ひとり旅 1
親の都合で離れた街へと赴く。
親友のピンチに駆け付けてみたものの、
私は所詮一五歳の非力な子供だということが証明されただけだった。
金曜日の午後三時半の駅前に行ってみると、テスト期間が終わった連中がウロウロしていた。
中学三年といえば受験生だ。毎回のテスト結果によっては気分が乱高下して当たり前。最終日の今日だけは全てを忘れて遊ぶ奴も多い。人生は長いのだ。少し位はめを外しても良いと私は思う。つるめるうちはつるめばいい。どうせ大人になれば誰もが一人旅をする運命なんだから。
そんな当て所なく徘徊している連中の中に、原西陵平の姿を見つけた。
こちらが気付く前に奴が先に気付いて、すぐ近くまで寄って来ていた。この私がそんなことに気付かないなんてらしくないと、自分でも驚いてしまう。
「よ。なんで居んの?」
ニタついた笑顔に私は悪寒を覚えた。
「いや。べつに。おまえに説明する義理なんかない」
「つんつんしてる~。ゾクゾクきたぁ~~」
と、陵平がいつもの調子でおどけていると、それを見ていた別の男が二人寄ってきた。
「よぉ。楽しそうだね。お前らデキてんの?」
個人的に口も利きたくないと思うような、ちょっとおかしな連中だ。髪型が奇抜なカタチにセットして、原色のバスケットシューズなんかを履いて格好つけている。制服という誰もが否応無くお揃いの格好をしているところに個性を彩りたい気持ちがよく現れているな、と関心する。
「やめろよ。そういうの嫌いなんだから、この子」
陵平が連れを抑えようとして真顔になった。こいつはこういう顔も出来るのか、とちょっと驚いた。
「あんま社交的じゃないからさ。お前ら、頼むからあっち行っててよ」
トーンダウンした静かな物言いだ。陵平にそう言われると連中は悪ノリという暴れん棒を鞘に納めて、遠ざかって行った。
「悪ぃ。あいつらも結構な構ってちゃんなんだよ。許してあげて」
「別に気にもしてないけど」
「あ、そう。なら良いや。で? ……どっか行くの?」
「まぁ、ちょっとね」
「なに?言いたくない系?」
「そんなわけじゃないけど」
「教えてよ」
「なんで?」
「気になるんだもん。なんか緊張感漲ってるし……ただ事じゃないみたいな気迫感じるんだけど」
「………」
「俺さ。バカっぽく見てるかもしれないけど、バカじゃないからさ。俺で役に立つことがあるなら、なんでも力になるから遠慮なく言ってくれよ」
陵平が珍しく真剣な顔でそんなことを言うので、こちらも調子が狂う。こいつが役に立つことはわかっている。でも、これから行くところに連れていくのも気が引けた。
「ありがとう。気持ちだけ貰っとく。取りあえず、今はまだどうなるかよくわからないから……。もしかすると助けてもらうことになるかもしれない。その時は電話しても良い?」
「良いよ」
そう言うと、陵平と私はお互いの携帯番号を初めて交換した。
「なにかあればすぐに連絡しろよ」
陵平は拳を握って捲り上げた腕を見せつけて去って行った。あいつはやっぱり私のことが好きなのだろう。たぶん間違いない。