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非日常の幕開け①

エミリはつまらなかった。毎日毎日、おべっかを使ってやってくるご友人たちに、できて当然のお勉強。代り映えのしない毎日に辟易していた。



「エミリさん、そのどうか…」



真っ赤に染まった頬と熱のこもった視線から、目の前の青年がなにを言おうとしているのか何を望んでいるのかを読み取る。読みやすすぎてつまらないが、受け取る気もないので柔らかく微笑んで、先を閉ざす。



「気持ちだけ、ありがとうございます」



とってもめんどくさい。


そして、迷惑と思っているから気持ちもうれしくはないのだけど、この青年、地味に金持ちの家だ。この後、父親の家業に響いてもめんどくさい。

気持ちはありがたいけど、受け取れませんの対応ほど適しているものはない。


口元を抑えて、照れを隠しているといった仕草を意識する。これなら少し足早に立ち去っても不自然ではない。早くこの空間から脱出したい。


そう思って、教室の扉を通った瞬間、目の前でフラッシュがたかれたように視界がくらむ。見栄が良いからと写真部にモデル依頼されたこともあるが、今日はその予定ではない。まったく、勝手に撮影するなといつも言っているのに。

さきほどの青年のことに上乗せされて、ちょっとずついら立ちが募っていく。


ざわざわと騒がしい割に中々視界が戻らない。周囲に、なんとか助けなさいよと悪態をつきたくなってくる。



「お加減はいかがですか」



透き通るような美しい声が私に問いかけてくれる。

そうそう、私の相手をするならこういう人じゃないとね。

ただ、学内でこんな声は聞いたことがない。誰だろう。



「まだ前が見えないわ」

「大変失礼いたしました。ただいま魔法で闇を払いますので、お待ちいただけますでしょうか」



は?魔法?


疑問をそのまま提示するのは下策だ。私をおちょくっているドッキリだとしても、なにか変な集団に巻き込まれたのだとしても、こちらの情報を不用意にだしてはいけない。



闇消クリア。いかがでしょうか」



暖かくて柔らかい感触が目元を触っていった。ゆっくりと目を開けると、おそらく私の目に”魔法”をかけた声の主が目の前にいた。


何この人、すごい綺麗。


明らかに日本人ではない。同じ人間とも思えないほど、整った顔立ち。

長いまつ毛に縁どられたエメラルドの瞳が伺うように私を見ている。艶のある銀色の髪をシックな黒のリボンでまとめて、服はアニメで出てきそうなマントを羽織っている。でも、それが野暮ったく見えない良いスタイルだ。


性別はどっちだろう。

声は低くも高くもない、アルトだったから判別がつかない。


この人に傅かれるのなら、毎日がすごく楽しいに違いない。



「大変結構よ」

女王陛下クイーンに、過分にお褒めいただき、大変ありがたく存じます」

「ペトラ、もうよい。私に代われ」

「はい、陛下」



この恐ろしく綺麗な人はペトラというらしい。

ペトラだと女性名だ。女の人だったのか。

ペトラが陛下と呼んだ、おそらくこの場で最上位だろう人を見やる。


うわ、この人も綺麗だ。というか、この部屋、顔面偏差値が高すぎるでしょう。


中二病全開の黒髪灼眼という組み合わせなのに、私に痛々しいという感想よりも美しいという感想をいただかせるなんて、レベル高いわ。大粒のルビーを抱く王冠が嫌味なく似合っている。なるほど、陛下っぽい。

これなら仮にドッキリだったとしても、許す。こんなイケメンを眼前で拝めて、ちょっとした非日常を楽しめたならアリだ。つまらない毎日の彩りとして、許してあげよう。


内心ご満悦でいると、低いイイ声が私に問いかけてきた。



「騒がないのか」

「あら、どうして騒ぐ必要があるのかしら」

「まだ理解してないか。周りを見るとよい」



耳がついていたり、角が生えていたり、服装もアニメっぽいなかなかファンタジーな恰好をしている人たちが私を取り巻いていた。

そして、陛下以外だと、陛下の側に控えるペトラと、興奮気味で取り押さえられている女性以外は総じて私に向けて敵意を持っているみたいだ。


そして、場所は広い。陛下が座っていた席はかなり立派だし、玉座の間といったところかしらね。

頭上に輝くシャンデリアは我が家のものよりも明らかに大きい、仮にドッキリ企画だったとしても怒れない相手だと理解した。


さてと、陛下とお話をして情報を引き出さないといけないみたいだ。

話のきっかけとしては、場所についてと、サル轡までされて取り押さえられている羽のついた女性が良いだろうか。番組だとしたら、明らかにあの人はツッコミがほしそうだ。



「広い家のようですね」

「城だ」

「そう、いつの間にかお城にお呼ばれされていたのね」

「あぁ、俺が呼んだ」

「光栄ですわ」

「そうか、光栄か。それが、帰れなくてもか?」



なんだろう、最近はやりの異世界転移を模しているとでも言いたいのだろうか。

”魔法”とさっきペトラも言っていたし、まあ、それならそれで面白い。楽しませてくれるならその異世界とやらにいても構わない。



「楽しいことは歓迎するわ」

「そうか。それが、同族の人間を追い詰めることでもか?」

「それが楽しいことなら」



一瞬驚いたような反応があったが、陛下は口元をゆがめて、そう、たぶん笑みを浮かべた。



「お前を、俺の嫁にしよう。正妃に内宮管理を与え、女王クイーンとする。女王クイーン、この世界を楽しむとよい」

「ありがたく存じます」



私が女王クイーンということは、ペトラやこの周りの彼らをからかい倒してもよいということだろうか。いや、それどころか、この国、この世界を存分に楽しめということかもしれない。


面白い。


会心の笑みを浮かべて、陛下を見れば、陛下も面白そうに私を見ていた。



「ペトラ、用意はできているな?」

「もちろんです」

「我が女王クイーン、ペトラこと、ペトロネア・ヴルコラクは俺の宰相だ。ペトラ、彼女が女王陛下クイーンだ」

「かしこまりました。我らが女王陛下クイーン、ペトラとお呼びください」



ペトラが陛下の側を離れて、私の眼前に移動してくる。よどみない動作で、片膝をついて、罪人がするように両手首を合わせている。


なるほど、この国の最敬礼がこの仕草のようだ。



「顔を上げなさい。期待しているわ、ペトラ」

「ご期待に添えるよう力を尽くします」



ペトラの伏し目がちな目の下には疲労の証であるクマが見れる。それすらも美しいのうちに入れてしまうその美貌は恐れ入る。

それに、宰相というだけあって、ペトラの感情は全く読み取れなかった。


これは面白い毎日の予感しかしなかった。

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