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2 『奴隷が拾ったもの』




 母の最期の一言は。




   ***



 9年生きて気づき始めたのは、世のなか金が大事だってこと。

 だってそうだろ?


 薬が買えていれば母さんは死ななかったし、俺が借金奴隷に落ちるなんてことはなかった。

 要するに、金のない俺の人生はクソだってことだ。


「起きろ! 奴隷ども!」


 俺たちを閉じ込める檻に、上長が剣鞘を叩きつける。

 金属同士がぶつかり合う不快な音で、目を覚ました。


(あ、ノミ……)


 薄目を開けると、元の色がなんなのかもわからない布の上を虫が飛び跳ねていた。

 いつまでも鳴り続ける不快音に、のそのそと周りの男たちが起き上がる。


 俺も痒い頭をひとしきり掻いてから起き上がった。

 また一日が始まる。

 希望のない一日。






「ふんぬぐぐぐぐぐぐ……!」


 両腕に抱えられるだけ耐魔法レンガを抱え、大工たちに指定された場所まで運んでいく。

 学のない奴隷ができるのは、こういった単純作業だけだ。


 腕が千切れそうなくらい痛いが、サボれば殴られるので黙々と運ぶ。

しかし毎日これだけ働いているというのに、飯は粥とパンだけだからたまったもんじゃない。


——奴隷派遣商人ラガン


 奴隷に落ちてから知った話だが、俺が金を借りた相手は、かなりよくない相手だったようだ。

 有事の際には奴隷という肉壁を、平和な時には労働力をがモットー。

 奴隷商人としては完璧なスローガンだが、人間としてどうかと思う。


(あと、48年と3日……)


 それが、契約魔術で縛られた俺が奴隷から解放される残り期日。

 俺がいま9歳だから、奴隷から解放されるのは57歳という計算になる。


(まだまだだな……本当に)


 汗がレンガに何滴も垂れた。

 左官職人の近くにレンガを下ろす。元の場所へ戻り、またレンガを抱えた。

 頭上を照らす灼熱の陽光に、腹の音も出ないほどの空腹と単純作業。


 気が狂いそうだ。

 だから日にちを数える。一日ずつ確実に減っていく数字を。

 そうでもしなければやってられない。


「おいおい、大丈夫かよフラグ」


「あ……?」


 いつの間にかふらついていたらしい。声を掛けてきたのは、相部屋——というか狭い檻——であるキースだった。

 土嚢を運んでいたキースは、器用に片手を空けて俺が運んでいたレンガをいくつか持ってくれた。


「わ、悪い……」


 商売が失敗して奴隷落ちした30過ぎの男で、目が死んでいるくせに面倒見の良さは損なわれていないという、損な性分のヤツだった。


「ガキが気にすんな」


 キースは肩をすくめて歩いていった。


「くそ……まだ昼前だってのに」


 ふと、振り返る。


 すると運ぶべき耐魔レンガは山積みされていて、唇の間からため息が漏れた。

 これを運び切っても、明日にはまた同じだけ仕事が用意されている。


 母さんが死に、奴隷落ちしてから二年。

 奴隷仲間は山ほどいるが、一年経てば死ぬ奴も多くて顔ぶれはしょっちゅう変わる。


(早く、こんな身分から抜け出さないとな……)


