉を。

「貴方様は決して祭に出てはなりませぬ。さもなくば共に異国へ逝かねばなりませぬ」

 それが妻が言った最初で最後の約束の言葉であり男は無意識の内にその約束を裏切り続けていたのであった。

 霊込めされた作品は作った者の分身となる。それほど男の作品、太鼓の撥は素晴らしいモノだった。

 かくして男は妻に引きずられ異国へ向かう事となった。

 隠すことの無くなった妻は口早に男に愛を囁いた。

 らヴやだーりんなど男にはよく理解できない言語を使いまくし立てた。

 辿り着いたのはヒトがひとり通れるだけの穴。

 死を覚悟し目を閉じた男の首筋にちくりと痛みが走った。そして、男は妻のモノとなった。

 微睡みの中で男が見たのは整然と並ぶ椅子に座った老若男女だった。

 男は空いた椅子に腰を下ろされそこで意識が途絶えた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 何でこういう約束とか契約の話ってちゃんと条件を伝えない癖にすぐ破ったって言ってくるんだろう? 男に一言、撥も自身に含まれるって言えば良かったよね?って思って全然納得できない
[一言] 不思議な話。だけど当然。
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