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ダークサイド 真実は闇の中  作者: 森 彗子
第4章
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心霊探求 2

 青い空がまぶしい。


 白い雲がまるで綿菓子のようにふわふわと漂っている穏やかな風景だ。足元には青々とした芝生に、クローバーやシロツメクサの群生が広がっている。


 幼い少女の笑い声が聞こえて振り返った。

 黒髪が長い品のある女性が幼い娘と手を繋いで歩いていた。そして、シロツメクサの花畑に座り娘が無邪気に摘んでいく花を母親が編み始めた。


 ―――あれは、美貴と母親なのか?


 私は呆然とそれを眺めていた。そこにいつもとは違う性質のビョンデットの声が脳裏に響いた。


「それは美貴さんの楽しかった頃の思い出です。彼女本体を探してください」


 思い出に浸っているのだろうか。ならば、近くにいそうだ。

 幻影の中を一歩踏み出た途端に、ゆらぎが生じた。それをきっかけに一瞬にして荒んだ廃墟に変わていく。気付けば部屋の真ん中に、まるで廃人のように佇む背の高い少女が立っていた。


「美貴?!」


 私の声がまるで合図となって、閑散としていた室内の空気が急に動き出したのを感じる。蠢くような気味の悪い気配に取り囲まれ、逃げ道を塞がれたような感覚に陥った。それでも、恐怖をなんとか胸の中に押し込め耐え忍ぼうと思えるのはビョンデットの存在のおかげだ。


 ―――よし、行ける。


 美貴の周囲にあの忌まわしい気の塊が黒いクラゲのように漂っていた。あれに触れたらいけない、と本能が訴えてくる。ゆらゆらと長い糸を吐き出しては隙間なく行く手を阻むその黒クラゲとしばらく睨み合いが続いた。


 ―――全然進めない。ビョンデット、何とかして!


 心の中で訴えると、突然足元に静電気のような白い閃光が走った。

 薄暗い部屋が一瞬だけ真っ白い光に包まれたと思ったら、黒クラゲは全部消えてしまった。


 さらには眩しさが刺激となって、美貴の目はカッと見開かれた。キョロキョロと周辺を見渡し、私に気付くと驚きの余り表情が弛緩していく。


「美貴!!」


「まどか?!」


 弾かれたように正気に戻った美貴が私に向かって手を伸ばした。でも、何かに阻まれて指先がはじき返され、互いに触れ合うことは出来なかった。


 何かをささやいているようにも聞えるザラザラとした雑音が部屋に充満して、再び白い閃光が部屋を照らしたかと思ったら、私の背中を掴んだ手によって突然の空間移動に入った。



 気が付けば、美貴の病室のベッド脇で倒れていた。美貴を見ると、冷たい顔をしたビョンデットが冷酷無慈悲な眼差しを注ぎながら耳慣れない言葉をブツブツとつぶやいていた。


「なにがどうなったの?」


 私が立ち上がると、ビョンデットはやっとこっちを見てくれたが、酷い顔色だ。元々真っ白い肌だけど、今は青みが差して死人に近い。


「美貴さんの魂はあの場所に捉われています。おそらく、悪魔の仕業です」


「悪魔? 悪霊じゃなくて?」


「同じですよ」


 ビョンデットはよろめいた。


「大丈夫か?」

 

「いえ。今のでかなり消耗しました」


 そう言った途端、ビョンデットは崩れ落ちた。

 その指先が透けて見え、今にも消えてしまいそうな程に弱っているのがわかる。


「な……ちょっと、これ。ヤバいんじゃないの?」


「あなたを送り届けたら私はしばらく休みます。その間、無理な事はしないでください」


 ビョンデットはそういうと消えかけている指先でなにかを空に描いた。

 すると瞬きをする早さで私は自分の部屋に戻っていた。


 ベッドの上に飛び起きて、私はビョンデットを呼んでみたけれど、反応がまったくない。


「ビョン……」


 驚くほど心細くなっている自分の肩を抱いた。親猫とはぐれた迷子の子猫の心情に近い。ビョンデットの護りがない間、悪魔に見つかりでもしたら最悪だ。不安なあまり頬に温かいものがゆっくりと伝って落ちていく。


 ふと、硫黄の臭いが鼻を突いた。


 咄嗟に布団に潜り込もうとしたが、金縛りにかかってしまった。


「感じる。アイツの匂いだ」


知らないヤツの声が部屋の中から聞こえる。


「この女がヤツの」


「そのようだ」


黒板を爪でひっかいているような甲高いノイズの中に男のものと思わしき声が複数聞こえる。


「この子にどんな価値がある?」


「中には何もないようだが」


「違う。ヤツが結界を張っているせいでわからないだけだ」


ヒソヒソと喋っているが、全部こちらに聞こえているとは考えていないようだ。


「何を企んでる?」


「アイツは人間になると言っていたな」


「そう。我々とは違う方法で」


「とはいえ、アイツはたった一人だ」


「ヤツ一人でなにが出来る?」


「警戒するに越したことはない。お前はこの女を監視しろ」


「わかった」


声はどれも聞き取り難いラジオのようだったが、はっきりと解ったのは連中はビョンデットを知っているということだ。


 何を企んでいる?


 違う方法で人間になる?

 それって、どういう意味……?


私は朦朧としながらも、じっと時が過ぎるのを待った。





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