 でなければ、川に捨てられていった奴隷仲間たちと同じ末路をたどることになる。



   ***



 奴隷生活で一番楽しい時間——それは飯時だ。

 工事現場で渡されるパンひとつを握りしめ、正教会が行っている炊き出しに参加する。そうすれば腹を満たすことが出来る。


「……ゼウス神の恵みを」


 スープをもらうときは、精一杯弱者のフリをする。まあ実際底なしの弱者なんだが。

 上目遣いで、唇を少し開いて、『お願い神様~』って面をするのがコツだ。そうすれば、司祭が憐みの目を向けて、気持ちのこもった量のスープをくれる。


 尊厳では腹は膨れないのだから仕方ない。


「~~♪」


 鼻歌を歌いながら、椀に並々注がれたスープを啜る。

 最近は飯に加えてもうひとつ、楽しみな時間が増えた。


 昼休憩の時間に間に合うように、入り組んだ路地を進み目的地へ歩いていく。

 やがて下水道の傍にある石階段まで行くと、ひとりの少女が座っていた。

 美しい金髪が背中まで伸びた、人形のような女の子だ。


「ようルシア。また授業サボったのか?」


「あ、ラグ」


 彼女とは最近知り合った。

 片やボロ雑巾みたいなガキと、片や着飾った品のある少女。


 年は俺より3つ上と言っていたから、12歳。

 間違いなく上流階級出身の女と出会ったときはついに運が尽きたかと思ったが、なんとなくウマが合って仲良くなってしまった。


 貴族ではないというのも良かった。

 五大貴族たちは戯れに人殺しをするから反吐が出るほど嫌いだ。

 ルシアは正教会の人間らしい。

 正教会の人間は好きだ。なんたって飯をくれる。


「残念、今日はサボったんじゃなくて、授業が空いちゃったの」


「へえ、珍しい。いつもは一日中スケジュー……ル? が詰まってるんだろ?」


 母さんが生きていた時に基礎教育は叩き込まれたが、それも途中で終わってしまった。指を回しながら彼女が習っている上等な言葉をマネすると、ルシアが花のように笑った。


「先生がね、街道の途中で検問に引っかかっちゃったらしくて」


「ああ、そういえば旦那が言ってたな。魔物が活発になってて、騎士団が奔走してるとかなんとか」


 旦那、というのは俺のご主人様のこと。

 ずいぶん苛立った様子で、班行動する騎士たちが魔物退治と並行して検問をするせいで、密輸がままならんと愚痴を垂れていた。


「そうそう、最近ランセッタの方で魔人も出たらしくて」


「マジン?」


 ルシアは「んーっと」と顎に指を当てた。


「知恵を持った魔物のこと、かな。すっごい強いんだって。そのときは騎士100人で討伐したみたい」


「ひゃ、100!?」


「すごいよね」


「……それだけいたら、小さな国なら滅ぼせるんじゃないか?」


 騎士とは、五大家の血を僅かでも継いだ兵士のことだ。

 貴族が好き勝手に平民を犯した結果ともいう。


 分けられた血は僅かといえどその力は強大で、ひとりひとりがAランク冒険者以上の力を持つと聞いたことがある。


 ちなみに、魔物の核である魔石を取り込み肉体を強化し、生計を立てる狩人のことを『冒険者』と呼ぶ。こいつらも強い奴らはべらぼうに強いらしい。


 まあつまり、俺のような平民奴隷とは比べようのない化物ということだ。


「…………」


 恵まれた血筋について思惟しているとルシアが端正な顔を歪めていた。


「なに考えてるんだよ。またお前の『使命』ってやつか?」


 指摘すると、ルシアは誤魔化すように笑顔をつくった。

 俺は遠くに目を向けた。


 俺たちのいる帝都ダルダンシアから港町ランセットを超え、海を越えた先のさらにその先。

 そこには、地平線から生えて雲を超え、天を貫きなお頂上を覗かせない白亜の塔があった。



——『救いの塔』。



 曰く、あの塔には真理がある。

 曰く、頂上にはゼウス神がいる。

 曰く、踏破すればどんな願いも叶えられる。


