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ダークサイド 真実は闇の中  作者: 森 彗子
第6章
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初陣 1

サブタイトルを「戦闘」から「初陣」に変更しました。



 ペットボトルの水を清水せいすいにするのに一分かかる。やり方は簡単かつ難しい。と言うのは、誰にでも出来ないからだ。


 自動販売機で二本の水を買ったものに、先ほど急ごしらえした光の剣をイメージし、それをペットボトルに突き刺し、水に対して光を放つ。手応えはあるし、光を吸収した水は確かに怪しく輝き始めた。


「これ、どう見える?」


 陵平は半信半疑の様子でペットボトルを顔まで持ち上げると、繁々と眺めてから「変化がわからん」と首を傾げた。バトンのように瀬良さんに手渡されたペットボトル内の水は、揺れると金粉を孕んでいるようにキラキラと輝いた。にも関わらず、「私もわからないわ」とのことだ。


 見えない人にはわからない。わかっていながら、やはり寂しい気持ちになる。


「清水は悪魔を弱らせるから、護身用に一人一本装備しろ。奴らがもしもとり憑くとしたら口から入るから、私が合図したら口に含むこと」


「はい、わかりました」


 一緒に行くと言って引き下がらない二人に、一応程度の知識で悪魔祓いの現場を説明した。とはいえ、私だってへなちくりんな霊を祓った経験しかない。悪霊化する前の女性の霊だった。


 私が霊媒体質だからと、ビョンデットは清水を口に含むように指図してくれて、波長が似ている別の女性に憑き纏う女を退散させた。


「話せばわかるなんて相手じゃないからな。大体のヤツは執着してる事柄しか頭にないから、会話にならないんだよ。人違いでも似ていれば勘違いして怨みをぶつける輩もいるし。何せねちっこい」


「ずっと聞きたかったんだけどさ、そんな危険な霊を祓って報酬は貰ってんの?」


 金の話がでるのは仕方ないことだ。私は予め用意した答えを披露した。


「ケースバイケースだよ。金に困ってる人にはボランティア。金持ちなら心付け」


「今まで一番稼いだのって、いくら?」


「まだ稼いだことないから」


 私の答えが意外過ぎたとでも言いたげに、陵平の表情は歪んだ。


「ちょっとタンマ。

さっきから聞けば聞くほど、なんか頼りないっていうか……」


 ファミレスを出てまだ病院の駐車場に戻ってきたばかりの場所で、いつまでも油を売っているわけにはいかない。本来なら、もっと明るい時間にやりたかったが、長々と待たされたわりに美貴には直接会えない病院で時間が取られ過ぎたんだ。つべこべ言わず、今すぐ佐伯宅に向かいたいのに、陵平に足を引っ張るような真似ばかりされている気がしてきた。


「じゃあ、聞かなきゃいいだろ?! っていうか、見習い期間中は無報酬でやるのが私のやり方なんだよ! 文句あんのか?」


 ビョンデットの助けがないことで、妙に気が高ぶっていた。こんなんじゃ、まるでバカ丸出しのチンピラじゃないか、と頭のどこかでは冷静な気持ちで己の醜態を見つめている。


「もう七時過ぎてるし、早く済ませて帰りの汽車に乗らなくちゃね」


 女刑事瀬良さんは腕時計を見て、バッグを肩にひっかけて「車はこっちよ」と歩き出した。


「どれぐらいあれば終わるの?」


 凝りもなくまた質問され、私は露骨に大きなため息を吐いた。


「なんでそんなにイラついてんの? 危険だって言ったのはお前だろ? 備えはある方が良いに決まってんの! こっちが黙ってたらお前言うのかよ? 自分からべらべら喋るキャラじゃないから、俺が聞いてやってんじゃねーかよ!」


「そんなに怖いなら駅前のファーストフードで飯でも食ってろ!!」


「お前、俺を見くびんなよ??! 俺は自分の身可愛さで言ってんじゃねぇぞ! もしもの時に俺でもお前を助けられることがあれば、それに越したことないだろ?


そんな余裕のない態度で、こっちを不安にさせてる自覚もねぇのか?

あかつき まどか はそんなに切れやすい奴じゃねぇって思ってたけど、俺の勘違いだったのか?」


 ―――くそっ! 痛いところを突かれた。


 余裕のない態度、確かに。情けないが言い当てられて何も言い返せない……。


「……本当は一人で行くべきだって思ってんだ。だけど……」


 だけど陵平の言うように、もしもの時に助け合えるのなら。

 独りで戦うよりもずっと心強いから……。


 ビョンデットが居ないことが、本当に心細い。


 でも、本来ならビョンデットに頼ってばかりじゃいつまで経っても一人前にはなれない。いつかは一人で全てが出来るようにならなくちゃいけない。


 本来、頼ってはいけない素人二人を連れていくことに、今更ながら抵抗感が出てきているのも事実だ。悪魔は癒えていない傷を抱える人間に獲り憑いて、全てを悪い方へと導いていく。陵平も瀬良さんも悪魔にとって都合のいい人間じゃないとは言い切れない。


 強い悪魔なら一時的にその人に獲り憑いて操ることもできると聞くし、そんな風に人質に取られたらと思うと、もう二人とも置いていくのが一番正しい判断にしか思えなかった。


「やっぱり、一人で行く。リスクが高すぎる」


「はぁ?! なんでそうなるんだよ?」


 陵平がいきなり私の服を引っ掴んで引っ張り上げた。

 すごい力で持ち上げられ、体が勝手に反応して陵平の首に手刀を当ててしまった。急所を突かれ、私を放したと同時にコンクリートに転げ落ちる陵平の顔は痛みとショックで怯えていた。


「ごめん! お前が急に乱暴するから……」


 差し出した手を睨んで、その手を取らずに陵平が無言のまま立ち上がった。


「……強いじゃん。俺の出る幕じゃねぇってか……」


 拗ねたような態度で下を向かれ、どう声を掛けて良いかよくわからなくなる。


「じゃあ、こうしましょう。私と陵平君は外で待機するわ。三十分経ってもあなたが出て来なかったら、助けに入る。それで良い?」


「……じゃあ、それでお願いします」


「………」


 陵平は完全にそっぽ向いてしまった。




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