1 『プロローグ』
「あれは——聖女だ!」
誰かが叫んだ。
帝都の街中に突如として現れた強力な魔物——どころではない。知能の芽生えた魔人と呼ぶべき存在。その脅威は、軍を動員させねば討伐出来ないとされている。
魔人は街を壊し、街を燃やし、人を殺した。
騎士団の対応を待たない迅雷の如き破壊。
無辜の民は更なる殺戮にさらされる……と思われた。
とある少女がひとり、その暴虐に立ち向かったのだ。
まだ幾ばくかの正気を保った民は、逃げる足を止め叫ぶ。
よせ、やめろ、と。
そして聞く耳持たぬ少女を見て、背を向けた。
馬鹿なことを、と。
数人の祈り叶わず、魔人が少女へと近づいていく。
そして魔人の血にまみれた鋭利な爪が少女を貫かんとした瞬間——少女の手元が輝いた。
太陽がその場に顕現したかのような発光に、民衆が閉じた目を開いた時には、すべてが終わっていた。
——魔人が死んでいた。
首が両断され、胸部には内から爆発したような傷跡。その傍には、息を切らした少女。
少女の手には、数舜前までなかった神々しく光を放つ長剣が握られていた。
多くの民は戸惑っていたが、幾人かが少女の名を呟く。
「あの美しい金髪、オルシアンだ……」
「ゼウス家の筆頭候補」
「正教会の聖女!」
そして冒頭へと戻り、民の叫びは波紋のように広がり熱狂へ。
齢12の聖女が、軍を持って打倒する魔人を単身にて討伐した。
なんと美しい娘。祝福の子。奇跡の乙女。
ありとあらゆる賛美が叫ばれる中、人混みから少し離れた、魔人によって倒壊させられた建物の影に、少年はいた。
その視線は、聖女へと縛り付けられていた。
「なんで、お前ばっかり……」
少年の足元には、今しがた聖女の攻撃によって飛ばされた、魔人の心臓があった。
少年は、心臓へと目を落とす。
ある邪悪な考えが、浮かんだ。