 そんな街談巷説が飛び交う、S級冒険者が最後に挑戦する迷宮。

 ルシアの所属する正教会は、そこに至ることを目的としている。


 その理由とは。


「『ゼウス神に頼んで魔物を消してもらう』なんて、アホらし」


 大昔に消え去った神が塔にいることすら与太話だというのに、この世に数えきれないほどいる魔物を消してもらうなど、酔っ払いでも笑わないだろう。

 俺の言葉に、ルシアは困ったように笑った。


「今の、すっごく怒られちゃうから教会の人には言っちゃダメだよ」


「当然」


 俺は司祭の前では同情されるべき空腹の子どもだ。そんなヘマはしない。


「……私もね、救いの塔の噂話はほとんど信じてないんだけど」


 ルシアは改めて俺の方を向いて、「これは内緒ね」と唇に指をつけた。


「救いの塔には、本当にゼウス神がいるらしいの。実際に見た人からそう聞いた」


「…………うっそだぁ」


「フフ……私もその人に同じことを言ったわ」


 だって、ゼウス神といえば、染みったらしい平民から『神』と呼ばれている貴族とは違う。

太古の時代、争いに満ちていたらしい世界を平定したと言われる本物の神だ。


 俺からしたら、母さんから叩き込まれた本の中の存在でしかない。


「ラグ。私はね、可能性の話でもいいから、ゼウス神に会ってみたいの」


 ルシアは微笑んで話を続けた。


「『最初の偉大な冒険家』に会う冒険をするなんて、とっても素敵じゃない? それに平和がセットでついてくるなら尚更よ」


「……お前ってやつは」


 俺がルシアと仲良くなったのは、俺から声を掛けたからだった。

 石階段で座ってる金持ちのガキがいたから回れ右して逃げようとしたら、グスグス泣いていたから、気になってしまった。


 奴隷より良い身分で何を泣くことがあるのか。

 からかい半分で声をかけたら、その少女の心根は俺よりずっと強かった。


 金持ちが暮らす一番街での工事のときにルシアを見たことがある。

 目ん玉飛び出るほどデカイ屋敷の庭で、模擬剣を持った大人を相手にして、何度も叩きのめされていた。


 そしてたまにここにいるかと思えば、青あざを化粧で隠して笑っている。

 俺が母さんにしこたま殴られて教育されてたのとはワケが違う。

 彼女は強くあろうとする人間なのだ。


「まあ、その、なんだ。頑張れよ、俺は応援するから」


 金持ちは皆、何不自由なく幸せに暮らしていると思っていた。

 しかしこの少女は、抑圧された環境の中で目標を持ち生きている。


 俺とは違う。光がある。

 歯切れの悪い俺に向かって、ルシアが両手を握った。


「何言ってるの。ラグも一緒に冒険者になるんでしょ?」


「あ、ああ」


「ふたりでパーティをつくって、S級冒険者になって救いの塔の挑戦許可証を貰わなくちゃ」


「そうだった、そうだった」


 シュッシュ、と仮想敵に向けてパンチを繰り出しているルシアに、今度は俺が笑顔をつくった。


「あ、もう時間だ。俺は仕事に戻るよ。遅れたらぶん殴られちまう」


「じゃあ、私も帰ろっかな。お仕事頑張ってね、ラグ」


「ルシアも勉強サボんなよ」


「サボってませーん」


 そんな、笑みを交換するやり取りを最後にしてその場を離れた。

 小走りはやがて、遅々とした歩きへと変わった。


「……はぁ、なんで嘘ついちまったんだろ」


『あと1年もすれば奴隷ではなくなる』


 出会った際、そんな虚勢を張った当時の自分を殴りたくなったがもう遅い。


(だって、初めての友達だったから)


 対等でありたかった。

 不相応な願いを抱いてしまった。


(まあ、いいさ)


 彼女が目標に向かって進むのなら、自分のような卑賎な人間はすぐ忘れるに違いない。

 そしていずれ夢果たすとき、俺の願いも一緒に持っていってもらおう。


 その時にはもう、生きてはいないだろうから。

 お決まりの文句を小さく祈った。


(あと、48年と3日)



