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ペンギンカジノ

作者: 瓶覗

 手元には五枚のトランプがある。

 左からクラブの十、クラブの十二、ダイヤの七、スペードの九、ハートの八。

 この卓はポーカーなので何枚か変えないといけない。

 一緒にやっている人たちはどんな様子か、と右側を窺うと五枚のカードを器用に持ったペンギンが。左側を窺うとカードを落としかけているペンギンがいた。

 ちなみに正面にはディーラーであるペンギンがきりっとした顔でこっちを見ている。


 ……建物の中を見渡しても、そこにはペンギンしかいない。

 人間は俺だけ。でも何故ここに居るのかは分からないし、何故ペンギンとポーカーをしているのかも分からない。

 とりあえず分かったことと言えばこの建物はペンギン用に作られているから家具が小さくて足が邪魔、ということくらいだ。

 姪っ子とおままごとをした時のことを思い出す。あの時も足が邪魔だなーと思ったんだった。


 なんてぼんやり回想してみたけれど、目の前のペンギンたちはそのままだ。

 右のペンギンも左のペンギンもカードを変えるかどうか考えているようで、俺ものんびり考えていいらしい。

 なのでもう少し建物の中を見渡してみることにした。

 俺のいる卓以外にもテーブルゲームに興じているペンギンたちが何組か居て、その他に建物の中を歩いているペンギンもいる。

 中にはうさ耳を付けたペンギンなんて変わり種も……

 ん?うさ耳?


「あ、あれバニーガールか!」


 気付いてしまった。つまりあれメスのペンギンなのか。

 そして気付いた勢いでカードを三枚交換していたことに今気が付いた。

 何を変えて何を残したのも覚えていないが、とりあえず新たに渡された三枚をぺらりと捲る。

 ……お?これ中々すごい運の使い方したんじゃないか?

 こっちはオーケーだぜ、とディーラーなペンギンを見ると、キリリとした表情で左右のペンギンにも確認を取り始めた。

 あ、ディーラーしてるペンギンはネクタイ付けてるのな。似合う。

 なんて考えている間に確認は終わったらしく、ディーラーの合図に合わせて手札を開示する。


「じゃーん!ストレートフラッシュ!」


 まさかの奇跡を起こしたので、これは俺の勝ちだろう。

 そう思ってノリノリでカードを開示したらペンギンたちが驚いたようにカードを覗き込む。

 そしてペチペチと手……翼?手羽先を叩いて祝福してくれた。


「ああ、どうもどうも」


 へへへ、と照れ笑いしつつ拍手に応えていたら他のテーブルのペンギンや通りがかったペンギン、そしてバニーガールペンギンまでもが拍手で称えてくれた。

 なんだろうこれ、すごく嬉しい。

 前にもこんな感覚に陥ったような、と思い返すとあれはそう、親戚が集まる正月の席で暇を持て余した子供たち相手にやり方を教えて一緒に遊び、ちょっといい手が出来ると全力で尊敬してくれていたあの日の感覚に近い。

 そんな称賛の嵐が少し落ち着いた時、後ろから背中のあたりをペチペチと叩かれた。

 何かと思って振り返ると、一匹のペンギンがこちらをじっと見ている。

 こっちをみて何か必死に語りかけてくるペンギンの言うことは全く分からない。分からないけれど、俺に何かを伝えようとしている事だけは分かった。


「うん!そっか!」


 なので適当に返事をした。

 するとペンギンは嬉しそうにその場でちょっと跳ねて、ついで俺を誘導するかのように歩き出す。

 ついて行くべきな気がするので椅子から立ち上がってペンギンの後を追い、ついて来ているか確認するように振り返るペンギンと最終的には何故か手を繋いで中腰で進むことになった。

 なんでこうなったんだろう。腰が痛い。

 でもまあ、ペンギンと手を繋いで歩けるとか早々ない経験だしな。

 なんて考えていたら、ペンギンの速度がちょっと上がった。そろそろ目的地なのだろうか、と顔を上げると、目を開けていられないほどの光に包まれる。


「うわ、まぶしっ……」


 思わず上げた声に返事をするようにペンギンが鳴いたけれど、もう姿は見えない。

 そのまま光に飲み込まれて、平衡感覚も失って、気が付けば真っ白な雪の上に倒れ込んでいた。

 右を見ても左を見ても、もうどこにもペンギンはいない。


「あ!おい、大丈夫か!?」

「こっちに居たぞー!」

「……ペンギン」

「は?」

「ペンギンと、カードゲームしたんだ」


 いつの間にかはぐれていたらしい俺を見つけて駆け寄ってきた仲間たちに、さっきまでいた場所のことを話す。

 全員が「こいつ大丈夫かな?」という顔をしてるけどとりあえず無視だ。


「俺、めっちゃ勝ったんだよ」

「お前もうちょっと黙ってろ?運んでやるから」

「バニーガールなペンギンもいた」

「落ち着け落ち着け」

「皆めっちゃ拍手してくれた」

「おい誰か担架ー!」


 誰か一人くらい話聞いてくれても良くない?

 信じられないような話をしている自覚はあるけれど、でもあれがただの夢だったとも思えない。

 なにせ繋いだ手の感触が何となく残っていたりするわけだし。

 でもまあ、仲間には信じてもらえなかったし、南極でうっかりはぐれかけて幻覚でも見たんだろうと言われてしまった。

 それを否定も出来ないけれど、あの日以来俺がペンギンに懐かれるようになったのもまた事実。


「お、おい!なんかすごい量の魚が積みあがってんだけどあれなに!?」

「……あ!俺の取り分!」

「はぁ!?」


 ストレートフラッシュで買ったから結構な勝ちだとは思っていたけれど、本当にすごい量だった。

 仲間たちがマジかよ……的な目を向けて来ているけれどまあいいや。

 あのカジノのチップは魚型だったから、どのくらい魚を届けるつもりなのかは何となく分かる。

 これからしばらくは魚の処理に追われることになるだろう。

 楽しいから、俺は良いんだけどね。

ペンギンの鳴き声が分からなかったので調べたけどやっぱり分かりませんでした。

ところでペンギンカジノってなんなんだろう。

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