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ダークサイド 真実は闇の中  作者: 森 彗子
第4章
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心霊探求 3

 気付くと夜が明けいた。少しはウトウトしていたみたいだけど、全然寝た気がしない。体を起こしてみるけれど、酷い疲労感だった。


 ―――今日は学校休みたい。


 そう思ってまたベッドに潜り込んだ。


 ふと気付けば身支度を整えて化粧臭いお母さんが部屋に入ってきていた。私の顔色を見て「寝てなさい」と言い残すと、いつものようにどこかに出掛けて行った。半覚醒状態の私は時間間隔も失って、夢とも現ともつかないふわふわとした状態の中をしばらく漂っていた。


 遠くで何か懐かしい音がする。

 急激に意識が戻ってきて、その音が何なのか解ると勝手に体が反応した。


 私は跳ね上がるようにベッドを出て部屋を飛び出した。どたばたと階段を降りてインターホンを押すと、カメラの前に佇む人物を見て妙な高揚を覚えた。


 「よ。元気?」


 陵平だった。今まで何度か家を訪ねてくれたことはあっても、家に上げたことはない。一見すると不良少年の彼を信じていなかったせいだ。でも、今は違う。どういうわけか、私はそのまま玄関に向かってドアを開け彼を迎え入れてしまった。


 陵平は落ち着かない様子で入ってくると、私を上から下まで眺めながら驚いている。


「お前、そんな恰好でよく……」


 私は廊下の壁の大きな鏡に映った自分を初めて見て飛び上がった。


「わーーーー」と叫びながら、ドタバタと部屋に戻って慌ててシャツを着た。


 ―――ブラとパジャマのズボンというほぼ半裸の姿で男子の前に出るとかありえないだろ!私は変態か!


 どんな顔してアイツの前に行けば……。オロオロしているところに、陵平が静かな足音でやってくると、ドア越しに優しく声をかけてきた。


「全部忘れたから」


 ―――そう言われても。


「誰にも言わないし」


 ―――当たり前だ。


「昨日、駅前で見た時より顔色悪いみたいだけど大丈夫なのか?俺はどっちかっていうとそっちの方が気になっているんだけど」


 そう言われて、私はやっと落ち着いて答えられた。


「大丈夫。ただ、疲れてるだけだから」


 私はドアを開け、渋々と陵平を部屋に招き入れた。

 気まずい空気もなぜだか陵介にかかると、どこ吹く風にように思える。それぐらい彼は自然体で「お邪魔します」と言って入ってきた。他人がこの部屋にいるなんて、初めてのことだ。見慣れない光景と、あり得ないシチュエーションに寝ぼけていた頭に血が集まってくる。


 ―――あれ。なんで、こうなったんだっけ?