   ***



 仕事も終わり、就寝の時間。

 皆が寝静まり明日の仕事へと備える中、俺は気が気ではないほど興奮していた。


 手が、震えている。

 心臓が叫んでいる。

 必死に、片手で逆手を押さえたが、まったく収まらない。


 何度も深呼吸をして、声の震えだけは隠すよう努め、同室の男へと声を掛ける。


「……なあ、キース」


「んあ? なんだよ」


「俺たちが真っ当に奴隷から抜け出すためにはどうすればいいと思う?」


 キースは寝返りを打って、壁を向いた。


「真っ当? そりゃ借りた金を旦那に返すしかないだろう」


 それが冗談であることは、奴隷ならば誰でもわかる。

 俺たちは蟻のようにあくせく働き、子どもの小遣いのような額を持って返済を続けている身だ。


「どうしたらそんな大金稼げるかな。……例えば、『聖遺物』ひとつでもあれば、返せるか?」


「……ま、モノにもよるが」


「返せるのかよ?」


 聖遺物。迷宮から出土する、人間が使用する魔術とは別物の『魔法』が籠められたアイテムだ。

 その姿は時に剣、時に盾、時に変哲のない布きれだったりと、多岐に渡る。


 姿と同じく効果も多種多様だが、その最大の利点は誰でも使える、という点にある。

 たとえば、魔剣と呼ばれる剣の聖遺物を凡夫が一振りしたとして、それだけで最強の代名詞である貴族でさえ殺しかねないと聞く。


 キースは首だけこっちを向いて、ため息をついて言った。


「お前を100人買っても釣りがくるよ」



——どくん!



 心音が強くなった。

 寒い地下だというのに、汗が垂れる。


「……悪いこた言わねえ、さっさと寝ちまいな。明日も早いぜフラグ」


「あ、ああ。そうだな」


 返事をすると、キースはすぐにいびきを掻き始めた。

 どこでも一瞬で寝れるという、奴隷には必須の技能だ。もちろん俺も習得している。


 だが俺はまったく眠れそうになかった。

 それは興奮と、頭に響く喧噪によってだった。



『——なんというご主人様でしょう! このワタシを手にして真っ先にすることが、売却の算段だなんて! おお、許せ半身よ! もうすぐ会えるというのに血も涙もない悪魔に拾われた運命を嘆いてくれ! ワタシは常にお前を思っているとも! それもこれも——』



 いつまでも続く甲高い声に、眉をしかめる。

 服の下からナイフの鞘を取り出す。

 これだ。夕べこの鞘を拾ってから、ずっとこの調子なのだ。


『どうかお考え直しをご主人様! ワタシは拾われるべくしてフラグ様に拾われたのです! 運命! そう運命なのです! ですからどうかそのような極悪非道大魔神奇天烈なお考えを——』


(う、うるせぇ——!)


 知恵を持った聖遺物。


 この鞘を手にした瞬間にこの声が聞こえ始めた。間違いない。

 果たしてこの聖遺物を売れば、どれだけの大金が転がり込んでくるのだろう。

 それは、今までの人生の不幸が帳消しになるほどの金のはずだ。

 金、そう。金さえあれば。


『——正しく生きなさい、フラグ』


(……)


 ふと母さんの厳しい顔と口癖を思い出し、いくらか心を落ち着けることができた。


『……今の、お母さまですか?』


(なんだ、お前話ができるのか? ていうか頭の中まで)


『……ええ、ええ。できますとも。やっと見つけたご主人様候補に捨てられたくない一心で狂乱していただけで』


(そのせいで余計に早く手放したくなったよ)


 この声は自分自身にしか聞こえていないようで、拾ってから何でもない風にふるまうのがどれだけ大変だったことか。


(それにしてもご主人様……候補?)


 奴隷の自分がご主人様なんて笑えない話だ。


『ええ、まだ候補です。ワタシの半身を見つけられたとき、フラグ様は名実ともにワタシのご主人様となるのです』


(半身ってなんだ?)


