とある一日
「ねえ、アル」
「ん?どした?」
「私たち、ずっと一緒だよね。」
「ああ、もちろんだ。」
「ありがとう、だいすきだよ。」
「ああ、俺も大好きだ。」
世界の崩壊が始まり、もう46年の月日がたった。
世界一と評された豪邸も今となっては、魔物の巣窟と化している。
世界からは光が消え、何もかもが失われた。
世界中に広がったウイルスにより、大人のほとんどは亡くなり、社会は衰退した。
ウイルスに耐性のあるものもいたが、火星への移住や、魔物による殺傷でいなくなってしまった。子供だけとなった世界は、アンダー18と呼ばれ、滅びた星の名前として記録された。
しかし、滅びたとされる星のなかでも子供たちは生き抜いた。
子供ならではの発想力と発達力を生かし、魔物から生き延びる方法を導き出した。
18歳以上になると発病し、3日で死に至るとされる病への薬を20年もの月日をかけて導き出した。
人類では対抗不可能と大人さえ投げ出した魔物にも勇敢に立ち向かい、15年の月日をかけて魔物への対抗策を考えた。
急激な人口減少により、なくなってしまった人類の経済という文化も子供なりに考えて復興させた。
時間という概念すら、廃れてしまった世界に時計を生み出した。
そんな世界で、私たちは今日も生きている。
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「おい、アル。今日の討伐は終わったかー?」
「いや、まだ。二体しかしてない。」
塀の点検をしながら俺は答える。
「おおー!じゃあ、今日は4時からいこーぜ。」
「そんな夕時に行ってはだめだろ。」
「えー、アルはまじめだな。」
この世界には大きなルールがある。
1.夕時には帝国に帰る。
2.塀の点検を毎日必ず変わりばんに行う。
3.毎日、10の魔物をかる。
この三つを鉄則としてこの村はなっている。
俺はそんな大事なルールを侵しかねない選択をするエリックを咎めた。
エリックは特に機嫌を悪くするわけでもなく、いつもの一言を添えて答えた。
「2時だ。いいな?」
「いつもの時間ね、わかったわかった。」
今の時刻は11時。点検が12時には終わると考えると十分に間に合う。
エリックは適当な返事を残しながら、自分の仕事へと戻っていった。
俺も塀に崩れているところはないか、魔物が侵入した形跡がないかなど真剣にチェックする。
塀の点検をしながら、俺は思う。
「こんなもので大丈夫なのか」
最近、魔物の襲撃は見られないが前回の襲撃の時はひどい結果となった。
村の半分は焼け落ち、様々な人が亡くなった。
近くに住んでいた子供も、よく話していた友人も、村をしきっていた村長も、よく挨拶をしてくれた衛兵のみんなも、、。そのため、この塀では足りないと思うのだ。
もっと塀を高くし、大きな堀を作り、強固な門を構え、屈強な兵士を門に立たせる。
これくらいしないとこの世界では村一つ守ることはできないと思うのだ。
この世界で魔物と言われる者たちはさまざまな種類がある。
獣型と言われる一般的な魔物。大型と言われる巨大な魔物。
人型と呼ばれる危険な魔物。
たしかに魔物を狩ることはこの世界の住民にならだれでもできる。この村の決まりである魔物の10討伐のおかげで、小さいころから魔物に対する武器の使い方と、魔物の行動パターン、種類はほとんどわかる。
しかし、それが大量に発生するとどうなるか。
一体ではなんともないがたくさん集まると厄介な魔物、出現しただけで大きな損害が出る大型。
こんな魔物に対応しながら、いつもの魔物と同じように相手することなどできない。
だから、もっと強固な守りが必要だと、俺は思う。
「おい、アルー。交代の時間だぞ 」
「わかった。」
そんなこんなしていたらどうやら交代の時間になったらしい。
報告を済ませ、次の人に代わる。今日も2時から魔物の討伐があるので急いで昼食をとる。
装備を整え、待ち合わせの場所である門に向かうとエリックともう一人見慣れない人がたっていた。
「おせえよ!何分待ったと思ってんだ!いっつも人を待たせやがって!
ルールには細かいくせになんで時間には細かくないんだよ!」
「すまんすまん、というか遅れてない気がするんだが」
「集合とは5分前にすべきもんだろうが、よーく覚えとけよ!」
「はいはい」
時間には遅れてないはずなのだがなぜか叱られてしまった。エリックはいつも約束の時間の少し前には着て俺を待っている。そして、時間ぴったりに来るとなぜか怒る。
いつも通りの会話をしつつ、気になったことを尋ねる。
「ところで、その人は?」
「おお。よくぞ聞いてくれた!この美しい女性はな、ここの衛兵さんとこの娘さんで村一の剣術使いでもあるローナだ。最近は剣姫とも言われたりするほどの女性だ!!覚えとけよ!」
「やめてよ、エリック。恥ずかしいでしょ。」
恥ずかしがってはいるがエリックの言うことが確かであることはすぐに分かった。
使っている剣もかなり使い込まれている事が分かるし、身のこなしもとても様になっている。
自分も剣をよく使うので参考にしたいほどだ。
「アルバートだ。アルでいい。よろしく。」
「ローナよ。エリックの表現は大げさだから気にしないでね。でも、剣の腕なら少しは自信があるわ。今日はよろしくね」
「今日は、ってことは今日は3人でいくのか。」
「そうだぞ、あれ?いってなかったけ?」
「ああ、聞いてない。」
「なんか、ごめんなさいね。急に入ってしまって。」
「いや、説明してないこいつが悪い。」
「いやあ、すまないねえ。」
ほんとに迷惑な話だ。ローナも困っている。
エリックのことだからどうせ何も決めていないのだろうなと思いつつも、エリックに作戦を聞いてみる。
「エリック、作戦とかは決めてあるのか?」
「んにゃ、んなもん着いてから決めりゃいいっしょ。」
「そんな曖昧でいいんですかね、、。」
「ほんとにだ。まあパーティーも3人だしな
あいつを遊撃にしてローナは剣だから前衛、俺は弓でも担いで探索と後方支援をすればいいだろ。」
「助かります。それじゃあ、出発しますか。」
「おう!」
「相変わらずエリックは元気ですね」
「まったくだ。」
「まあ、それが俺のとりえだからな!」
そんなこんなで俺たち三人のパーティーが出来上がった。
エリックも一応、戦闘においては秀でた才能を持つ。そういう意味ではこのパーティーはバランスの取れたパーティーと言えるだろう。それぞれのポジションと装備を確認し、俺たちは狩場へと向かった。