1/12
序章 雨
雨が降っている。
目を覚ました時、まずその事に気が付いた。
寒い。
濡れた身体はとうの前に冷え切っていたらしい。
震えながら、薄目を開けて、辺りを見渡す。
自分の身体を見ると、ずぶ濡れの革のコートにまかれている。
どうも、自分は誰かに背負われているらしい。
視点がいつもよりずっと高い。
自分を背負っている誰かは、汚れた白い鎧を着ている。
鎧は硬く鎖状で、動くたびに胸に擦れて少し痛い。
腰には、ランタンがぶら下がっている。
風に揺れ、揺らめく炎は、この雨の中では、頼りなく、だが他に術もなく、周囲を仄かに照らしている。
微かに、土砂降りの雨ですっかり増水した田んぼや水びだしになった畑が見える。
どこからかごうごうと竜の叫び声の様な大量の水の流れる音が、ひっきりなしに聞こえた。
「ねえ」
誰かに呼びかけると、
「……目を覚ましたか」
一言言葉を発した。
「ここどこ? みんなは?」
答えは返ってこない。
「何処に、向かってるの?」
「それは──」
ゆっくりと、けれどもはっきりとした口調で。
返事が返ってきた。
「──“竜の剣”だ」