『そりゃまあワタシ、ナイフの鞘ですし。刃ですよ。すぐ近くにありますよ~。センサーがビンビン働いております!』


 アホらしい。こんな物の主人になって何を得るというのだ。

 俺はもっと即物的なのだ。とっとと売り払って金に換えなくては。


(奴隷の俺にもぼったくってこない信用できる商人を探さなくちゃな……)


『さっそくまた皮算用してるー!』


 ナイフの鞘がうるさいが、気にしない。

 俺が自由に動ける時間も限られてる。


 幸い俺はご主人様——あの変態野郎のお気に入りだ。

 甘えるフリでもなんでもして、なんとか時間を確保しなくてはならない。


『……あのですね。一応忠告しておくと、ワタシを売ろうとするなんて商才なさすぎですよ』


 鞘が、これまでとは声のトーンを変えた。


『ワタシの半身を手に入れたとき、フラグ様の世界はひっくり返ります』


「……」


『奴隷という身分から圧倒的な力を持って抜け出して、好きな時に好きな場所へ行き、そのすべてに素晴らしい結果が伴う!』


(下らない。俺はいつかの力じゃなくて今すぐに金が欲しいんだ)


『ああ、これだから学のないニンゲンは。今のとても愚かな発言ですよ』


(死ね)


 ギャーギャーと騒ぎ立てる鞘を尻目に、すこし静かになったおかげか眠気がやってきた。

当然だ。重労働でとっくに体力はゼロなのだから。


『しかしまあ、フラグ様の記憶を覗いてみましたが、なんとも酷い人生ですねぇ』


(うるせぇ、ほっとけ)


『人間がまだ奴隷制から抜け出せていないのも愚かですねぇ。ワタシ、こんな惨めな思いをするならいっそ命を絶ってしまうやもしれません』


(はっ、ナイフにそんな感情があるのか?)


 笑ってしまいそうになったのは、鞘に向けてではなく自身への嘲笑だった。

 自殺。何度も考えたよ。


 奴隷に落ちた初日、ご主人様に体を撫でまわされた時や重労働の日々。

 ノミが横切る朝を迎えた時。ルシアに嘘を吐いた時。

 惨めだ。惨めな人生だ。


 これではいったい何のために生まれてきたというんだ。

 何が一番酷いのか——それは俺が悪人ではないということだ。母さんも良い人だった。悪いことなど誓ってしたことがない。


 ただ、運がなかっただけ。それだけなんだ。

 死んでしまえば、どれほど楽か……。

 そしてその度に思いとどまる。


(母さんの最期の言葉が、そうさせてくれないだけだ)


『ああ、なるほど。この記憶ですか』


(勝手に見るなよな……)


 そう、まるで呪いのような一言だった。

 たった一言が、鮮烈に記憶に刻まれている。


『まだまだ見えますよ。ワタシはそういうモノですから』


(プライバシーもあったもんじゃねえ……)


 とっとと売ってやろうと、眠気眼になりながら心に決める。


『ああ、そういえば言っておかなくてはなりませんでした』


 鞘が思い出したように言った。

 息が等間隔になり、頭がぼんやりとしていく。

 こうなればもう、あとすこしで朝がやってくる。


『フラグ様がワタシを拾ったのだと考えているのでしょうが、それは逆ですよ。ワタシがフラグ様を選んだのです』


 ああそうだ。数字をひとつ、減らさなくてはいけない。

 その行為だけが俺を正気に保ってくれる。


『ワタシには『人間の欲』が見えるのです。フラグ様の欲はそれはそれはもう……。祈りや願い、そんな凡百の規模とは比べられない大願があります』


 いつまでも喋り続ける鞘には悪いが、もう何も聞こえていない。



『貴方様には、底なしの欲望があるのです』



(そういえば、もうひとつだけ、死ねない理由が……あった、な……)


 死ねない理由。

 それは、夢を見ずにはいられなかったからだ。

 好きなように生きたかった。



 ナイフの鞘が笑った気が、した。





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