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ダークサイド 真実は闇の中  作者: 森 彗子
第4章
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心霊探求 1

 金髪のたてがみの白い馬がいる。

 その馬の額から青白い角が真っ直ぐに生えている。しかも背中には翼まである。

 見た事があるようでない架空の生物が今、目の前に現れたのだ。驚かない方が無理だ。


「まどか」


「う、馬が喋った!!」


「驚かないでください。私ですよ」


 その声、喋り方、落ち着き。


「まさか、ビョンデットなの?」


「そのまさかです」


 馬のくせにドヤ顔をするなんて、どこから突っ込んで良いのかわからない。取り合えず、大きな鼻先に手を乗せてみると、馬は大人しく目を閉じた。猫みたいな反応だ。


「おまえ、正体は馬だったんだな」


 そんなわけない、とわかっていながら馬鹿々々しいことをつい言ってしまう。


「いえ。これはいわゆるひとつのコスチュームです」


「……コスチュームっていう次元じゃないと思うけど」


 真面目な返答に、自分よりもくそ真面目過ぎるビョンデットになぜか愛嬌を感じた。


「私に乗って下さい。美貴のところに行きますよ」


 予想通りの展開。私は遠慮なく背中に飛び乗った。


「座り心地悪いんだな。せめて鞍はなかったのかよ?」


「贅沢言わないで下さい。あなたは幽体離脱中なんですから、そんな三次元的なものに拘らないで」


 三次元的なものって……?

 時々、ビョンデットの言葉が理解できない。ものを知らない私はわからないことさえもとぼけてしまう。あとで辞書引いて調べてみようと思うものの、いつもついつい忘れてしまう。


 歩き出した馬の背の揺れが激しすぎて、思わず鬣を掴んだ。自分の髪を鷲掴みされた時の不快感を想像して、手を離してしまう。


「どうして離したんです?」


「だって、痛いんじゃない?」


「大丈夫ですよ。しっかり掴まってくれないと振り落としてしまうかもしれません」


 ビョンデットはそう言うと、私を乗せた途端に立ち上がって駆け出した。


 地面なんて見えないのに、確かにひずめのような気持ちのいい足音が響き渡る。そして見る見るうちに家の屋根の上に出ると、あっという間に空高く飛び上がった。大きな翼を広げたペガサスが夜の風となって駆け抜けていく。


 車で走る速度の何倍ものスピードで私はさっきまで居た室蘭の上空にやって来た。そして、ビョンデットは何の説明もなくいきなり市立病院の建物めがけて降下した。最終的にはエレベータに乗っているような具合に停まり、降りたところは薄暗い病室だった。


 私は馬から降りてフラフラになりながら、寝台に横たわっているその人に近付いた。

 美貴は目を開けたまま天井を見詰めていた。その瞳は白目の領域まで真っ黒に染まっている。


「黒い目は悪魔の証です」


 ビョンデットは馬の姿から器用に変身した。今度は金髪の長い髪を垂らした背の高い美貌の君だ。顔は小さくて体の線は細く、瞳の色が蒼の湖のように青い。美しすぎて目を奪われるより目を反らしたくなるのは、惑わされそうで怖いせいかもしれない。


「まどか。集中してください」


 厳しい口調で怒られた。こんな理不尽なことはない。

 元はと言えばビョンデットがこっちの心情を無視した姿で、私の心をかき回してくるせいだろうに。


「お前がそんな格好で出てくるのが悪い」と非難すると、哀しそうな顔をされた。


「それもコスチュームなんでしょ? ほかの選択肢は?」


「人間の恰好はこれひとつです。私の生前の姿のままなんですが」


「……まじかよ」


「何が問題ですか?」


「目の毒ってやつだ」


「差別です」


「たしかに」


 生前の姿って言ったな。こいつは昔、人間だったんだ。どこかの国の王子様だったとか?

 リアルでこんな美形男子がいたら、世の中の女どもは殺到するに違いない。

 そんなどうでも良いことを考えていると、ポカっと側頭部を叩かれた。


「美貴の肉体の中に居るのは、黒い目の悪魔です」


 そう言われて、やっと美貴を観察した。

 私は右手を美貴の顔の前で振ってみたが、反応がない。


「あちらから我々は見えてないようです」


 ビョンデットが説明してくれる。


「あなたも今、肉体を離れた霊体になっているんですよ。私が傍にいる限り安全です」


 そう言うと奴は背後から突然私を抱き締めた。

 細いと思った体が密着すると、男らしさを感じてドキドキしてしまう。ただでさえ父親不在で男に免疫がない私に容易く触れるだなんて、良い度胸だ。この野郎。


「普段気付かないでしょうけど、こうしてあなたをいつも護っています」


 私は堪らずその手を振りほどこうと思った。だが、体が全く反応しない。動けない。


「私から離れて動き回れる時間はとても短いのです」


 私とビョンデットは親子カンガルーのようにくっついた状態で美貴を見下ろた。しばらくそんな時間が過ぎたが、これが長いのか短いのかよくわからなかった。最初かなり気恥ずかしい気分になったが、ビョンデットのエネルギーを感じているうちに異性として意識した自分が恥ずかしくなってしまう。


「充電が終わります。今、扉を開けるので中に入って直接美貴さんに声をかけてきて下さい」


 そう言うと、ビョンデットは手の平から何か法具のようなものを出して、それを美貴の体の上にかざした。すると驚いたことに美貴の体に大きな亀裂が入ったかと思うとばっくりと開いた。


 背中を掴まれた私はビョンデットの手でその中に放り込まれた。





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