「お互い受験生だけどさ」と、ベッド脇に座った陵平が切り出した。


「お前に万が一のことがあってからじゃ遅いから、手短に言うよ」


 学校では決して見せない真面目な顔をして、私をジッと見つめてくる。その視線からも陵平が何を言わんとしているのか察してしまった。


「俺、お前のことが、す………」


 そこまでで既に顔が真っ赤に染まっていて、もう耐えられそうにない。不謹慎だと知りながら、私は思わず噴き出した。


「な、なんで笑うんだよ?」


「耳や首まで赤くなるって本当だったんだな」と、つい揶揄うように言ってしまったのは照れ隠しだ。


 陵平は歯を食いしばって、恨めしそうな目で私が笑っている顔を睨みつけている。


「ごめん、ごめん。聞く前から顔に書いてあるんだもん。面白くて、つい……」


 ゴホゴホとわざとらしい咳ばらいをして、笑気を飛ばすと改めて陵平と向き合った。


「俺、お前のこと放っておけない。なんでも知っておきたいんだ」


 言い方を変えてきたが、つまり。


「最初に言いかけた方のセリフが聞きたい」


「お前、俺を弄んでるだろ?」


「ははっ。だって、本当に……」


 うっかり、嬉しいとか言いそうになって舌を噛んだ。


 陵平の手が伸びてきて、首を掴まれ強引に引き寄せられたと思ったら、唇同士がくっついた。


「!!!」


 驚いて手を払い、唇を指で擦る。


「……仕返し」と、意地悪い笑みを浮かべた陵平に一本取られてしまった。


「私の気持ちを知らない癖に!」と文句を言うと、「知ってるし」と反論され。


「俺のことが嫌いなら、部屋まで入れないだろ?」と。


 ―――迂闊だった。でも、ま。いいや。


「そういえば、さっきお前。私に何かあってからじゃ遅いとか言ってなかった?」


 自分の部屋なのに居心地の悪さを誤魔化すため、私はウロウロする羽目になった。ベッドに座ったままの陵平が立ち上がって、目線が上に上がる。 


「俺、変な夢見たんだよ。お前が危ない目に遭って、どうにかなっちゃう悪夢。

危ない連中に連れて行かれて拷問を受けるみたいな……」 


「悪夢ねぇ」と、私はつぶやいた。


「お前が普通じゃないってことは知ってるけど、殆ど何も知らない。だから、教えてくれ。俺に手伝えることがあるなら力になりたいんだ」


 必死のお願いみたく、私の両腕をがっしりと掴んでくる。熱っぽい手から陵平の熱い気持ちが流れ込んでくるようで私は戸惑いを隠せなかった。男の力がこんなにも強いことを今初めて知った。


「ちょっと、落ち着こう。腕を離せよ、ばか」


「嫌だ、離さない!」


「言う事聞かない奴はこうだ!」


 私は陵平の顎にアッパーを食らわせた。


「ひどい!!」


 涙目になった奴に非難されようとも、私は首を横に振る。一般人がこちら側に来るのは易々と認められない。悪質な霊との接触は健全な精神に悪影響しか与えないからだ。


「手伝って欲しいなんて思わない。危険なんだよ」


「危険なら益々お前を放っておけない!」


 熱血漢みたいなことを言われ、鬱陶しい以上に嬉しいという感情をはっきりと感じていた。

 

「お前が消えてしまうような気がしたんだよ」


 と、再び血走った眼差しを私の両目に注いでくる。

 魂の叫びまで耳に入ってくるような、そんな目だった。


「一人にさせない」


「………」


 何が彼をここまで言わしめているのか、察するには余りある気がする。


 ―――まさか本当に、そんなに私のことが好きなのか?


「お前を、この俺が絶対に守る」


 彼はそう言うと、再びかなり強引に私を抱き締めてきた。私は抵抗せずに、陵平の決意を受け入れつつある自分に戸惑いを感じている。微妙な空気を振り払うように、私は高笑いをした。


「なんだよ、これ」


 そう言いながら、陵平の腕を振りほどいてリビングに降りた。

 陵平は無言で追いかけてくる。


 振り返ると、涙腺から僅かな分泌物が湧いているような目をしていた。捨てられそうになった子犬はきっと、こんな目をして縋って来るのかもしれない。


 私は頭を掻いていた。


 取り合えず、喉の渇きを癒そうと思い立って冷蔵庫を開け、冷えた麦茶をコップ二つに注いでテーブルに置く。「座ってよ」と促すと、陵平は不貞腐れたような泣きそうな顔をして無言で椅子に座った。


 テーブルの真ん中には母親の書き置きと千円札が三枚。つい、いつもの癖でため息を吐く。


「今日は土曜日だったんだな」と、私は言うと陵平はこくんと頷いた。


「また、汽車に乗ってどこかに行く気なんだろ?」


 ―――その通り。美貴のことは放っておけない。


「行くよ」と、私は答えた。


「わかった。俺も一緒に行く」


 彼の決意は固いようだ。


 説明するのが面倒だし、正直に言えば私自身この問題を持て余している。かといって何もせずに美貴を放っておけない。それはきっと、陵平も同じなのだろう。彼は私を放っておけないのだ。「好きにすれば」と、私は格好つけて言い放った。



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